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77 いつもの展開

 教会と拷問所の中間地点に建てられたのは、「高度治療センター」という最先端の治療院らしい。

 神父のフランシスが言うには、魔法研究者、回復術士、薬師、神官などが協力して治療にあたる施設だそうだ。


「これで難病に苦しんでいる人たちや、部位欠損で困っている人たちを治療することができます。特に教会は、自分たちの儲けが減ると思って、他の機関と協力してきませんでした。ここなら、より患者に合った治療ができます」


 怪我や病気の症状によって、最適の治療法は変わってくる。ポーションが最適の者もいれば、回復魔法が最適の者もいるからね。拝金主義の教会は、患者のためではなく、一番高い治療を選択したり、教会よりも他の機関で治療したほうがいい場合でも、自分たちで治療していたという。


「ここで各機関の専門家が協力して治療、研究することで、最適な治療法が確立できると思っています。この制度が広がって行けば、多くの人々が幸せになるでしょう。これもすべてエミリア様のお陰です」

「あのう・・・私のお陰って、どういうことでしょうか?」

「だって、エミリア様がここの建設費用を全額支払ってくれましたし、それに私どもの寄付金を使ってもらうように頼んだのですが、ムサール様から『その金は患者のために使え』と言われまして・・・」

「そ、そうですか・・・ちょっと、用事を思い出したので、これで失礼します」


 酔いが一発で覚めた。

 私は急いで道場に戻って、キュラリーさんに事の詳細を尋ねた。


「しかしエミリア先生にはびっくりしましたよ。遺族年金の前借り制度を利用して、こんな大それたことをするなんてね・・・」


 遺族年金とは、従軍して殉職した場合、遺族に支払われるものだ。実はこの制度では、前借りができる。趣旨としては、従軍するのに最低限の装備を揃えなければならないから、お金がない人も、それなりに装備を整えさせてやろうという国からの計らいだ。当然殉職すれば、前借した分を差し引いて、遺族に支払われるのだが、運よく生きて帰ってきてしまったら、国に返さなければならない。その者の返済能力に応じて、限度額は計算されるのだが・・・


「キュラリーさん、私の限度額って?」

「白金貨1000枚ですね」


 白金貨1000枚!!日本円で約10億!!


「エミリア先生は返済実績もあるし、国一番の道場主だから、当然ですよ」

「つかぬことをお伺いしますが、全部使ってしまったということで、よろしいでしょうか?」

「そうですね。建設費用とは別に余った金額は、設備投資に使ってしまいましたけど」


 な、なぜだ・・・

 私が何をしたというんだ!?


 そういえば、祖父が出動前に色々と書類の手続きをしていた。あの時は、「これが今生の別れになるかもしれん・・・」とか涙ながらに言ってきたので、見落としたけど、あれは何かの委任状だったと思う。うっかりサインしてしまったけど、これがその結果か・・・

 流石の「返し突き」も祖父の工作の前には無意味だと思い知らされる。


「ちょっと、契約内容を確認させてください」

「いいですよ。それにしても、出資した高度治療センターの権利をすべてコーガル領に寄付するなんて、普通はできませんよ。私だったら、多少は権利を残しますけどね」


 絶望的な契約だった。

 まず私はニシレッド王国から白金貨1000枚を借り入れる。そしてその白金貨1000枚すべてを高度治療センターに投資する。そして、その高度治療センターはコーガル領に寄付したというわけだ。つまり、私個人に白金貨1000枚(日本円で約10億円)の借金だけが残り、権利を放棄しているから、高度治療センターがどんなに収益を上げたとしても、銅貨1枚も入って来ないのだ。


 クソジジイ!!今度という今度は!!


 怒り狂った私はレイピアを携えて、祖父を探し回った。そして見付けた。居たのは高度治療センターの前だった。何やら明後日の式典の準備をしているようだった。祖父に斬り掛かろうとダッシュし始めたところで、親子連れに声を掛けられた。


「貴方がエミリア先生ですね!?本当にありがとうございます。この子が助かると思うと・・・」


 母親は泣き崩れた。母親が連れていたのは10歳くらいの女の子で、右腕が石化している。コカトリスの毒が解毒できずにこうなってしまったそうだ。


「フランシス先生に聞いたら、1ヶ月したら治るんだって!!だから、治ったらママのお手伝いをいっぱいするんだ!!エミリア先生ありがとう」


 それに気付いた祖父が言う。


「エミリア!!祖父としてこんなに誇らしいことはないぞ!!皆も喜んでくれておる。開所式は明後日だが、待ちきれない患者たちを受け入れているんじゃ」

「そ、そうですか・・・よかったです・・・」


 もう何も言えなくなってしまった。


 2日後、私は主賓として開所式に出席した。来賓や関係者から、これでもかというくらい、感謝や称賛の言葉をいただく。ここまで来ると、権利を主張することも借金を減額してもらうように要望することも出来なくなった。

 私は作り笑いを浮かべながら、スピーチを始めた。


「・・・高度治療センターが多くの人を幸せにすることを心から願い、私の挨拶に代えさせていただきます」



 ★★★


 高度治療センターはコーガルの中心的な施設となった。国内外から多くの患者がやって来た。高位の貴族や王族なども訪れる。また、部位欠損がある手練れたちも多くやって来て、多くの者が治ったら帰るでもなく、ホクシン流剣術道場の門下生となってしまい、猛者クラスは更にレベルアップしてしまった。


 救いといえば、国からの報奨金が出て、それを全額借金の支払いに当てたのと、ルミナからの特別報奨、魔王からの特別手当によって、借金が白金貨500枚まで減ったことだ。それでも日本円で約5億の借金を背負っているのだが・・・


 また、高度治療センターは実験施設でもあり、多くの素材が必要になる。なので、冒険者活動を頑張り、コツコツとデモンズラインやデモンズ山で、素材採取に明け暮れている。キュラリーさんの話では、上手くいけば、10年以内に完済できるとのことだった。


 そして、今回の件を含めて、私は男爵位に陞爵した。国から年に白金貨3枚が支給されるのだが、全額借金返済に当てられるので、全く手元には入って来ない。


 多分、私はすごくいいことをしたと思う。

 でもなぜか、やるせない気持ちでいっぱいだ・・・


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