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68 ダークエルフの里

 3日後、ダークエルフの里へ出発した。

 メンバーは、私、ライライ、魔王、セバス、ミミとメメ、アーブルの魔王軍メンバーにエルフのリナラデス、グルン研究員と助手3名だ。

 前回、出張指導に行ったメンバーは、業務多忙で、来ることはできなかった。みんな行きたがっていたけどね。みんな責任ある立場だから仕方ないと思う一方、仕事がほぼない私って一体?と思ってしまう。


 移動はフランメだけで行った。フランメの両親も行きたかったみたいだが、大事な会議があるらしく、残念がっていた。この時点で、私の仕事はドラゴンにも負けているのだった。


 ダークエルフの里に着くと、異様な雰囲気に包まれていた。

 期待と不安が入り混じった感じだ。族長の男性が挨拶をする。因みにアーブルの父親だ。


「マオ様、お越しいただきありがとうございます。それで本当に世界樹が復活するのですか?」

わらわに聞かれてもそれは分からん。専門家を連れて来ただけだからな」


 魔王がグルン研究員を紹介する。


「研究者のグルンです。早速、世界樹を見せてください。それで、枯れた原因が分かれば対処の仕様がありますからね」


 すぐに枯れた世界樹の元に案内された。びっくりするくらい巨大な木だが、一目見て枯れていると分かる。早速グルン研究員が、世界樹を触ったり、周りの土を掘り返したりして調査を始めた。そして、1時間くらいして、グルン研究員が言った。


「世界樹が育つ環境ですね。安心してください」


 これには多くのダークエルフたちが歓声を上げる。ダークエルフの族長が言う。


「で、ではすぐにでも苗木を・・・」


 言い掛けたところで、グルン研究員が遮る。


「というか、この木はまだ生きてます。これから回復作業に入りますから、明日には若葉が芽吹くでしょう」


 これには、ダークエルフたちが静まり返った。しばらくして、彼らは騒ぎ出した。


「生きているって・・・」

「完全に枯れているじゃないか!!」

「嘘を吐くな」


 これには魔王が一喝した。


「黙れ!!まずは詳しく話を聞こう。それからじゃ!!」



 ★★★


 グルン研究員が説明を始める。


「この症状は、エルフの里の世界樹と同じ魔力過多症ですね。世界樹の特性として、周囲の魔素を吸収し、吸収した魔素を魔力に変換して生命維持や成長に使っています。ただ、魔素の吸収が一定以上を越えると世界樹は魔素を吸収しなくなり、休眠状態に入るのです。このまま放置しても300年くらい経てば、元の世界樹に戻ると思います」


 アーブルが質問をする。


「となると、このまま放っておけということか?先ほど回復できると言ったが?」


「それでも構いませんが、こちらで治療を施せば、魔素の吸収を始めますね。そうなるとすぐに元通りになると思いますよ。戻った後の措置も確立されつつありますから安心してください」


 すぐに治療に入ったグルン研究員を皆で見守る。


「今のところ、皆さんにやってもらうことはありませんので、ゆっくりと休んでいてください。詳しいことが知りたければ、研究論文をお持ちしましたので、そちらを見ていてください」


 研究論文を確認する。

 何らかの理由で、魔素が大量に放出され、それを過剰に吸い込んだことが魔力過多症になった原因だと記載されていた。魔素と魔力の違いだが、現代日本でたとえるなら、魔素が原油、魔力がガソリンのような関係だった。魔素を魔力に変換して初めて、魔法などに応用できるという。

 治療の具体的な手順だが、まずは休眠期を終わらせるポーションを振りかけて様子を見る。それで魔素が吸収され始めたら、吸収促進ポーションを与える。後は状況を見ながら、最適なポーションを与えていくみたいだ。そして、半年程して回復しきったら、今度は魔素が溜まり過ぎないように魔素を魔石に変換する魔道具を取り付けて、魔素のコントロールをするとの記載があった。


 魔王が言う。


「魔法研究所は存外、素晴らしい施設かもしれんな。尖り過ぎた研究員を集め、それをうまく協力させている。所長の手腕が素晴らしいのだろう」


 グルン研究員は優秀だが、それだけでは世界樹を回復させることはできなかっただろう。ポーション類は、別の研究者が担っているし、魔素から魔石を作り出す魔道具は、あの「魔石を大量に集めて、都市ごと吹き飛ばす」とか言っていた研究員の研究成果だしね。そして、趣味が拷問のマホットも魔法研究所の所長としては有能なのだろう。


「そうですね。皆変わった人たちですからね。でもそういう人たちが活躍できる場を提供することができて、道場主としては、嬉しい限りですよ」


 そんな会話をしていたところ、ライライが大声で鳴き始めた。そして、私の胸に飛び込んで来て激しく、頬擦りをする。


「ライライライライライ!!!!」


 見た感じ、かなりキレている。私はライライを宥めながら思った。コイツは、餌を要求している。今までの出張指導などでは、着いてすぐに大歓迎され、その流れで宴になり、たらふく美味しい物を食べる。これがいつしかライライの中でパターン化されていたようだ。しかし今回は、いつまで経っても宴が開かれないし、美味しい物も出て来ない。それで激しくキレたのだろう。


 おい!!ライライ!!お前は何も仕事してないだろ?


