58 四天王のお仕事 2
魔王から依頼を受けて2ヶ月、私は現状を確認するため、視察に向かう。
朝礼で、大々的に視察をアピールした。仕事をやってますアピールだ。悲しいかな、今の私には、それくらい道場主としての仕事がないのだ。
まずはソフト模擬戦クラスに視察に来た。
モギールさんから状況を聞く。
「ゴブリンたちは、みんな真面目ですよ。ゴブキチさんを中心に初級の免状を取得したのが13名、「二段突き」、「二段斬り」のどちらか一方だけをマスターした者が30名もいますからね。半年もすれば、全員が初級の免状を取得できると思います」
続いてやって来たのは、ドノバンの所だった。
「前も言ったけど、凄いことになっているよ。止めろと言うまで、ずっと訓練するからね。行進や集団行動に関しては、どの部隊もゴブリンたちに勝てないよ・・・」
本当に凄かった。
色々な隊形で行進を始め、急に合流したり分裂をしたりしていた。行進だけでお金が取れるレベルだった。
「それでなんだけど、ゴブリンたちから、相談を受けていてね・・・」
なるほど・・・魔王に自分たちの成果を見せたいか・・・となると部隊観閲式だね。
続いて、直接ゴブキチから要望や感想を聞く。
「部隊観閲式ですか?是非やりたいです。訓練も益々頑張れます。それとは別に要望というと、今後の進路についてでしょうか。ホクシン流剣術初級の免状を取得した後、それぞれで、進みたい道が違いまして、私としては将来的には、ティーグさんのような魔法剣士に・・・」
私もカテゴリーとしては、魔法剣士なんだけどね・・・
それは置いておいて、ゴブキチの要望としては、ある程度実力がついたら、ゴブリン個人個人の適性を見て、ホクシン流剣術道場に開設されている弓使い養成コース、槍使い養成コース、体術コース、魔導士養成コースなどに進ませたいようだった。ゴブコも続く。
「私は戦闘メイド養成コースに進みたいです。ミミさんやメメさんのような素晴らしい戦闘メイドになることが目標なんです」
私は少し悩んだ後に答えた。
「予算が絡むことだから、マオ様の許可を得ないとね・・・とりあえず話をしてみるよ」
「「ありがとうございます」」
★★★
魔王に話をしてみた。
「そんなことなら、全員希望するコースに入れてやれ。学費は全額、妾が出してやろう」
「ありがとうございます。部隊観閲式ですが、1ヶ月後を予定しています」
なぜ、魔王はここまで裕福かというと、これは私の推測だが、魔王城のダンジョンポイントによる収益が大きい。魔王は否定しているけど、「初級ダンジョン学入門」にあるポイント早見表を参考に概算すると、かなりの収益を得ている。ダンジョンの維持管理にポイントを使ったとしても、膨大なポイントが残り、その一部を魔石や宝石に変換するだけで、かなりの収益になる。こんな楽なアルバイトに高額のバイト料を払えるはずだ。
そんなことを思っていたら魔王が言う。
「ついでに四天王の成長具合も見たいのう。それも見られるか?」
「調整してみます」
魔王への報告の後、すぐに四天王を集めた。私は四天王に説明をする。
オルグが言う。
「オグレン殿の武器も完成した。これは我からの提案だが、実際に我ら同士で、戦ってみるのはどうだろうか?」
ミミとメメが言う。
「それは賛成です。私たちも実力が上がりましたから、負けませんよ」
「そうと決まれば、すぐに修行しなくちゃ!!でもエミリア先生は・・・」
「私は見るだけよ。マオ様への説明とかもあるしね。後はフランメだけど・・・」
「えっ!!私?オルグたち三人が束になっても私には勝てないしね。まあいいよ」
これで、部隊観閲式のメインイベントが決まった。
そこからはオルグやミミとメメは、観閲式まで修行に明け暮れ、一方フランメは、いつもと変わらず、のんびりと、だらだら過ごしていた。
そして1ヶ月後、魔王軍ゴブリン部隊観閲式が闘技場で開催された。
収益面を考えて、観客も入れて行った。事前広報のお陰で、満員状態となった。VIP席には魔王と領主のルミナ夫妻、ゴーケン、ティーグ、オデット、レミールさんに加え、なぜかニシレッド王国の騎士団関係者も視察に訪れていた。
「ルミナ、騎士団の関係者が来るってどういうこと?」
「大きな声ではい言えないのですが、ゴブリンの集団行動ですか?いろいろな隊形に分かれて行進するやつなのですが、あれに興味を持ったようです。武力では勝てないから、ああいったパフォーマンスに重きを置こうとしているらしいですよ」
