64 山開き
開発は順調に進む。
二合目の拠点には、冒険者ギルド、商業ギルド、宿泊所が完成した。また、飲食店や宿泊施設もどんどんと建設されていて、ちょっとした開拓村程度の規模にはなっていた。
街道に目を移すと概ね完成していた。
細かい整備は必要だけど、馬車が行き交うことも可能にはなった。ここで活躍したのはゴブリンたちとゴーレムだった。まずゴブリンたちだが、ワイルドウルフに跨って、ゴブリンライダー隊となって、街道の警戒に当たっている。機動力があり、ワイルドウルフも強いので、そこそこは防衛戦力として期待はできる。
ワイルドウルフをどうやって手懐けたかというと、一言で言えばアメとムチだ。ライライ剣で脅し、デモンズ山やデモンズライン周辺で採取された素材を軸に高品質のペットフードを開発して食べさせている。偶にご褒美としてアースドラゴンのくず肉を与える。どんなに丁寧に解体してもくず肉は出るからね。
そしてゴーレム関係だが、レッサーゴーレムの量産化に成功したので、試験運用を開始したのだ。カイラ研究員が言うには、定期的に魔石を補充すれば、24時間稼働できるそうだ。こちらも防衛戦力としては申し分ない。
ルミナも太鼓判を押す。
「大量の領兵や騎士団をずっと常駐させるわけにもいきませんからね。コストカットできて、嬉しい限りです。魔物除けの魔道具も機能しているようですし、徐々に領兵や騎士団の人員を削減しましょう」
「それはよかったわ。ちょっと相談なんだけど、マオ様が山開きのイベントを大々的にやってくれって言いだしてね。それで、協力をお願いしたいんだけど」
「いいですわ。こちらも国王陛下から視察がしたいという要望がありまして、丁度いいと思います。警備や接待は大変ですけど・・・」
国王陛下まで来るのか・・・また仕事が増えた。
★★★
忙しい日々を過ごし、やっと山開きの日を迎えた。
ここまで本当に苦労した。ニシレッド王国との調整や魔王との折衝、みんな好き勝手に言うからね。やるこっちの身にもなってもらいたいと何度も思った。でも何とかやり遂げた。アルバイトにここまでやらせるのか?と思ったが、よく考えてみると魔王軍の四天王として、役職手当をもらっている立場なので、このような責任ある仕事をさせられるのも納得する。
それにしても、他の四天王は何をしてるんだ?
オルグは冒険者ギルドの職員をしているし、ミミとメメはメイドをしている。フランメに至っては、ただの搬送要員だ。必然的に私しかいないのか・・・
それは置いておいて、イベントは順調に進んで行く。
そしてメインイベントが始まる。フランメが巨大なドラゴンの姿で現れて、国王陛下に友好の品を手渡すのだ。これも調整に調整を重ねた。要は国王陛下とフランメがどちらが上の立場かで少しもめた。結局は、同等の立場ということにしたのだけどね。
フランメが緊張しながらも、練習通りの口上を述べる。
「わ、我は・・・偉大なる火竜フランメ!!人間の王にこの品をやろう。これは火竜の鱗と牙だ。我は山頂で待つ。これがもっと欲しければ山頂を目指すがいい。但し、実力がない者は近寄らんことだ。命の保証はできんぞ。まあ、魔王城でしっかりと実力を積むんだな」
さりげなく、魔王城のPRも忘れない。
国王陛下も答える。
「礼を言う。こちらも精鋭部隊を揃えて、必ず山頂に到達して見せよう!!」
これで、イベントは終了だ。我ながら上手くいったと思う。この後は食事会で、アースドラゴンとワイバーンの肉を中心にした料理を振る舞う予定だ。こちらはすべてルミナに任せているから、私はほっと一息ついた。
そんな時、魔王に声を掛けられた。
「エミリアよ、よくやった。それでこれから、会ってもらいたい者がいるからついて参れ。フランメもな」
フランメに乗り、魔王とセバスとともに山頂に向かった。そこで待っていたのは、巨大化したフランメの倍近くあるドラゴンが2体だった。
魔王が言う。
「こちらはフランメの両親であるドラフェンとドラレスだ。実はイベントをこっそり見ていたのだ。感動したから、どうしてもエミリアに礼を言いたいと聞かなかったものでな」
ドラゴンが喋り始めた。
「エミリアとやら、礼を言う。フランメの立派な姿を見られて、本当に嬉しい」
「ちょっと、甘やかしすぎて、育て方を間違えたと思っていましたけど、優しいいい子に育ちました」
「うむ、これなら将来、火竜族の竜王となれるだろう」
竜王?
魔王が解説してくれる。
「古竜種には、種族ごとに竜王がおる。火竜、水竜、土竜、風竜などじゃ。どれも絶大な力を持っておる。エミリアよ、次期竜王を育てるのじゃから、責任は重いぞ」
「え、ええ・・・ちょっと待ってくださいよ。竜王を育てるって・・・そんな経験もないですし、私には・・・」
「心配はいらん。この短期間でフランメは更生したからな。今のまま指導を続けていけばよい」
フランメは、実は凄いドラゴンだった。
すると、フランメはドラフェンとドラレスに抱き着いた。
「パパ、ママ・・・ありがとう。これからもエミリア先生の元で頑張るね」
「そうしなさい。先生の言うことをよく聞いて、頑張りなさい」
「マオ様もありがとうございました。この子に目を掛けてくれて・・・」
「気にするでない。妾も育て方を間違えていたからな。礼を言うならエミリアだけでいいぞ」
ここで気付いたのだが、魔王軍はどうも魔族領で困っている者を集めている印象を受ける。ミミとメメは孤児で、スタッフにもそういった者は多い。オルグはどうか分からないけど、フランメは大問題児だったようだしね。
そう考えると、それを討伐したゲームの勇者って何だったのだろうか?
ドラフェンもドラレスもフランメのことを愛しているようだし、ゲームのようにフランメを討伐したら、怒り狂って、襲ってくるかもしれない。魔王も今のところ、面倒見はいいし、多くの魔族から慕われている。そんな魔王を討伐でもしたら、魔族も大挙して攻めて来るだろう。
本当の敵は魔王ではないのかもしれない。「雷獣物語」の続編が発売されていたら、その辺が明らかになったかもしれないが、もう知るすべはない。
ここでフランメがライライを紹介する。
「パパ、ママ!!こちらが雷獣のライライ様です。凄く優しいんだよ」
すると二匹のドラゴンは一斉に首を垂れた。
「雷獣様!!娘をよろしくお願いいたします」
「ありがとうございます」
「ライライ!!」
ライライもかなり凄い奴かもしれない。謎は深まるばかりだ。
そんな時、ドラフェンが言った。
「風竜王が子育てに悩んでいたな。是非、エミリア先生を勧めようと思うのだが・・・」
や、やめてくれ・・・私はドラゴンの指導者ではなく、しがない剣術道場の道場主だ。その剣術も碌に教えられないけどね。
魔王が言う。
「そうか・・・なら少し考えておこう」
おい!!考えるな!!
どうやら、私の生活は当面、楽になりそうはない。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




