57 四天王のお仕事
その日私は、キュラリーさんから提案を受けた。
「エミリア先生の功績は偉大なものです。小さな道場だったホクシン流剣術道場をここまで大きくしたのですから。しかし最近に限っていうと、功績はおろか、道場主の仕事もほとんどされていません。ですので、アゲントのような輩にその辺を付け込まれたのだと思われます。ですので、何か目立った功績を上げてほしいのです。すぐにとは言いませんが、1年以内に誰もが納得できる功績を・・・」
「例えば、どんなのでしょうか?」
「そうですね・・・劇的に門下生を増やすとかでしょうか?」
門下生を増やすか・・・答えの出ないまま、今日も魔王城のアルバイトに向かう。考えてもすぐに答えは出ないからね。その日のアルバイトも楽なものだった。お茶を飲みながら優雅に過ごす。そんな時に魔王から言われた。
「エミリアにも四天王の仕事をしてもらわねばならんな」
「えっと・・・それってどんな内容ですか?」
「とりあえず、魔王軍の強化じゃな」
おいおい!!悪の組織である魔王軍を強化しろだって?
冷静に考えてみるとこれは、これでありかもしれない。というのも、新しい勇者が生まれ、魔王を討伐しに来た場合、私も四天王だから、一緒に討伐されてしまう。だったら魔王軍を強化して、自己防衛をするのも一つの手だ。魔王は今のところ、世界征服をしようとはしていないし、意外に良識的だからね。
「分かりました。ところで、具体的には?」
「そうじゃのう。具体的には四天王の他のメンバーの強化とお荷物部隊の強化じゃな」
私以外の四天王は、オーガのオルグ、可愛らしいメイドのミミとメメ、そして今も目の前で子犬サイズとなってライライと戯れている火竜フランメだ。オルグとミミとメメは勝手に修行して強くなっているから、オグレンにでも言って、専用武器を作るくらいでいいだろう。まあ、ゴーケンやシャドウたちに特別訓練をお願いしてもいいかもしれないしね。
問題はフランメだ。コイツはやる気が全く感じられない。魔王も扱いに困っているように思う。厳しくして、また出て行かれても面倒だしね。
私が四天王の強化プランを説明する。
「フランメはとりあえず、置いておいて、他の四天王については、すぐにやってくれ。それでお荷物部隊というのが・・・」
お荷物部隊とは、大量にいるゴブリンたちの部隊だそうだ。魔王国の総人口の7割がゴブリンだという。だが、ゴブリンは戦闘力が低く、戦いに向いていない。そのため、他の戦闘民族から虐げられているようだ。その状況を改善したい魔王は、私に依頼をしたというわけだ。
なかなか、優しいところもあるじゃん・・・
「とりあえず、200名をなんとかしてもらいたい。それで結果が出れば、その案を採用しよう」
「分かりました。予算のほうは?」
「潤沢にあるぞ。細かいことはセバスと相談してくれ」
このとき、いい方法を思い付いた。
「だったらお任せください。私に考えがあります」
★★★
私が思いついた企画は、ゴブリンたちをホクシン流剣術道場に入門させることだ。早速、根回しを行う。キュラリーさんが言うには、この功績だけでも十分らしい。領主のルミナも賛成する。
「人口が増えれば、それだけで税収がアップしますし、ゴブリン居住区の建築費用もマオ様が出資してくれるので、問題ありません」
瞬く間にゴブリン居住区の建設が始まった。
ゴブリンは、成人でも人間の半分くらいの身長しかない。ハーフリングと同じくらいの身長だ。見た目は全身が緑がかっているので、人族からは敬遠されてきた歴史があるようだ。すぐに200名のゴブリンの入植が始まった。
ゴブリンという種族は、かなり勤勉な種族だった。みんなルールを守り、集団行動も得意のようだった。このゴブリンたちのリーダーはゴブキチ、その奥さんであるゴブコと共に取りまとめてくれることになった。
私は彼らにカリキュラムの説明をする。
「まずは魔王軍ということなので、定期的に集団軍事訓練を受けてもらいます」
集団軍事訓練というのは、主にドノバンが指導している訓練で、新兵を中心に軍隊の基本を学ぶことができる。最近では、他領から多くの新兵が集まって来る。これもコーガルの大きな収入源になっているのだ。特に小さな領なんかは、そんなことを自領で学べないからね。
「そして、こちらも定期的に子供たちと一緒にソフト模擬戦をしてもらいます」
これには、多くのゴブリンたちが難色を示す。
ゴブキチが言う。
「集団軍事訓練については、我々に必要なことだと理解しています。ですがソフト模擬戦は・・・」
これに続いて、多くの若いゴブリンたちが文句を言う。
「流石に我々を舐め過ぎだ!!」
「小さいからって、我々を子供扱いするな!!」
怒るのも当然だ。でも、ここのソフト模擬戦クラスは一味違うからね。
「文句は見てから言ってくださいね。とりあえず、道場に移動しますよ」
見学をしてすぐにゴブリンたちは驚愕の表情を浮かべる。
「そ、そんな・・・レベルが高すぎる・・・」
「子供があんなに強いなんて・・・」
「自信がなくなった」
私は彼らを励ますように言う。
「大丈夫ですよ。カリキュラムに沿って頑張れば、すぐにあれくらいにはなれますよ」
「ほ、本当ですか?」
「だったら頑張ろうかな・・・」
やる気はあるようだった。
その時、ゴブキチが質問をして来た。
「あの変わったソフト剣を持っているの少年は誰ですか?結構強そうですが・・・」
「ああ、カイン君ですね。実はマオ様を倒して、その時にマオ様からいただいた剣なんですよ。今でも大切に使ってくれてます」
ゴブキチの目の色が変わる。
「だったら挑戦をしてきます」
ゴブキチはカイン君に相対して言う。
「我は、誇り高きゴブリン族のゴブキチ!!勝負だ!!」
「ぼ、僕は・・・勇者カインだ!!挑戦は受けて立つぞ!!」
白熱した模擬戦となった。結果はカイン君が僅差で勝利した。
「ま、負けた・・・」
「いい勝負だった。また、戦おう」
お互いに健闘を称え合っていた。
これ以後、ゴブリンたちは真面目に訓練に取り組むことになる。1ヶ月経つ頃にはホクシン流剣術初級の免状を取得する者も数名出てきた。それがまた刺激になり、更に訓練を頑張るようになる。
集団軍事訓練を指導しているドノバンもゴブリンたちのことを褒めていた。
「この短期間でここまでできる部隊は少ないぞ。モチベーションも違うしな。大体の新兵はやる気がないから、気合いを入れるだけで、3日は掛かるのに、ゴブリンたちは最初からモチベーションがマックスだった。エミリア先生も見てよ。凄いでしょ?」
確かに凄い。
一糸乱れぬ行進をしている。部隊観閲式に出場した部隊と遜色ない。
「ドノバン、ありがとう。とりあえず、マオ様に報告してみるよ」
このことが、後に大きな混乱を招くことをこの時は知らなかった。