何とかして、威信を示そうという涙ぐましい努力だろう。騎士団の関係者は貴族ばかりなので、見掛け倒しでもいいから、目立とうとしているのだろう。
しばらくして、演武が始まる。まずは、貴族の皆さんもお待ちかねの集団行動からだ。ゴブリンが一糸乱れぬ行進を開始し、更に様々な隊形に変形し、分裂したり合流したりを繰り返す。圧巻のパフォーマンスだった。行進の途中にも槍や楯を構えたり、振り回したり、それすらもぴったりと揃っていた。騎士団の関係者も感嘆の声を漏らす。
「こ、こんなの、すぐに習得できるものではない」
「少し訓練させればできると思っていたのに・・・」
「我々では無理かもしれない」
観客も大盛り上がりだった。
続いては、ソフト模擬戦だ。
相手はホクシン流剣術道場少年チームだ。子供と言っても侮るなかれ。このチームは今年の団体戦で全国優勝したチームで、5人とも騎士団や近衛騎士団、魔法剣士団への入団が決まっている。つまり、エリート中のエリートなのだ。そこら辺の新兵が束になって掛かって行っても、相手にならないレベルなのだ。
そして、試合が始まる。一進一退の攻防が続き、大将戦までに2対2の勝利数で、本数も同数だ。大将戦に勝利したほうが、勝利となる。ゴブリン側の大将はゴブキチで、少年チームの大将はフレッド君だ。フレッド君の両親はともにAランク冒険者で、入って来たときから才能の片鱗を見せつけていた。
一方のゴブキチは成長著しい。少し前には、カイン君に負けていたが、最近ではどんどんと実力をつけてきている。
指導者のキュラリーさんが言う。
「ゴブキチさんは一生懸命ですね。ボロボロになりながらも猛者クラスに通っているようですしね。一方のフレッド君は近衛騎士団への入団が決まっているくらいの実力者です。ドノバン隊長の再来と言われているんですよ」
試合が始まる。決定打はないものの、フレッド君が押している状況だ。ゴブキチは防戦一方で、審判から、消極的すぎるとして、注意をもらってしまった。そして試合時間が残り僅かになったところで、ゴブキチは斬り掛かった。頭部を狙った攻撃はあっさりとソフト剣で防がれたが、防いだことで、がら空きになった右小手に、二の太刀を叩き込む。流石のフレッド君もこれは防ぎきれなかった。
「一本!!」
審判が試合終了を告げる。会場は大盛り上がりだ。
あっ!!あれは!!
キュラリーさんが解説してくれる。
「ずっと前にエミリア先生が開発された技ですよね?猛者クラスではひっそりと受け継がれているんですよ。その名も「変則二段斬り」としてね。わざと初太刀を遅く打って相手に防がせて、できた隙を狙う技ですよね?最後の最後まで、この技を取って置いたゴブキチさんの作戦勝ちですね」
詳しく聞いたところ、私が使った伝説の技として、猛者クラスに受け継がれているようだった。全くそんな気はなかったんだけどね。あのときは全力だったし・・・
「ああ見えて、ゴブキチさんはエミリア先生のことを尊敬しているんですよ。エミリア先生のことを必死で調べて、少しでも自分のものにしようとして・・・」
偶然が重なった技だけど、少し嬉しい。
ゴブキチのお陰で、この技が日の目を見ることになるとはね・・・
試合会場を見ると、ゴブリンチームと少年チームがお互いに健闘を称え合っている。少年チームのメンバー全員がゴブキチに群がり、「変則二段斬り」を教えてもらっていた。
ゴブキチが嬉しそうに指導している。
「これはエミリア先生が開発された技で、猛者クラスに伝わる必殺技です。でも初見殺しなので、手の内が読まれると通用しませんよ」
「それはそうだけど、他の技にも応用できそうだ」
「そうだね。ちょっとやってみるか・・・」
魔王も言う。
「妾は感動したぞ!!エミリアよ、特別手当を出してやろう。セバス、あのスイーツを持ってこい!!」
「ライライ!!」
「ライライの分もあるぞ!!」
魔王がVIP席にいた全員に絶品スイーツを振る舞い始めた。
「次は四天王戦じゃな?これも楽しみじゃ」
実は他の四天王はノータッチなんだよね・・・
唯一分かるのは、ライライと一緒にゴロゴロしていた、火竜フランメだけなんだけどな・・・
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




