67 エルフとダークエルフ
アーブルというダークエルフの女性が話始める。ダークエルフはエルフと同じく長い耳が特徴で、みんな美形揃いだ。正直羨ましい。エルフと違う点は肌の色だ。透き通るような白い肌をしているエルフに対して、ダークエルフは褐色の肌をしている。
「エルフとダークエルフには因縁がある。元は同じ種族だったのだが、我らダークエルフの祖先は、閉鎖的で排他的なエルフ社会に嫌気がさして、外の世界に飛び出した。そこから、独自の集落を形成する者や人間と交わりハーフエルフと呼ばれる種族が誕生した。我らダークエルフは魔族と交わった結果だ」
そこで一旦、アーブルは言葉を切った。
ゲームでもエルフは閉鎖的で排他的な種族として描かれていた。それだけに勇者たちと心を通わせたのを見た時は感動したものだった。
「話は100年以上前に遡る。我らダークエルフの里にも、エルフの森と同じように立派な世界樹が生えていた。その世界樹は我らの誇りだった。しかしあるとき、世界樹が枯れ始めた。原因を調査しても分からなかった。そこで私を含めて有志を募り、エルフの森に助力を願いに行ったのだが・・・」
アーブルが言うには、かなりの塩対応をされたようだ。
まず、弓の技能を確認されたそうだ。森に引き籠って戦うスタイルのエルフとは違い、ダークエルフは、弓が得意な者よりも、魔法剣士のほうが数が多く、戦術も近接攻撃をメインで戦うようになった歴史がある。厳しい魔族領の環境でも生き残れるためにそうなったようだ。なので、弓の技能に関してはエルフに大きく劣るそうだ。
「その時にエルフどもに言われた言葉を私は今でも覚えている。『弓も碌に使えない混ざり物を助ける義理はない』とな・・・今では、エルフの森の世界樹も枯れかけているというから、皮肉なものだがな」
ここで、まだ酔いが覚めていないポコが言う。
「世界樹?あれは復活したらしいわよ。それにコーガルに普通に生えているしね」
「な、なに!?く、詳しく教えてくれ」
これまでの事情を私が代表して説明する。
「そんなことが・・・信じられん・・・」
アーブルを含めたダークエルフたちは驚愕の表情を浮かべている。
魔王が言う。
「そんな重大なことなら、妾に言えばよかったのじゃ。何とかなったであろうに・・・」
「し、しかし、我らの世界樹はもう・・・」
多分、時間経過から言って、魔王に言ったところで、復活はできなかっただろう。アーブルたちの悲しい気持ちが、こっちにも伝わってくる。そんな時、またポコが発言する。
「だったら、苗木をもらって、また育てればいいじゃない!!肥料や薬代は掛かるけど、みんなでお金を出し合ったり、協力すればいいと思うのよね」
「また、我らがあのエルフどもに頭を下げろと言うのか?」
「大切な木なんでしょ?それぐらいしたら、どうなのよ」
ポコの言っていることは間違っていない。しかし、言い方と空気というものがあるだろうに。
まあ、酔っているからできたことかもしれない。
★★★
次の日、私たちの帰還に合わせて、アーブルがコーガルに同行することになった。ポコの話に感銘を受けたらしい。
「ポコ殿、礼を言う。貴殿に叱ってもらって気付いた。我らは意固地になっていた。世界樹のことを思えば、どんな屈辱にも耐えられるからな」
「そ、そう・・・頑張りましょうね・・・」
どうやら、ポコは昨日の記憶がほとんどないらしい。
コーガルに帰還すると、細かい手続き関係はキュラリーさんとパーミラに任せて、私たちはエルフの居住区に向かった。アーブルは巨大な世界樹を見て、感嘆の声を上げる。
「し、信じられん・・・立派な世界樹だ!!」
そこにやって来たのは、エルフの姫リナラデスだった。
「ダークエルフか?珍しいな。おお・・・貴殿はダークエルフの姫アーブル殿ではないか?」
「もしやリナラデス殿か?」
二人は面識があるようで、挨拶を交わす。過去の因縁もあるようだが、そのことを気にせずにアーブルは素直に頭を下げた。
「頼む、この通りだ!!我らに世界樹の苗木を譲ってほしい!!」
「いいぞ、必要なだけ持って行けばいい」
あれ?あっさり解決?
そこからアーブルとリナラデスは昔話に花を咲かせていた。リナラデスが言う。
「アーブル殿がエルフの国を訪れた時、我も興味本位で貴殿らと面会したのだが、剣技や魔法、戦闘力を含めて、我らエルフは驚愕したものだ。そして、一部のプライドの高いエルフは、それが許せなかったらしく、貴殿らがあまり得意ではない弓で貴殿らを貶めることにしたのだ。だから、あのような仕打ちをしてしまった。それに世界樹を回復させる方法など知らなかったから、弓や生まれを理由に追い返したのだ。後にこれを知った我は、責任者に制裁を加えてやったがな。本当にすまなかった。深く謝罪する」
「もう昔のことだ。水に流す」
「そう言ってくれると有難い。世界樹についてだが、我らよりも詳しい人物がいる。その方を紹介する。その方がいなければ、エルフの森の世界樹も枯れていたからな。今も来ているから、紹介しよう」
そういう流れで、過去のわだかまりは解消された。
リナラデスの紹介でやって来たのは魔法研究所の研究員のグルンという緑色の髪をした青年だった。魔法研究所では主に植物の研究をしているそうだ。グルンが言う。
「苗木から育てるのであれば、一度候補地を見させてください。どこでも育つわけではないのです。話はそれからですね」
「なら、すぐにお願いしたい」
「いいですよ。ただ、準備に3日は掛かりますから、早くて3日後の出発になりますが、よろしいでしょうか?」
「それで、報酬なのだが・・・」
「要りませんよ。魔法研究所から給料は貰ってますし、今回も研究に使えますからね。向こうでの滞在費や経費だけ見てもらえたら助かりますがね」
グルンは、魔法研究所の研究員には珍しく、まともな印象を受けた。
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