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71 エルフの国

 あれから1ヶ月、第二回目となる他国への出張指導が決定した。行先はなんとエルフの国だ。これにはそれぞれの思惑が入り乱れる。まず、同盟を成立させたいダークエルフのアーブルたちとエルフのリナラデスたちの思惑、それに魔王の久しぶりにエルフの女王に会いたいという個人的な理由、ニシレッド王国の思惑も複雑に絡み合う。

 ニシレッド王国としては、エルフの国と親交を深めたいが、亜人や獣人の排斥を訴えているイシス帝国や教会との関係もあり、親交を深められずにいる。そこで考えついたのは、出張指導を利用することだった。高位貴族で、領主でもあるルミナとドノバンを派遣するのだが、表向きは出張指導の指導者という建前にしたのだった。


 そういう理由で、出張指導は大所帯となった。

 いつものポン、ポコ、リンとルミナ、ドノバンに加えて、コーガル在住のエルフとダークエルフ、それに魔王軍関係者、ニシレッド王国の文官や研究者とその護衛という総勢50名になってしまった。そうなると、移動はフランメとウインドルだけでは足りず、急遽フランメの両親と風竜王にもお願いすることになった。彼らは快く引き受けてくれた。子供たちの頑張る姿を見たいというのが本音のようだ。


 実際、ウインドルも真面目に頑張っている。文句を言わずに資材搬送や人員の搬送を黙々とこなしているからね。

 もちろんフランメもだ。魔王も感心してウインドルを四天王見習いに昇格させた。ミミとメメと同じように、フランメとセットで四天王見習いというわけだ。


 そして私たちはエルフの国にやって来た。

 エルフの国はエルフの森と呼ばれる大森林地帯を囲むように町が形成されていた。リナラデスが解説する。


「エルフの国は世界樹がある大森林を守るために存在しているのだ。そのために町が大森林の周りに建設されているのだ。最悪は、町を犠牲に森に引き籠って侵略者を討伐せねばならんからな」


 種族によって考え方の違いがあって面白い。


 王都に着くとすぐに王城に案内され、リナラデスの母親である現女王と謁見することになった。かなりの年齢だというが、20代前半にしか見えない。


「私はエルフの女王、ラグドラシアです。娘のリナラデスから事情は聞いています。世界樹の件、また、ダークエルフの件につきまして厚く御礼を言います。まずは、ダークエルフとの同盟について、すぐに調印をしたしましょう」


 アーブルが言う。


「それは有難い。これからも末永く・・・」


 そう言い掛けたところで、遮られた。


「母上!!もう一度、考え直していただきたい!!純血である我々と混ざり物とが同盟を組むなど許せません」

「ルーデウス!!控えなさい!!客人の前ですよ」


 リナラデスが言う。


「アーブル、愚弟が申し訳なかった。恥ずかしながらこの馬鹿は、純血主義者なのだ・・・我も昔はそうであったが、エルフの国から出て、多くの種族と交流を重ねる内に井の中の蛙であったことが分かったのだ。この愚弟は外の世界を知らんからな」

「姉上!!そもそも姉上が・・・」


 そんな中、魔王が口を開く。


「ルーデウスとやら、純血エルフの何が優れているのか、教えてくれんか?」

「そ、それは・・・弓の扱いは世界一だし、魔法も剣も・・・」

「だったら丁度よいぞ。わらわたちは、剣術を教えに来たのじゃからな」


 アンタは教えないだろ!!


