70 道場の今
ウインドルをテイムした私たちは、ダークエルフの里に向かった。
ダークエルフの里の世界樹は、見るからに回復していた。これなら大丈夫だ。すぐにグルン研究員に声を掛ける。
「しばらくは経過観察で大丈夫ですよ。助手を1名こちらに残しますし、半年程して、また確認に来ればいいと思ってます。半年後にはそれなりの魔石が採取できるはずですからね」
その魔石を何に使うのかは、聞かないことにした。
それと私たちが風竜の里に行っている間にエルフの姫リナラデスは、ダークエルフの族長やアーブルと協議をし、今後はエルフとダークエルフが協力関係を築くことで合意していた。
「これで母上の承認が得られれば、同盟は成立だ。悪いのだが、エルフの国に・・・」
「それはこのアーブルが参ろう」
「そうしてくれると助かる。我も今回の件で、他種族と交流する必要性を感じた。今後はダークエルフだけでなく、ハーフエルフとも協力関係を築こうと思っている」
エルフの国は排他的で、純血主義だから虐げられているハーフエルフを救済するなんて、考えもしない。それがダークエルフと協力するのだから大きな進歩だ。
そんなこんなで、魔王領第一回目の出張指導は終了した。
★★★
コーガルに帰還して、各種手続きを済ませた後に向かったのは、魔法研究所だ。これも道場主としての視察ということにしている。所長のマホットが迎えてくれる。
「エミリア殿、今日は拷問所ではなく魔法研究所の視察とな?」
「そうです。少し気になったことがありまして・・・」
私はダークエルフの里で知ってしまったグルン研究員やデミコフ研究員の野望について訪ねた。
「ふむ・・・この研究所、いや、大陸中にイシス帝国を憎んでいる者は多くいる。その中でも主任研究員たちは、比べ物にならないくらいの闇を抱えている」
主任研究員とは、各部門の責任者のことで、植物研究部門のグルン、魔石研究のデミコフがそれに当たるという。
「主任研究員は5名、いずれも優秀な研究員じゃ。グルンとデミコフの他にも、薬品部門のポーラ、アンデット研究部門のネクロデス、ゴーレム研究部門のカイラがいる。皆、イシス帝国に対して、大きな恨みを抱えている」
カイラ研究員もそうだったのか・・・どうせ、イシス帝国にキラーゴーレム君を大量に送り込むとか言うのだろう。
「特にデミコフとネクロデスは激しい恨みを抱いている。ネクロデスなどは、目の前で家族を惨殺されておるからな・・・」
「し、しかし・・・イシス帝国の蛮行は聞き及んでいますが、それでも都市ごと吹き飛ばすなど・・・」
「その危険性は十分理解している。しかし、今すぐに彼らを野に放ってみろ、それこそ悲惨なことが起きてしまうぞ。それならば、国として管理をした方がいい。100点の対応ではないかもしれんが、他に手はないしな」
彼ら5人は、ホクシン流剣術道場でいうところの猛者クラスだろう。道場の猛者たちも、酒場で喧嘩する程度で済んでいる。そう考えると、彼らを野に放つと、大変なことになることは分かりきっている。
「エミリア殿、思うところは分かるが、しばらくは静観しておいてもらいたい」
「分かりました。何か特異事項がありましたら、すぐに報告をお願いします」
しばらくして、マホットは言った。
「もう少し話したいことがある。場所を移動せんか?」
★★★
マホットに案内されたのは拷問所の資料室のようなところだった。
「ここからは、拷問所所長としての話じゃ。まずはこれを読んでくれ」
報告書には、驚きの事実が記載されていた。
「こ、これは・・・」
「つまり、全てがつながっているということじゃ。決定的な証拠はないが、そう思っても間違いはない」
「そ、そんな・・・」
「そう考えないほうがおかしいじゃろう?」
俄かに信じがたい。王女の誘拐から始まり、バンデット領への工作、ホクシン流剣術道場への工作、そのすべてがつながっているということだった。
「こんな極秘情報を私に見せてよかったのですか?」
「エミリア殿は拷問主任官じゃからな。守秘義務があろう?」
「それは、そうですが・・・」
「悪の黒幕を暴き出し、打ち倒せとは言わん。儂が言いたいのは、これからも工作活動や事件は続く可能性が高く、それらに対処してほしいということじゃ。貴殿にも大切な家族や仲間がいるじゃろ?」
それはそうだ。お祖母様も、金に汚い祖父も大切だし、幼馴染のポン、ポコ、リンも教え子のルミナやドノバン、道場の関係者も守りたい。
「多くは言わん。今、この国は危機に瀕しているということじゃ。エミリア殿、自分にできる限りのことをすることじゃ。そうすれば、危機は回避できるかもしれん」
絶句している私にマホットは言う。
「今すぐに何かしろということではない。とりあえず、助けを求めて来た者を見捨てずに助ければいいじゃろう。ムサールやエルザもそうして来たしな」
拷問所を出た私は、放心状態だった。当てもなく町をぶらつく。そんな時、ライライが私の胸に頬を擦り付ける。
「ライライ!!」
こ、これは・・・
ライライは私にエールを送っているのではなかった。食べ物を要求しているのだ。
「アンタはもう!!」
不思議と肩の力は抜けた。そう言えば、コイツも私が助けたんだったな・・・
ライライもルミナもドノバンも、あのとき、私が助けなければ、今はなかった。つまり、今まで通り、やっていけばいいんだ!!
私はライライに声を掛ける。
「出張指導では肉ばかりだったから、今日は魚の気分ね。ライライ、それでいい?」
「ライライ!!」
まあ、お前は何でもいいんだろうけど・・・
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次回から第七章となります。どんどんと話が大きくなっていきます。
 




