66 出張指導 2
出張指導に同行するのは、こんな感じだ。
道場関係者 私、キュラリーさん、パーミラ、おまけのライライ
魔王軍関係者 魔王、セバス、ミミ、メメ、ゴブキチ、ゴブコ、指導者となる予定のゴブリン5名
講師 ポン、ポコ、リン、ルミナ、ドノバン
ドラゴン3体に分乗して、現地に向かった。
到着すると、大歓迎された。すぐに宴が催される。居住区の代表者が挨拶を述べる。
「マオ様、それに古竜の皆様、そして先生方、この度は我が集落に来ていただきまして、本当にありがとうございます。訓練指導は明日からなので、今日はゆっくりと宴をお楽しみください」
「うむ、お主らも息災そうで、何よりじゃ。困ったことがあれば、遠慮なく言うがよいぞ」
「滅相もありません。ここまでよくしていただいて、本当に有難いです」
その日は楽しく、お酒や料理をいただいた。料理もお酒も美味しく、ライライなんかはすぐにゴブリンたちに懐いて、いつも以上に食べていたけどね。お前は指導しないのに、呑気なものだと思ってしまう。
次の日、早速訓練指導が始まった。
指導を初めて、びっくりした。もうすでにほとんどの住民に私が教えることはなかったのだ。魔王が言う。
「ここの者はほとんどが、ホクシン流剣術道場の初級の免状は取得しておる。ここで指導してもらいたいのは、この者たちだけで、魔物からの防衛ができるようにしてもらいたいのじゃ」
この地域は魔族領だけあって、出没する魔物も格段に強い。今までであれば、戦闘が得意なオーガやダークエルフを常駐させて凌いでいたそうだが、それを自分たちだけでやらせようと思っているようだ。
そうして私は、魔王と一緒に視察するだけになった。まず最初に見たのは、ゴブキチがゴブリンたちに指導をしていた。それもワイルドウルフの乗り方を中心にだ。
「ゴブリンライダーが有用な部隊ということが分かってな。魔王軍にも取り入れることにしたのじゃ。ワイルドウルフが足りなくなったら、エミリアにまた頼むかもしれんがな」
捕獲や最初の調教をするのは、今のところ私しかできないからね。
続いては、ドノバンが指導している場所を視察した。いつも通り、集団行動を指導していた。ドノバンに話を聞く。
「コーガルで指導したゴブリンたちが、小隊長をしてくれているから、指導は楽だよ。一般兵に限って言えば、大陸最強と名高いイシス帝国軍よりも練度が高い。文句は言わないし、真面目だしね。ウチに来る貴族の子弟の新兵なんて、二言目には『なぜ、こんな馬鹿みたいなことを高貴な俺たちが・・・』と言うからね」
「そう言うけど、ドノバンも最初は酷かったのよ。みんな苦労してたしね」
「それを言われると恥ずかしいよ。これでもエミリア先生やルミナ、みんなには感謝しているんだよ」
こちらも問題なく指導ができている。
続いて、ポンの斥候部隊への指導やポコの弓兵への指導、リンの剣術指導を視察した後、ルミナの魔法部隊への指導の視察に向かった。
そこで驚きの光景を目にする。
特大の強力魔法をゴブリンたちが連発していた。ゴブリンは魔法が得意な種族なのかと思ってしまったほどだ。ルミナが言う。
「集団魔法ですね。魔法研究所で都市ごと壊滅させる危ない研究をしている研究員がいたと思うのですが、彼の理論を応用したのです。彼は魔石を利用していましたが、今回は魔導士を多く集めて、実施したのです。理論上可能というのは分かっていたのですが、息を合わせて、魔法を発動するのは難しく、机上の空論と思われていたんです。でも、ゴブリンたちは集団行動が得意で、我が強くないので、可能なんです。魔導士は総じて、我が強くて、我儘な者が多いですからね」
「ルミナもその一人だったんだけどね」
「はい・・・自覚はしています。本当に恥ずかしい・・・あの時、エミリアお姉様に助けてもらわなかったらと思うとぞっとしますよ・・・」
集団魔法は、ゴブリンの魔力量が少ないので、そんなに数は撃てず、発動までに時間が掛かるのがネックだと言う。集団魔法の訓練を繰り返し、個人個人の魔力量を増やす訓練を重点的に行うとルミナは言っていた。
魔王が言う。
「この調子であれば、ここに常駐させている。オーガやダークエルフを他に回せるな。魔王軍は人材不足じゃから、非常に助かる」
最後に私たちは、居住区の管理事務所に来ていた。ここでは、キュラリーさんとパーミラが訓練管理の方法や資材や物資の補充などを指導していた。代表者が言う。
「なるほど・・・いかに私たちがどんぶり勘定だったかが分かりました。訓練後に訓練に対する評価や次回に向けた目標を記載させるのはいいですね」
「私もそうやって強くなりましたからね。課題を見付け、どうしてたら克服できるかを試行錯誤する。仕事も剣術も一緒ですよ」
「大変、参考になります」
こちらも順調なようだ。
しかし、勇者が指導する内容が、兵站関係なんて、ゲームを知っている者からすれば、びっくりだろう。ゲームの勇者は、脳筋的な考えの奴だったのにね。
★★★
あっという間に1週間が過ぎた。訓練の最後にワイルドボアの群れを狩るイベントも無事に終了する。斥候部隊がワイルドボア5体を発見、ゴブリンライダーが上手く罠地帯まで誘導し、魔法部隊の集団魔法が完成するまで、弓兵隊と近接戦闘部隊が遅滞戦闘を行う。そして、特大の集団魔法で一気に勝負を決めた。
魔王も絶賛する。
「見事じゃ!!皆よく頑張った!!今宵は宴じゃ。気分がいいぞ」
討伐したワイルドボアをみんなで解体し、宴が始まった。もう明日は訓練指導がないので、みんな結構飲んでいた。そんなときに事件は起きた。
酔ったポコが宴会芸をすると言い出した。
「ちょっと私が面白い技を見せてあげるわ!!カービングショット!!」
前に見せてもらった急に矢の軌道が変わる技だ。そして、新技も披露していた。
「天空の矢!!」
遥か上空に何本もの矢を撃ち、しばらくして、それが一塊になって的に降り注ぐ。見物していた者たちから歓声が上がる。
「どう?凄いでしょ?まだまだあるんだよ!!」
そう言ったところで、ポコに詰め寄るダークエルフの女性がいた。
「き、貴様!!なぜ、人間のお前が魔弓術を使えるのだ?」
「なぜって、そりゃあエルフの先生に習ったからよ」
「そんなわけあるか!!あの高慢ちきなエルフが人間になどに教えるはずはない」
「教えるはずはないって、普通に教えてくれたし・・・結構丁寧に教えてくれたけど・・・」
ここで、魔王が止めに入る。
「アーブルよ!!その辺にしておけ!!まずは、事情を聞こう」
もめごとは一旦治まったが、場の雰囲気は凍り付いていた。
また、厄介事を背負い込む気がしてきた。
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