 というツッコミは止めておいた。


 ここで少し、エルフの国の内部事情に触れておくと、大きく分けて二つの派閥に分かれている。純血エルフこそが、最も優れた種族であると信じて疑わない純血主義と、利益があるならできる範囲で交流を持つべきだという考えの多種族共存主義に分かれている。女王とリナラデスは多種族共存主義、リナラデスの弟のルーデウスは純血主義で、その代表格のようだ。


 ★★★


 結局、模擬戦をすることになった。

 まずは剣での模擬戦だ。こちらはドノバン、リン、アーブルが出場し、ルーデウスが率いるエルフたちに圧勝していた。ルーデウスが言う。


「ま、魔法だ!!魔法で勝負だ」


 こちらは、ルミナ、アーブルが戦い、これも圧勝だった。


「エルフと言えば弓だ!!弓が使えないと話にならん」


 今回はアーブルとポコが出場となった。エルフに伝わる伝統の弓合わせをするらしく、先行と後攻に分かれて、先行がまず的に向かって矢を射り、その時使った技を後攻が再現できればポイントとなる競技だった。

 結果はというと、勝負がつかなかった。実戦ではどうかは分からないが、エルフとアーブルやポコとの差はなかったのだ。エルフが自慢気に披露した技も、ポコたちがすべて再現していたからね。


「そ、そんな・・・弓も・・・」


 ルーデウスを筆頭にした純血主義のエルフたちは、打ちひしがれている。そこに魔王が声を掛ける。


「剣も駄目、魔法も駄目、得意の弓も大差ない・・・もう一度問おう。何が優れているのか、教えてくれんか?」


「そ、それは・・・」


 エルフの女王が割って入る。


「マオ!!その辺で勘弁してもらえませんか?ルーデウスたちも、十分に理解したと思いますからね」

「うむ、ならばよい」


 女王は続ける。


「ルーデウス、それに皆もよく聞きなさい。なぜ私たちエルフが他種族との交流を絶ったか、分かりますか?私たちが優れた種族だったからではありません。それは私たちの寿命が他種族に比べて、非常に長いからです。ルーデウスを含め純血主義者は、この国から出たことがない者がほとんどです。貴方たちは、知らないでしょう?一生懸命に育てた他種族の赤子が、私たちよりも先に亡くなる辛さを・・・」


 一旦、女王が言葉を切る


「それでも、他種族と交流したいと思う者は国を出ました。ダークエルフが多くいるのも、比較的長命種が多い魔族と交わったからだと推察されます。どちらが正しいとも言えません。それがいつの間にか、自分たちが優れた種族だから他種族と交流する必要はないという考えに変わっていったのです。それに私たちが得意とする弓ですが、武器の特性上、ある一定のレベルまで達すると差がつかなくなります。そのレベルに達するのは、並大抵の修行では到達できません。しかし、私たちには長い寿命があります。100年修行すれば、誰だってある一定のレベルまでは習得できます。また、他国への侵略を考えていない以上、森での戦闘に適した弓をすべての国民に習得させることは、大変有効な政策でした」


 エルフが引き籠った理由も、弓にこだわりがある理由も分かった。


「私たちが世界で一番優れた種族でもないように、弓も世界で一番優れた武器でもないのです。この地で戦う限りは世界一かもしれませんが、他の場所で戦うのなら、もっと適した武器や戦術があるはずですからね。ルーデウス、貴方もまだ若い。外の世界を経験してみても、いいかもしれませんね」


 ここでルミナがすかさず言う。


「だったら、ホクシン流剣術道場への入門をお勧めしますよ。出張指導を経験してからでも遅くはありませんが、多くの種族が入門していますし、初心者にも丁寧な指導をしていますから、どうぞ、お越しください」


 ルミナとしては、エルフの国とのつながりを作るための案だったのだろう。ルミナも貴族らしく、強かになったものだ。


「それもいいかもしれませんね。ルーデウス、出張指導が終わり次第、同行させてもらいなさい」

「はい・・・」


 そんな風にいい感じでまとまりそうなところで、またライライが騒ぎ出した。


「ライライライライ!!」


 また、食べ物を要求している。


「すみません。この子に食べ物を・・・」


 女王が言う。


「こちらは?」

「雷獣のライライじゃ。いい子じゃが、食いしん坊でな」

「ら、雷獣様!?す、すぐに宴の準備を!!お待たせしてはなりません」


 エルフの国でもライライは高待遇の接待を受けるのであった。

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