62 デモンズ山開発計画 2
第二回目の視察は大規模なものになった。
というのも、素材を持ち帰ったところ、大反響だったからだ。ルミナが言う。
「魔石や薬草もそうですが、一番はアースドラゴンの肉ですね。燻製肉にしてお父様に送ったところ、大絶賛し、国王陛下にも献上されました。国王陛下も大変気に入られ、『可能なら定期的に献上してくれ』と言われたそうです。アースドラゴンの討伐は困難だと説明したのですが、補助金を出すから、何とかするように言われました。ですので、街道の整備はその補助金で賄えます。今回の視察で領主として、本当に開発が可能かを判断します」
この視察にはギルマスのスタントンさんもやって来た。
「デモンズ山か・・・伝説の山だからな。まずは冒険者の安全確保だ。素材に釣られて、実力のない馬鹿が来ないとも限らんしな」
ギルマスなだけに、冒険者の安全面が気になるようだった。
他にも、レドンタさんとモギールさんの商人たちも参加している。
「いい修行の場になりそうですね。ワクワクします」
「私は、デモンズ山からコーガルまでの素材の搬送で儲けようと考えてます。流石に自分で採取はできませんからね」
となると、ルミナの許可が出れば、レドンタさんやその弟子たちは勝手に道具屋を開店してくれるし、モギールさんが流通を担うなら、流通関係も心配なさそうだ。
そして、猛者たちも連れて来ていた。
ゴーケンを筆頭に、ドノバン直属部隊のティーグ、オデット、シェリル、それに加えて、デモンズ山の薬草や山菜類に詳しいレミールさん、そして、なぜかシャドウも参加しているのだ。
シャドウは言う。
「これは極秘情報だが、影の軍団員の実力向上に使えると思い、視察に来たのだ。見付かったら死ぬという緊張感の中で、任務をこなすことも大事だからな。おっと・・・これ以上は言えない」
「これ以上は言えない」って、もう全部言ってしまっている。若手の冒険者の話では、私はシャドウと痛さレベルが一緒らしい。本当にやるせない。
まあ、猛者たちを連れて来たのは、目的があってのことだしね。
★★★
1日目は、麓から五合目までを中心に素材採取をしたり、魔物を討伐したりした。アースドラゴンを見付けると、猛者どもが問答無用で狩っていた。ポンが言う。
「俺たちがあんなに苦労したのに・・・やっぱり、あの人たちはヤバすぎるな・・・」
スタントンさんが答える。
「あくまでも、どのくらいのレベルの冒険者が活動できるかを見定めるのであって、彼らを基準にしたら、命がいくつあっても足りんわ」
そのとおりだ。こうなることは予想していたからね。
1日目は一旦、ホルツさんの家に戻り、宿泊することになった。ホルツさんの家だけでは泊まり切れないので、レドンタさんが移動式の宿屋を開設した。もう誰もレドンタさんに「なんで、そんなに空間収納ができるんだ!!」とはツッコミを入れなかった。
夜はBBQだ。アースドラゴンの肉は非常に美味しく、ライライもいつも以上に食べている。初めて食べたモギールさんは言う。
「これはかなり高値で売れますよ!!でも狩れる人がね・・・人件費や輸送費を入れると、1枚白金貨1枚で採算が取れるレベルですかね・・・」
1枚が日本円で、約100万円だと!!
ライライ!!頼むからもう食うな!!
ライライに必死でお菓子を勧めて、アースドラゴンの肉を食べるのを止めさせる。ふと見てみるとフランメもむしゃむしゃ食べていた。
「フランメ!!それって、共食いじゃあ・・・」
「ならないよ。古竜種じゃなければOKルールでやっているんで。中には古竜種もOKのドラゴンもいるんだけどね」
ドラゴンの感覚は分からない。自分で決めていい事なのか?
まあ、そんな感じで夜も更けていった。
そして次の日、私たちは山頂に向かった。
私は山頂に着く直前にみんなに警告を発した。
「山頂は大変危険です。マオ様の情報によると山頂では、ワイバーンとアースドラゴンがひっきりなしに襲ってくるそうです。なので、魔導士はワイバーンを中心に・・・」
言い掛けたところで、オデットが遮った。
「つまり、ワイバーンの肉も食べられるということだな?よし、そんなにいっぱい出て来るなら、食べ放題だな!!」
ゴーケンも続く。
「それでは、誰が一番討伐したかで、競争をしよう。良い訓練になるぞ!!」
私も必死で止める。
「ちょ、ちょっとお待ちを!!まずは陣形を整え・・・」
猛者どもは走って、山頂に駆け上がってしまった。唯一レミールさんだけが、ゆっくりと歩いて山頂に向かっていた。
「私は、昨日肉を食べ過ぎたからね。今日は薬草でものんびり摘んでおくとするよ。私のことは気にしないでおくれ」
誰も気にしねえよ!!
危険だと思い、猛者をいっぱい連れて来たが、それが裏目に出てしまった。
山頂に着くと衝撃の光景が飛び込んでくる。猛者どもが、好き勝手に暴れ、ワイバーンやアースドラゴンが逃げ惑っている。
ルミナが言う。
「こ、これって・・・ワイバーンて、強くないのですか?」
「これは参考にならないから、私たちはアースドラゴンとワイバーンを1体ずつ狩ろうか?」
猛者どもは無視して、実際に戦ってみる。苦労はしたが、ルミナとドノバン、それにスタントンさんが加わったことで、戦線が安定し、無傷で討伐することができた。そして、悲しい現実を知ってしまう。
私は必要なかった・・・
前衛はリン、ドノバン、スタントンさんがしっかりと支え、後方からルミナの魔法とポコの弓で攻撃し、ポンが気配を消しながら攻撃、要所要所で上手くバランスを取っていた。スタントンさんが言う。
「このパーティーなら、Sランクでも通用するな」
このメンバーだと、火力が足りない私は、足手まといかもしれない・・・
リンが言う。
「でもエミリア先生の事前情報がなかったら、危なかったね。ありがとう、エミリア先生」
や、やさしい・・・
「返し突き」を使わなかったら、私はこのメンバーに瞬殺されるレベルなのにね。
★★★
戦闘が終わり、必死になって、素材を採取していく。スタントンさんが言う。
「こんなの処理しきれないぞ!!何とかならんのか!?」
私は提案した。
「じゃあ、フランメに運んでもらいますよ。何回か往復したら、大丈夫です。闘技場にでも運びますからね」
「そいつはいい」
結局3往復して、やっと運び終えた。スタントンさんとモギールさんはコーガルに着くとすぐに解体のスキル持ちを手配し、闘技場はドラゴンの死体で埋め尽くされた。解体作業が進む中、多くの市民がおこぼれにあやかろうと大挙して押し寄せたことは言うまでもない。
一頻り解体作業が終わった頃にルミナが言う。
「緊急の会議を招集しましょう。かなり有用な素材が採取できることは分かりました。開発をする方向で各機関と調整しなければなりませんからね」
どうやら、開発を承認してくれたようだ。冒険者ギルドもスタントンさんがいるから、冒険者の安全面に配慮すれば問題はないし、レドンタさんとモギールさんがいるから、商業ギルドも大丈夫だろう。後は・・・魔王だな。
ここらで、報告を兼ねて会議に呼んでおくか・・・
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