73 援軍
突然現れた獅子族の女性はライオネス・ベスティという獣人国ベスティの王女らしく、隣国バンドラ王国が攻めて来るので、援軍を出してほしいという要望を伝えに来たようだ。
「我らもバンドラ王国単体であれば、どうとでもなる。しかし、非公式だがイシス帝国が乗り出してきている。1対1ならば負ける気はせんが、イシス帝国の人命軽視の人海戦術は、我らと相性が悪い。頼む、少しでもいい、エルフの力を借りたいのだ」
ここでルーデウスが言う。
「我らを頼って来たことは、評価してやろう。しかし、我らに何の得があるというのだ?」
「それは、我らベスティが落ちれば、次はエルフの国ということになる。だったら、最初から共闘した方が得であろう?」
「しかし、我らはここで戦う限り、最強だ。援軍を・・・」
言い掛けたところで、驚きの人物が話を遮った。グルン研究員だった。
「なりません!!無礼を承知で進言いたします。私は故郷を失った遊牧民族ステップスの出身です。私たちも大草原で戦う限りは、最強だと自負しておりました。しかし・・・」
普通にやっては大損害が出ると考えたイシス帝国は、驚きの作戦に出る。
土を掘り返し、魔力を吸い取り、豊かな草原やそこに点在する森を片っ端から荒れ地に変えたのだという。そして、今では砂漠にされてしまったそうだ。
「私たち遊牧民ステップスの存在価値は、大平原を守ることだと、先祖代々教えられてきました。その辺はエルフと通じるところがあります。その大平原が失われるのなら仕方がないと、イシス帝国に降伏しました。しかし、そこからは更なる地獄でした。故郷を追い出され、部族は散り散りになり、大草原も半分は砂漠にされてしまっています。そうなっては遅いのです。アイツらは、侵略するためなら、平気でこの森を禿山にするくらいのことはします。ですので・・・」
グルン研究員の気持ちもよく分かる。獣人国を退け、エルフの国に攻め込んできた時点で、森に大きな被害が出るのが確定だ。そうなると、エルフだって得意の森での戦闘ができなくなる。森を愛しているエルフからすると、怒って突撃をする者も出て来るかもしれない。
魔王が言う。
「ライオネスとやら、我は魔族を統べる王、マオじゃ。エルフが戦うのであれば、ダークエルフとエルフの盟約に従って、援軍を出してやってもいいぞ」
「ま、魔王様!?これは何たる幸運!!有難い・・・」
エルフの女王が言う。
「グルン殿が言うことも一理ありますね。援軍を出す方向で話を進めましょう。ところでグルン殿、貴殿もこの戦争に協力してくれますよね?」
「もちろんですよ!!」
ここでルミナが待ったを掛ける。
「女王陛下!!少しお待ちを!!グルンはニシレッド王国国立魔法研究所の職員です。ですので・・・」
言い掛けたところで、グルン研究員が遮る。
「だったら辞職します。それでいいですよね?」
「私も」
「私もだ」
「そうするわ」
「同じく」
次々と主任研究員が辞職を申し出る。困ったルミナが言う。
「私も自領に多くの獣人を抱えています。できるなら援助はしてあげたい。しかし、私の一存ではどうすることもできないのです。一旦、本国に帰り、検討する時間をください」
エルフの女王が言う。
「突然のことなので、十分検討してください。そしてどのような態度を取ろうとも、私たちの友好は変わりませんよ」
ここで宴会は、なし崩し的にお開きになった。ライライは、たらふく料理を食べたので、文句を言うことはなかった。
その後、ルミナが文官たちと協議をしていた。聞く気はなかったが、話が聞こえてきた。
「してやられましたわ・・・いい人そうに見えて、あの女王は強かですわね」
「そうですよ。事前に魔王にも根回しは済んでいるし、研究員たちの事情も把握していたのでしょうね。そして、わざわざ宴会の最中に偶然を装って、ライオネス殿を登場させるなど、なかなかできることではありませぬ」
「しかし、困りましたね。心情的には応援はしたいのですが・・・」
「難しいですな。イシス帝国と正面切って事は構えたくありませんし、かといってエルフとの友好関係を台無しにするのもどうかと・・・」
結局、結論は出なさそうだった。
★★★
次の日、急遽帰還することになった。
私とポン、ポコ、リン、ルミナ、ドノバンは今後の対策を協議するため、フランメに乗って、ニシレッド王国の王都オーギスに向かった。王城に突然、ドラゴンが舞い降りたことで、多少のパニックにはなったが、すぐに国王陛下は対応してくれた。
「話は分かった。即答せずに答えを持ち帰ったことは評価してやろう。それでだが・・・」
国王陛下も悩んでいた。
エルフとは友好関係を築きたい。かといってイシス帝国と正面切って事を構えたくはない。それで出した結論は・・・
「援軍は出す。しかし、それはニシレッド王国としてではない。義勇兵という形でな・・・」
何ともご都合主義なことだ。
コーガルにいる獣人から有志を募って、援軍を送る。しかし、エルフには応援部隊と言うが、イシス帝国から質問があった時には、「義勇兵が勝手に行きました」と答えるそうだ。
「それで、その義勇兵の取りまとめを傭兵団に依頼しよう。血塗れ傭兵団にな」
何だ?そのイカれた名前の傭兵団は?
私がキョトンとしていると、国王陛下が言う。
「エミリア、お主の傭兵団に依頼しよう」
「はい?」
「分かるな?この意味が?」
ルミナが言う。
「陛下!!それはあまりにも・・・」
宰相がルミナを窘める。
「エミリア殿も貴族です。貴族には義務があります。それにこうするより他に手はないのです。陛下に代わり、少し国際情勢をお話しします」
前にも聞いたが、イシス帝国はニシレッド王国の領土も狙っている。獣人国ベスティやエルフの国を平定した後は、間違いなくニシレッド王国に刃を向けて来ると予想できる。なので、ニシレッド王国としては、獣人やエルフの味方をしたいが、大ぴらにはできない。なので、考えた策がこれだった。元々、エルフと友好関係を築こうと思ったのも、イシス帝国に攻められたときのことを考えてのことだったようだ。
「我からエミリアに求めることは一つ。イシス帝国の侵略を許すな」
どうやら、私は戦場に立たなければならないようだった。
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