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65 出張指導

 デモンズ山の開発は順調に進む。

 最初こそ、救援出動の嵐だったけど、今はかなり落ち着いている。商人たちが共同で出資して、強力な護衛を雇い、貴重な薬草やキノコなどを採取することが流行始めてからは、救援出動の回数は激減した。

 というのも、コバンザメ戦法をする者が続出しているからだ。この商人の集団にこっそりとついて行って、おこぼれにあやかる作戦だ。魔物が出て来ても強力な護衛が何とかするからね。凄い人になると、コーガルの町から商人集団について行って、帰りも一緒に帰るという戦法を取る者もいる。ある意味、才能があるのかもしれない。


 それと、フランメの両親とも仲良くなってしまった。

 山開き以降、頻繁にデモンズ山に夫婦揃って現れる。娘が一生懸命に働く姿を見るのが楽しみなのだという。その時は決まってお土産を持ってきてくれる。当初は宝石類だったのだけど、ライライが全く興味を示さなかったので、今では珍しい肉類がほとんどだ。私としては、道場の借金と父親の借金があるから宝石のほうが嬉しいんだけどね。

 今もライライとフランメがむしゃむしゃと肉を頬張っている。


「ライライ!!」

「パパ、ママ、美味しいよ」


 デモンズ山のボスという設定のフランメが、資材や人員の搬送をしていていいのかと思ったが、魔王が言うには、それで構わないと言う。


「細かいことを気にするでない。世界観も大事じゃが、それよりもフランメの成長のほうが、わらわには大事じゃ。どうしてもというなら、ドラフェンかドラレスをボスに設定にしてもいいし、何ならエミリアがボスになってもいいぞ」


 流石にそれは丁重にお断りした。


 そして、私にも嬉しいことが起きる。

 フランメの両親から貰った宝石と魔王からの特別手当で、借金が完済したのだ。意気揚々と道場の定例会に臨む。しかし、その喜びは一瞬で消え去った。


「えっ!!また校舎を増設するですって!?それも国から借金をして!?」


 キュラリーさんが説明をする。


「道場への入門希望者が殺到してしまい、訓練施設や学問を教える校舎を新設しないと受け入れができないのです。これは国からの命令に近い形になります。こちらとしても、補助金を要請したのですが、それだとバンデット領ばかりに補助金を出すことになってしまい、他領から不満が出ると言って、断られました。汚い話ですが、建前として、こちらからの校舎増設のために借金をお願いするという形になってしまいました。お力になれず、すいません」


「そ、そんな・・・何とか断ることはできないんですか?」


「というのも、先日ゴブリンをまた、500名ほど門下生として受け入れましたよね?あれで、入門を断られた貴族たちが『我らはゴブリン以下の扱いなのか!?』と激怒したそうです。それで国としても対処しないといけなくなったみたいでして・・・」


「だってあれは・・・」


 最近は、入門希望者が多いので、オリエンテーション合宿を入門前に行っている。趣味のソフト模擬戦クラスであれば、そんなことはしないのだが、正規の門下生は全員参加してもらっている。その時に何人かの貴族の子弟は、あまりにも素行が悪く、厳しく指導したら逃げ出してしまった。そのことを言っているのだろう。

 結果として、入門を断ったことに違いはないが、そこに至る過程は、自分たちの都合がいいように改ざんして、国に報告したのだろう。


 これは非常に不味い。

 というのも、私は魔王軍四天王として、魔王軍の強化をしなければならない。その強化方法は、ホクシン流剣術道場に対象者を入門させるだけなのだが、汚い話、斡旋料として道場から、一人金貨1枚を貰っているのだ。そうなると、この商売自体が成り立たなくなってしまう。それに魔王にも報告しなけらばならい。


「以上の状況から、断ることはできません。それと今回文句を言って来た貴族の溜飲を下げる意味でも無利子での融資はできないということでした。因みに保証人は道場の代表であるエミリア先生になります」


 借金を返したら、無理やり借金をさせられるだって!?

 一体、私が何をしたというんだ!?


 そんな時、祖父がまた意見を言った。


「ホクシン流剣術道場の基本は来る者拒まずじゃ。実力や資質に関わらず受け入れることが、我らの使命じゃ。金の問題ではない!!」


 おい!!お前がそれを言うか?あれだけ、「金を出せ」と言っておきながら・・・


 結局、祖父の一言が決め手になり、国から借金をして新校舎を増設することが決まってしまった。

 本当にやるせない・・・



 ★★★


 次の日、早速魔王に報告する。


「近いうちに今度は、300人程受け入れを頼もうと思っていたのじゃがな・・・」

「新施設が完成するまでは、受け入れは厳しいですね」

「だったら、アレをやってもらおう」


 魔王が言い出したのは出張指導だ。ニシレッド王国全土で行っているアレだ。最近では私が直接出向くことは、ほとんどない。あっても年に1回あるかないかだ。指導者も増えたし、国全体にホクシン流剣術道場の支部ができているからね。


 魔王は何も考えていないようで、ホクシン流剣術道場やニシレッド王国の内部事情を把握している。


「ゴブリンの居住区を中心に、まずは3箇所ほど出張指導を頼む。最初じゃからわらわも同行するし、ゴブキチとゴブコも同行させる。集団行動もさせたいから、ドノバン殿の同行も調整してくれ」

「結構な大所帯となりますが、移動は?」

「フランメとドラフェンとドラレスが居れば大丈夫じゃろう。急ぎの案件があれば、すぐに帰還できる場所を中心に考えておるから心配はするな」


 ということで、私は出張指導をすることになった。とりあえず、まずは1箇所に1週間で調整をする。この調整作業は難航した。指導者となる者の日程が押さえられなかった。悲しいかな、もちろん私ではない。私のスケジュールはいつもどおり、スカスカだ。

 結局、領主のルミナが隣国である魔王国に表敬訪問するという建前にして、何とか指導者を押さえることができた。


 ルミナが言う。


「ドラゴンに乗って旅をするのも楽しそうですし、何よりみんなと昔のように旅ができるのが嬉しいんですよ。私もドノバンも忙しいですから、こういったことでもないと自由に旅もできません」


 私としては、経費のすべてを魔王が払ってくれるし、特別手当も貰えるから有難いけど、ルミナたちも喜んでくれると、それはそれで嬉しい。

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