69 ドラゴン指導
フランメの両親、ドラフェンとドラレスの相談というのは、以前にも話のあった風竜の指導だった。
「先日のドラゴン会議で、風竜王から相談を受けまして、もう限界に近いらしいのです。風竜王の息子ウインドルは1000年に1度の逸材で、風竜からごく稀に生まれる暴風竜だったのです。絶大な力を持っており現風竜王をもってしても抑えきれないようです。そして、かなり我儘な性格で『雷獣を従えて、真の支配者になる』とも言っているのです」
「仕方がない。エミリアよ。フランメを更生させた実力を遺憾なく発揮して、ウインドルとやらを更生してみせよ」
「は、はい・・・」
勢いで「はい」と言ってしまったが、これは想定外だ。すぐに出発準備をすることになった。同行するのは私とライライと魔王、セバス、ミミとメメだけだ。後のメンバーはダークエルフの里に置いていくことになった。
かなり高速に飛行したので、半日で目的地に到着する。そこは風竜の棲み処で、そこら中に強そうなドラゴンがいっぱいいた。ミミとメメなんかは、それを見ただけで、涙目になっていた。早速、私たちは風竜王に紹介をされる。
風竜王は、緑色の鱗を持つ巨大なドラゴンだった。
「マオ様、この度はわざわざお越しいただきありがとうございます。我が息子ウインドルは手が付けられないくらいの暴れ竜に育ってしまいました。かなり遅くに生まれた子で、甘やかして育てたのがよくなかったのかもしれません。主人が亡くなってからは、誰もウインドルを押さえられなくなり、恥ずかしながら、ドラフェンとドラレスに助力を願ったのです」
「心配するでない。こちらのエミリアは、ドラゴンの指導の専門家であるからな」
おい!!魔王!!勝手にハードルを上げるな!!
私はしがない剣術道場の道場主だと言っているだろうが!!
風竜王に紹介され、風竜王の案内で件の馬鹿ドラゴンの元へ向かう。ウインドルが居たのは、大きな山の頂上だった。取り巻きのドラゴンに囲まれ、そのドラゴンたちに偉そうに何か指示をしていた。
「早く雷獣を見付けてこい!!この能無しどもが!!」
そんな中、全く空気を読まないフランメが声を掛ける。
「久しぶり!!ウインドル。まだ馬鹿なことをやってるの?ちょっとは大人になりなさいよ」
「なんだフランメか・・・そういえばお前は、人間のような下等生物に従っているらしいな?」
「人間は寿命が短いだけで、決して下等生物ではないわ。それに私が師事しているエミリア先生は、雷獣様を従えているしね」
「な、なんだと!?雷獣だと!?」
ウインドルの目が私を捉える。
「なるほど・・・つまり、世界の覇者となる俺に雷獣を献上しに来たというわけだな?おい、そこの人間!!早く雷獣をこっちに持ってくるんだ!!」
傲慢なドラゴンだった。最初に会ったときのドノバン並みに態度が悪い。事前情報で、フランメと同年代の幼竜ということは知っていたので、思春期の反抗期ドラゴンのような印象を受ける。私は毅然とした態度で言う。
「人に物を頼むには態度というものがあります。それでは恐喝しているのと変わりありません。まずは自己紹介をして、要望があるならそれからです」
これに風竜王が続く。
「そうよウインドル。お客さんには・・・」
言い掛けたところで、ウインドルが遮る。
「うるせえ!!ババアはすっこんでろ!!」
完全な反抗期だ。
フランメが煽る。
「エミリア先生!!ちょっと痛い目を見せてあげてよ!!この聞かん坊は、口で言っても駄目よ」
経験者は語るというやつか?
