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78 きな臭い情勢

 高度治療センターが建設されて、丁度1年が経つ頃、私はルミナから呼び出しを受けた。領主館に向かう。

 そこにはオーソドさんやプラクさんをはじめとする名立たる道場主や魔王、ゴーケンやオデットなどの猛者も勢揃いしていた。そして、ルミナの父親で、バンデッド領の領主であるバンデッド伯爵もやって来た。

 これだけで、絶対に何かあると予想できてしまう。


 バンデッド伯爵が言う。


「国際情勢は大変な事態になっている。一言で言うと、戦争が起きるかもしれない」


 会場は騒然となる。

 少し落ち着いたところで、バンデッド伯爵は話を続ける。


「教会から、我がニシレッド王国は邪教徒の国との認定を受けてしまった。そして、多くの国がこれに賛同して、我が国を攻めようとしているんだ。戦争を回避する条件として、到底受け入れられない条件を突き付けて来た。その条件というのが、直ちに武装解除して、国王陛下の退位、コーガルを含めたバンデット領の大半を教会の直轄地として割譲することだ。そうしなければ、聖戦の名の下に討伐軍を差し向けるとのことだった」


 魔王が質問する。


「それにしてもおかしな話じゃな。聖戦と言うが、具体的に何をしたのじゃ?」

「まずは表向きの理由からお伝えしますね・・・・」


 あくまでも教会側の言い分だが、「バンドラ王国で、獣人やエルフと共に大量虐殺を行った」、「コーガルで怪しいアンデットを大量に作り出しているし、普通に魔物を大量に飼っている」、「高度治療センターという名目で、禁忌の術を研究している」などらしい。

 どれも、そう言えばそうかもしれないし、ほとんど私がやっていることだ。


「その他にも、闘技場で血塗れショーという怪しいショーが定期的に開催されていたり、ある施設からは、四六時中うめき声と悲鳴が聞こえるというのもありましたね。これらの状況証拠から、邪教徒認定されたようです」

「それなら、何とでも言える。では本当の理由は?」

「大きくは二つ。バンドラ王国と獣人国ベスティとの戦争で圧倒的に勝ち過ぎたこと。そしてもう一つは、高度治療センターです」


 バンデッド伯爵の話では、バンドラ王国との戦闘でイシス帝国の派遣部隊が8割戦死したそうだ。イシス帝国は、それでかなり恨みを持っているそうだ。


「略奪しに行って、返り討ち遭っただけの話だが、そうもいかないようだ。それに多くの兵士がアンデットに変えられているからね。そして、占領政策においても・・・」


 獣人国ベスティの占領政策はかなり良心的だった。賠償金もかなり安くしていたし、不可侵条約を結び、亜人や獣人への差別を禁止する法律を作らせただけだ。


「バンドラ王国は実質、イシス帝国の属国だったのだが、その支配が無くなり、真の独立国になった。そして、後ろ盾は我が国になったことが気に食わないそうだ。それに教会の影響力もなくなった。そうなるとイシス帝国や教会が支配している国や地域が独立やその支配から脱却しようとする動きが加速する」

「逆恨みもいいところじゃのう?」

「その通りです。バンドラ王国も喜んでいるし、そもそもバンドラ王国は獣人国ベスティへの侵攻はイシス帝国に命令されて行ったようです。もちろんイシス帝国は認めませんがね。続いて高度治療センターについてですが、これは教会を激怒させてしまいました」


 バンデッド伯爵が言うには、教会の儲けが激減したからだそうだ。多くの国や地域で教会に頼らなくなった。というのも、高度治療センターは多くの総合治療師を輩出した。総合治療師は高度治療センターが独自に認定しているもので、幅広い知識と一定以上の技能を習得した者にだけ認定している。最近では、この資格を取りに多くの留学生がコーガルにやって来ている。言わば、治療師の道場のような場所になってしまっている。


「この動きは加速している。隣国のレコキスト王国やバンドラ王国に留まらず、別大陸でも多くの国が高度治療センターに似た施設を設立している。そうなると教会の独占状態だった治療院の儲けは出なくなる。教会の治療院の多くが閉鎖されたそうだ。これも逆恨みだが・・・」


「本当に愚かな奴らじゃな・・・ではニシレッド王国に味方してくれる国はどれだけいるのだ?」

「現時点では、獣人国ベスティ、エルフの国、バンドラ王国、そして隣国のレコキスト王国だけですね。外交部が必死で説得工作をしていますが、良くて静観してくれるにとどまるでしょうね」

「そんなところじゃろう。それで回答期限は?」

「半年後です。丁度、国際会議が開かれるので、その時に正式回答を出す予定です。ただ、無血開城したところで、結果は同じでしょうが・・・」


 少し言葉を切った後にバンデッド伯爵は言った。


「戦争は避けられないと思ってもらいたい。それでゴーケン殿、ティーグ殿、オデット殿、シェリル殿は、これ以後は王都において、ニシレッド王国軍として運用する。そのつもりでいてくれ。そして、血塗れ傭兵団はコーガル軍直轄部隊として運用を考えている。私から伝えることは以上だ。何かあれば、遠慮なく言ってもらいたい」


 ここで魔王が意地悪そうな笑みを浮かべながら言った。


「エミリアよ。ほとんどの原因を作ったのはお前じゃろ?何か言っておくことはないのか?」

「そ、そんな・・・私は・・・」


 これにはルミナが助け舟を出してくれた。


「マオ様!!お言葉ですが、エミリアお姉様は、一生懸命に世のため、人のために頑張っています。その・・・勘違いされることも多いですけど・・・」


 ドノバンも続く。


「エミリア先生は、戦闘や拷問以外の時はいい人です」


 戦闘や拷問を頻繁にしている時点で、いい人ではない気はするが、それでも二人の気持ちは伝わった。


「半年後に戦争が起こるとして、私たちにできることはありますか?」

「イシス帝国が攻めて来るとして、狙っている場所はコーガルと王都だ。このどちらも守らなければならない。概算だが戦力差から考えて、コーガルに国軍の応援部隊は来られないと思ってもらいたい。コーガルの領兵と血塗れ傭兵団だけでの戦いとなるかもしれない。そうなってもいいように戦力をアップさせてほしい」


 本当に無茶ぶりだ。こんなことは勇者がやることだと思うんだけど・・・

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