60 また道場が凄いことに
私は今、魔王と領主のルミナと共に新設されたゴブリン居住区に来ている。
この居住区は今も拡大しており、現在、ゴブリンの人口は2000人を超えている。代表のゴブキチ、ゴブコ夫妻が出迎えてくれる。
「これはこれは、魔王様、領主様、それにエミリア先生まで、わざわざ来てくださいまして、ありがとうございます。見てのとおり、順調に発展しています。これも皆様のお陰です」
魔王が言う。
「ゴブリンたちがここまでやれるとは、思わなんだ。嬉しい誤算じゃ。今後も精進するように」
「はい、頑張ります」
ルミナも続いて、声を掛ける。
「ゴブリンたちには助かっています。自警団に採用してよかったと思っています」
ゴブリンたちは、真面目で集団行動が得意なので、自警団に向いている。ゴブリンの中で戦闘力の高いメンバーを揃えているから、多少の荒事は対応できるし、無理でもすぐに応援を呼んで、遅滞戦闘をするくらいはできるしね。増員を繰り返し、現在は100名が自警団に採用されている。
「どこかの道場の門下生とは違って、真面目ですからね・・・」
それって、ウチの猛者クラスの馬鹿どものことだよね?
そんな話をしながら、和気あいあいと視察は進む。途中、火竜フランメに乗った木こりのホルツさん一家が大量の木材を積載してやって来た。
魔王はフランメに声を掛ける。
「頑張っておるようじゃのう?」
「はい!!なんか、人のために頑張ることの大切さをエミリア先生に教えてもらいました。みんなからお礼を言われるのが、こんなに嬉しいとは思いませんでした」
私にドラゴンを指導する能力もノウハウもない。なのでいつも通り、礼儀とマナーを重点的に教え、戦闘訓練ではなく、資材の運搬をさせることにした。フランメにも、こう言って納得させた。
「フランメ、貴方にはまだ戦闘訓練は早いわ。まずは荷物運びや雑用からね。そういったことが、後々大きな成果を生むのよ」
これに納得したフランメは、積極的にギルドのFランク依頼である配達や木材の運搬に携わっている。本人も前向きにこう言っていた。
「ドラゴンの古いことわざに「雑用50年」というのがあります。そういうことですね?」
長命種ならではの時間感覚だ。50年後に私が生きているかどうか分からないし、50年は私の指導法が適当だということがバレないと思うと安心した。
そんな中、建築中の建物を感慨深そうにホルツさんと妻のフェラーさんが見つめていたので、声を掛けた。
「いやあ・・・私たちが頑張って切った木が、立派な建物になっていくのを見ると、何とも言えない気持ちになりますね。木こりをしていてよかった、と思う瞬間ですよ」
「そうよね・・・私たちも人の役に立っているんだって、思えますからね」
戦闘力は桁外れだが、ホルツさん夫妻は本当にいい人だ。
少し質問をしてみる。
「どうして、デモンズ山で木こりを?もっと魔物が少ない場所もあると思うのですが」
「デモンズ山は不思議なことにどんなに木を切っても、3日もすれば、全て元通りになるんですよ」
「木こりの仕事は、木を切った後に植林をして、環境を元に戻さなければいけませんからね。それをしなくてもいいですし、切り放題なので、多少魔物が多くてもデモンズ山で木こりをしているんですよね」
ここでなぜか魔王が会話に入って来た。
「デモンズ山か・・・フランメのために作ったダンジョ・・・ではなく、住処だったのだが、フランメも成長したことだし、開発するのも手かもしれんな・・・」
今、ダンジョンって言い掛けたよね?
デモンズ山がダンジョンとすれば、3日で環境が回復する説明がつく。それにあの山だけで採取できる貴重な薬草やキノコがあることを考えると、ダンジョンと言われても不思議はない。
それに開発って・・・
また、私に仕事が回って来るんだろうな。
★★★
ゴブリン居住区の視察を終えた私たちだが、ついでに道場敷地内を視察することにした。大して、見るところもないのだが、これは私が道場主としての威厳を保つために企画したことだ。あれからも道場主としての仕事は、ほとんどないので、魔王やルミナと一緒に視察しているところを多くの人に見てもらおうと思ったからだ。
つまり、「あの人、マオ様や領主のルミナ様といつも一緒にいて凄い!!きっと道場主としてエスコートしてるんだ」とか思わるためにやっている。我ながら姑息な手段だと思う。
視察中に見慣れない巨大な木を見付けた。巨大どころではない、10階建てのビルくらいの大きさだ。付近にエルフが群がっている。その中にエルフの姫リナラデスを見付けたので、話を聞く。
「これは世界樹だ。エルフの森から苗木を貰ったのだが、魔法研究所の肥料を与えたら、急成長したのだ。葉っぱの成分を調べってもらったが、エルフの森の世界樹と同等の効能があるそうだ。エルフとしては、世界樹の世話ができるのは本当に名誉なことだ。本国から専門家も呼び寄せた。エミリア殿、月に10枚ほどでよければ、世界樹の葉を納めよう」
おいおい!!世界樹だって?
世界樹を救ったのは、ゲームでは勇者だ。でも実際に救ったのは、魔法研究所のマッドサイエンティストたちだ。となると、マッドサイエンティストの中に勇者がいるということか?
もう考えるのは止そう。
そんな時、ルミナもパニックになっていた。
「せ、世界樹!!ウチの領に!?お、お父様に報告、それに国にも・・・エミリア先生、マオ様、私はこれで失礼させてもらいます。すぐに対策を取らないと・・・」
ルミナは慌てた様子で去って行った。
まあ、そうなるよね。
魔王がリナラデスに言う。
「それにしても立派なじゃな、世界樹というやつは・・・苗木が取れそうなら、妾にも分けてくれ」
「うむ、苗木が取れたら、お渡ししよう。エミリア殿には世話になっているから、それぐらいはするぞ」
無駄に信頼してくれている。
その後の話になるが、数日後、国の文官と研究者が飛んでやって来た。確認しても間違いなく世界樹だったので、最終的には魔法研究所の人員が増員されることになった。これ以上マッドサイエンティストを増やしてどうすると思ってしまうけどね。
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