55 またヤバい人たちが来ました・・・
先のホクシン流剣術道場乗っ取り未遂事件を受けて、緊急会議が開かれた。主催は領主のルミナ、出席者は、ホクシン流剣術道場の関係者、王都からやって来た軍関係者たちで、最初にルミナから事案概要や今後の方針について、説明があった。
「これは国家存亡の危機と捉えてもいいと思います。そこで、今後は工作員や諜報員の取締まりを積極的に実施いたします。国から補助金も出してもらえますからね。当面は影の軍団に依頼をします」
私が質問をする。
「アゲントは取調べに対し、イシス帝国の工作員は、教会を根城にしていたと供述していました。そちらの捜査はどうなっていますか?」
「アゲントたちが拘束された後、すぐに教会に向かったのですが、もぬけの殻でした。後日、教会に問い合わせても『教会関係者になりすました不届きな輩だ。こちらも調査している』と言って、今回の事件について関与を否定しています。本当のところはどうか分かりませんけどね」
イシス帝国、それに教会、コイツらが結託しているとなると、非常に厄介だ。
「当然、今後は教会も監視対象に致します。大ぴらにはできませんがね。ところで、エミリアお姉様、一つお願いが・・・」
★★★
やって来たのは、ホクシン流剣術道場の敷地にある教会だ。
本日、新しい神父とシスターが赴任するという。領主のルミナとドノバン夫妻も挨拶に向かうのだが、その時、私も同行してほしいというのだ。拷問官としての見立てを聞きたいらしい。私は決して、人を見る目があるのではない。ただ、私のスキルが拷問に適しているだけだ。でもルミナの頼みだから、同行するだけはしよう。
因みに領主が教会に挨拶に出向くのは普通のことらしい。私からすれば、お前らが挨拶に来いと思うのだが、この世界では教会の力と権威は絶大で、各国の国王や皇帝の戴冠式も教会の承認があって初めて行える。神に国王として認めてもらったという体にするらしい。
だから、傲慢な教会関係者は多い。トンズラした教会関係者もいけ好かない奴らだったし、生活も派手だった。でも調子に乗り過ぎて、酒場でウチの門下生にタコ殴りにされていたけどね。
教会に着くと、二人の若い男女が教会の片付けをしていた。
神父と思われる男性は金髪青目のイケメン、引き締まった体で、武術の心得があることが見ただけで分かる。相当の実力者だ。一方シスターの女性も金髪青目の美少女で、こちらはパッと見は分からないが、それなりに動けそうな感じはした。ルミナがこっそり耳打ちしてくる。
「あのシスターは侮れませんわ。魔導士の私が驚く程、膨大な魔力の秘めています」
魔導士のルミナだからこそ、分かることだ。それにしても、かなりの武闘派のようだ。
ルミナが挨拶をする。
「私は、領主のルミナ・バンデッド、こちらが夫のドノバンで、こちらがホクシン流剣術道場の道場主のエミリア殿ですわ」
神父が答える。
「わざわざご挨拶に来ていただきまして、ありがとうございます。私は当教会の責任者のフランシス、こちらはシスターのテレサです。よろしくお願い致します」
それから、少し雑談をしたが、フランシスは好青年だし、テレサも控えめな感じだった。一見すると悪いことをするように見えない。ルミナもそんな印象を持ったようで、肩透かしを喰らった感じだ。私も2、3質問をする。
「ところで、どうしてこの教会に?以前の勤務先はどちらでした?」
フランシスは言いづらそうに答える。
「実は前の教会の関係者が不祥事を犯したようで、私たちが後任で来たのです。以前は、ここから更に北に行ったところにデモンズ山があるのですが、それを越えて更に北に行った場所にある名もない教会に二人だけで務めていました」
あれ?これって・・・
「以前勤めていた教会でも私とテレサ二人だけだったのですが、その教会は全く人が来ない教会でして、私とテレサの異動をもって閉鎖されることになりました。神の教えを広めることができず、本当に不甲斐ない・・・」
フランシスはそう言うが、そんなの当たり前だろうが!!
それって、ゲームで登場する「魔王城前の教会」じゃないのか?
魔王城前の教会で勤務するのは神父とシスターの二人で、これにも多くのツッコミが入った。
なぜ、敵の総本山の目の前で、教会を運営できているんだ!?
生活するだけで大変だろうが。
というか、お前らで、魔王を倒せよ。
そこのシスター!!「最近、魔物が増えてきました。世界の終わりが近いのかもしれません」って、場所を考えろ、場所を!!
これまでの経歴を聞いてみたところ、ダンジョンの最下層や、塔の最上階などで、勤務をさせられていたようだ。多分、教会関係者として、冷や飯を食わされていたのだろう。見たところ、フランシスもテレサも正義感が強く、それが強欲な教会の上層部の考えに合わなかったことが原因と思われる。
挨拶も終わり、ルミナとドノバンと共に教会を後にする。教会をチラッと振り返ると、影の軍団っぽい集団が周囲をウロウロしていた。
ルミナが言う。
「どうでしたか?あの二人の印象は?」
「そうだね。あまり悪い人には見えなかったな。それとあの二人だけど、かなりの達人だと思うよ」
これにドノバンが反応する。
「二人には、ゴーケンさんやレミールさんクラスのオーラを感じるよ。もしかしたら、武力を持ってここを制圧しようと考えているのかもしれない。警戒は強化したほうがいいと思うよ」
「そうですわね・・・とりあえず、監視を続けましょう」
とりあえず、教会が猛者二人を送り込んで来た意図は分からない。影の軍団も監視しているし、何か怪しい動きがあってから対処してもいいと思う。
★★★
それから2週間が経過した。
私は影の軍団本部から呼び出しを受けた。影の軍団では、ポンとマインちゃんが応対してくれた。深刻そうにポンが言う。
「エミリアも知っていると思うけど、教会の二人はこっちでマークしているんだが、怪しい動きがあってな・・・夜な夜なデモンズラインに二人して出掛けているんだよ。デモンズライン自体が危険な場所だし、戦闘となれば、少人数では厳しい。かといって大掛かりな編成にすると気付かれてしまう」
「シャドウさんに頼めば?」
「今、シャドウ師匠は極秘任務でこの町を離れている。俺たちだけで何とかしなくちゃいけないんだ。危険な奴らだったら対処しないといけないしな。それで、お前に頼みたいんだ。正式な依頼としてな」
つまり私は、万が一戦闘になったときの用心棒ということらしい。
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