 そう言う訳にもいかず、私は族長に申し訳なさそうに言った。


「すみません。この子に餌をあげたいのですが・・・」

「こちらは?」


 ここでフランメが言う。彼女も餌を欲しそうにしていたからね。


「こちらは雷獣のライライ様だよ。多分、お腹が空いて機嫌が悪いんだよ」

「ら、雷獣様!?これは失礼いたしました。すぐに用意させていただきます。たちまち新鮮なフルーツを持って参りますので、ご容赦ください」


 ライライとフランメは、すぐに持って来られたフルーツをむしゃむしゃ食べている。

 魔王に聞く。


「あのう・・・雷獣様ってどういうことでしょうか?」

「何じゃと!?お主はそんなことを知らずにライライの世話をしておったのか?」

「は、はい・・・」

「仕方あるまい。説明してやろう・・・」


 魔族や古竜種の間には古い伝説があるという。それは「雷獣を従える真の支配者が世界を制する」という伝説だ。雷属性を持っている魔物は非常に珍しく、魔王もライライ以外に会ったことはないそうだ。だから、雷属性を持っているライライが、伝説の雷獣である可能性も十分にあるという。


「まあ、あくまでも伝説じゃ。魔族領のどの部族も雷属性の魔物には、敬意をもって接することになっておる。もしライライが伝説の雷獣であったなら、エミリアが真の支配者になるだろうがな・・・」

「そ、そんな・・・」

「そういうことじゃ。エミリアは、今までどおりにライライと接するだけでいいと思うぞ。今の時代、真の支配者など必要はないからな」


 思わぬところで、ライライの秘密を知ってしまった。もしライライが伝説の雷獣なら、私が「雷獣物語」続編の黒幕になってしまう。となると・・・今後は、いつ来るかも、分からない勇者に怯えながら人生を送ることになるのか?


 パーミラに会うまでは、あれだけ待ち望んだ勇者だったが、今度は勇者が来ないことを願い続けるなんて、とんだ皮肉だ。



 ★★★


 グルン研究員の作業は一昼夜続いた。

 そして、次の日の昼に奇跡が起こった。枯れたと思われていた世界樹から若葉が芽吹き始めた。芽吹き始めてから若葉はどんどんと目に見えて成長していく。ダークエルフたちは涙を流して喜んでいた。アーブルが言う。


「父上!!奇跡です!!宴を開きましょう!!それも盛大に」

「そうだな!!おい!!ありったけの酒と料理を持って来い!!宴だ!!」

「「「「オオオオオー!!」」」

「ライライライライ!!」


 ライライは例のごとく「宴」という言葉に反応する。

 そこから大宴会が始まった。グルン研究員はというと、宴に参加せずに黙々と作業をしていた。私は気を遣って、食べ物を持って行った。


「少し休まれては?」

「気にしないでください。植物たちが元気を取り戻すのを見るだけで、私は元気になれますからね。これで私の夢に少し近付いたと思うと、それだけで十分ですよ。エミリア殿も宴を楽しんでください」

「夢ってなんですか?お伺いしても?」

「そうですね・・・無茶な開発をして、私の故郷の草原を砂漠にしたイシス帝国の奴らを皆殺しにすることですかね」


 聞かなければよかった・・・コイツも狂ってやがった。


 私の気も知らないで、グルン研究員は熱く、おぞましい夢を語り始めた。


「最初は、植物の恨みを晴らそうと、人食い植物の研究をしていたんですよ。でも、魔石で都市ごと吹き飛ばす魔法を研究しているデミコフと出会いまして、人食い植物よりも彼の研究に協力したほうが近道だと思いましてね。なので、世界樹から大量の魔石を確保できれば、憎きイシス帝国の奴らを吹き飛ばしてやれるんですよ。デミコフの故郷もイシス帝国の奴らに蹂躙されたようですし、魔法研究所にはそういった研究員が多いんですよね」


「そ、そうですか・・・頑張ってください」


 私は意味不明に激励の言葉を掛けて、その場を立ち去った。魔王軍の四天王で、雷獣を従え、マッドサイエンティストを大量に抱えている私は・・・


 はい!!黒幕決定です!!


 失意の中、私は自棄酒をかっ喰らう。そんな時、また厄介な奴らがやって来た。フランメの両親だ。ドラフェンが言う。


「マオ様、実は折り入って相談が・・・」


 また厄介事でしょ?

 もう何が来ても驚かないよ・・・

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