いつの間にかウインドルと決闘をすることになってしまった。
★★★
決闘のため、周囲に結界を張っている間にウインドルの特徴を聞く。攻撃は遠距離からのウインドブレス、接近戦では前足や尻尾での攻撃に加えて、前足や尻尾に風魔法を纏わせて攻撃してくるようだ。風魔法の扱いは非常に上手く、前足や尻尾に風魔法を纏わせての攻撃は間合いが非常に取りづらく、多くのドラゴンが彼に屈したそうだ。ドラゴン版の魔法剣士ティーグのような戦法だろう。
決闘が始まるとすぐに私はライライ剣を発動した。これはウインドルがフランメ並みに回復能力が高いので、私のレイピアの攻撃だけでは、ダメージが与えられないと思ったからだ。早速接近戦に持ち込む。
「俺を恐れずに向かってくるとは、その勇気だけは認めてやろう。ウインドドラゴンスクリュー!!」
風魔法を纏った前足が私を襲う。当たれば確実に私はミンチになるだろう。当たればだが・・・
「返し突き!!」
いつも通り、「返し突き」を発動する。ウインドルの前足は空を切って、地面を大きく抉る。そして私のレイピアがウインドルの腹部にヒットした。
「グギャー!!い、痛い!!」
全くダメージは与えられていないが、激しい苦痛は与えられているようだ。
「お前!!絶対に許さないからな!!」
怒り狂ったウインドルは、更に向かってくる。風魔法を上手く操作して、間合いのズレを狙っているようだが、私のスキルの前には無力だ。再度、ウインドルの悲鳴が響き渡る。それが何度も繰り返される。
「何で当たらないんだ?クソ!!」
次第にウインドルは涙目になっていく。
「グギャー!!痛い、痛いよ!!」
しばらくして、ウインドルは攻撃は止め、蹲ってしまった。そして、体が子犬サイズまで縮んでしまった。
「痛いのは嫌だよ!!もういじめないで!!ウウウウッウッ・・・」
とうとう泣き出してしまった。幼児退行というやつだろうか?
これでは私がドラゴン虐待をしているように見えてしまう。周囲の空気が凍り付く中、ライライが私とウインドルの間に入る。
「ライライライライ!!」
ライライは律儀にいつもの役割を演じていた。
「ら、雷獣様・・・ありがとう・・・」
ウインドルは鼻をライライに擦り付ける。いつの間にか、テイムに成功していた。
★★★
ウインドルが落ち着いてから、話を聞く。
ウインドルは暴風竜として生まれたのだが、体が小さく、同年代のドラゴンからは馬鹿にされて育ったようだ。それでも一生懸命に努力して風魔法を覚え、実力をつけていった。戦闘では負けなくなり、母親の風竜王でさえもウインドルに勝てなくなった。そうなると、いじめていたドラゴンたちが、手の平を返すようにウインドルに媚へつらうようになる。それで勘違いしたらしい。力こそすべてだと。
「僕が世界の支配者になれば、もういじめられないと思ったんだ。ご、ごめんよ・・・」
環境がそうさせたのかもしれないが、いじめられるか支配するかの二択しかないと思っている節がある。こんな状態になったのは、上手くコミュニケーションが取れないのが原因だと思う。
魔王が言う。
「風竜王よ。妾にウインドルを預けてみんか?フランメの例もあるしのう」
「是非、お願いします。ウインドル、それでいいわね?」
「はい!!」
私が面倒を見るドラゴンがもう一匹増えてしまった。将来、ホクシン流剣術道場にドラゴン更生コースが誕生するかもしれない。そんなことを思っていたら、ライライが激しくキレ始めた。
「ライライライライライ!!!!」
また、食い物を要求している。
最近、ライライは厚かましくなった。コイツにも指導が必要かもしれない。しかし、ライライ剣がないと対応ができない相手が最近多すぎるので、そんなに強くも言えない。問題児の門下生の親には、「あまり甘やかさないように」と指導しているが、自分がライライを激しく甘やかしている現実がある。
駄目だ!!ここは厳しく指導しないと・・・
しかし、私の思いは脆くも崩れさる。
ライライが、今度は涙目で悲しそうに鳴く。
「ライライ・・・」
またしても私は、ライライの愛くるしさに屈してしまった。
「ライライに餌をお願いします!!それもすぐに!!」
「はい!!すぐに!!ウインドル!!貴方が持ってきなさい」
「はい!!」
それからすぐに大宴会が始まってしまった。
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