54 キャリアアップ 3
アゲントは卑怯な奴だった。自分は貴族で、貴族であれば、決闘の代理を立てられると主張した。また、アゲントと共に最後まで、私の解任決議に賛成の立場を取っていた役員も一緒に決闘すべきだと主張する。祖父は言う。
「道場主たるもの、いかなる挑戦も受けるべきじゃ」
結局、アゲントを含め、私の解任決議に最後まで賛成の立場を取っていた者5名、その者たちの護衛と名乗る騎士10名、合わせて15名が、私と決闘することになった。つまり、15対1だ。
護衛も有りルールとは聞いていないけど・・・
キュラリーさんが言う。
「決闘は、闘技場で観客を入れて行います。なので、あまりにも早く倒し過ぎないようにしてください。観客が怒ると面倒ですからね。最低でも1時間くらいは粘ってくださいね」
瞬殺しろと言うのなら無理だが、そっちの方面なら、私は大得意だ。
アゲントとその取り巻きの役員は、全身をプレイトアーマーで固め、大きな楯を持って後方で待機している。一方、彼らの護衛と称する者たちの武器はまちまちだった。少し戦ったところ、冒険者ランクでいうとBランク以上の実力はあった。全員が戦士タイプか剣士タイプだった。
ということは・・・
接近戦を挑み、いつもどおりに「返し突き」を繰り返す。30分くらいそんな戦いをしていた。次第に立っている護衛の数が減っていく。いつもどおり、血塗れだ。そして、最後の一人が斬り掛かって来たところを「返し突き」を発動させ、肩にレイピアを突き刺した。護衛を倒した私は、アゲントに言う。
「もう降参したらどうですか?」
「この鎧と楯があれば、お前の攻撃など、どうとでもなる。この鎧と楯はオリハルコン製だからな」
アゲントたち5人は、非常に硬かった。突きがほとんど通らない。偶に「ギャー」という悲鳴は聞こえるが、それでも鎧の所為もあり、ほとんどダメージを与えられていない。このまま、ちまちまと攻撃していれば、その内倒せるだろうが・・・
私は決断する。
もう1時間は経ったし、勝負を決めてもいい。それに最近は貯金もそこそこあるから、アレが使える。
「ライライ剣!!」
ライライによって、私のレイピアに電撃魔法が付与された。
「いくら魔法剣でも、鎧や楯で・・・ギヤー!!」
アゲントたちは、のたうち回る。鎧や楯で防がれても効果はあるようだった。ダメージが入らないだけで、苦痛は与えられるようだ。だったら・・・
「薙ぎ払い!!」
アゲントとその取り巻きたちを「薙ぎ払い」で転ばす。悲鳴を上げ、のたうち回る。
「降参しなさい!!」
アゲント以外の取り巻きたちは全員が降参した。しかし、アゲントだけは向かって来た。
「返し突き」
如何にオリハルコン製の鎧といっても、こっちのレイピアもミスリルにアダマンタイトコーティングをしているから、何回かに1回は、鎧を貫通して、生身に刺さる。アゲントは血塗れになっていく。
因みに特殊鉱石と呼ばれている、アダマンタイト、オリハルコン、ミスリルだが、それぞれに特徴がある。アダマンタイトは最強の強度を誇り、ミスリルは魔力伝導率がいい、オリハルコンはその両方の特徴を持つ。アゲントもオリハルコンの鎧に魔法を付与し、更に強度を高めていたのだけど、ライライ剣には通用しなかった。そもそも、ライライ剣はダメージを与えるのではなく、苦痛を与える技だからね。
とうとう、アゲントは力尽きる。
試合終了のアナウンスが流れたと同時に、キュラリーさんとスタントンさんに率いられた冒険者部隊が乱入して来た。
「お前ら!!全員拘束しろ!!」
訳が分からない私はキュラリーさんに尋ねる。
「ああ、アゲントの不正が発覚したんですよ。エミリア先生に長期戦をするように依頼したのは、彼らの居室や執務室を家宅捜索するためだったんですよ」
詳しく聞いてみると、アゲントはイシス帝国というサンドラ大陸一の軍事国家の工作員だったと判明したらしい。証拠がないのに拘束はできないことから、キュラリーさんは一計を案じた。協力者を募り、私の解任要求を定例会で出させたようだ。
「こんなに上手くいくとは思いませんでしたけどね」
そして、最後までアゲントに付き従ったのは、アゲントが本国から連れて来た子飼いと高額な賄賂で、言いなりになるしかなかった者たちだったという。
「一介の剣術道場の役員が、オリハルコン製の装備を用意するなんて、できませんからね。それと、エミリア先生には、リストをお渡ししますので、こちらを自供させてください。拷問主任官ですよね?」
★★★
決闘からの拷問・・・本当に道場主の仕事なのかと思ってしまう。
でも、ライライ剣が経費で落ちることになったのは、ラッキーだ。拷問の前に捜査資料に目を通す。拷問主任官になると、自分で質問内容を考え、それに合わせて、拷問方法も決めなければなならいからね。
アゲントの悪事だけど・・・
こりゃあ、酷いわ・・・
まず、ニシレッド王国随一の軍事施設であるホクシン流剣術道場を乗っ取り、コーガルをニシレッド王国から分離独立させる。そして、頃合いを見て、コーガルをイシス帝国に併合、その武力を背景にニシレッド王国を属国化する方針だったようだ。
アゲントに付き従っていた役員は弱みを握られたり、借金漬けにされたりして、従うしかない状況に追い込まれていたそうだ。そのやり口はどうもアゲントだけではできないようなものだった。資金は大量に必要だし、人員も必要だ。
何から調べようか・・・
実はアゲントの拷問が、私の拷問主任官としてのデビュー戦なのだ。とりあえず、筆記試験のときに勉強したマニュアルのとおりに拷問をすることにした。そのマニュアルとは、まず相手に好きに話させる。この時、相手が明らかに嘘を吐いていると分かっても、追及せずに話させる。そして、それを書面に記録し、後日、裏付け捜査によって判明した事実を持って、嘘を吐いた箇所を徹底的に攻めたてる。
拷問マニュアルには、恐ろしいことが記載されていた。
「嘘吐きには、何をしてもいい。拷問官に嘘を吐くことは、神に唾を吐くのと同じ行為なのだから」
私が拷問に向かおうとすると、マホットが声を掛けて来た。
「初仕事じゃから、儂も立ち会おう。伝説の拷問官の最初の一歩が見られるのは、嬉しい限りじゃ。他にも見学者がいるからのう」
注目されている。
拷問部屋に入ると早速、アゲントの拷問を始める。
「とりあえず、正直に話しなさい。話はそれからです。嘘は吐かないようにね」
「も、もちろんです。正直に言いますから、もうあのようなことはしないでください」
アゲントは拷問をするまでもなく、正直に話始めた。それを補助官に命じて記録させていく。アゲントによると元々、虎視眈々とイシス帝国はニシレッド王国を手中に収めることを画策していたそうだ。転機が訪れたのは、5年前、私が武闘大会で優勝した年なのだが、ゴーケンやティーグといった猛者が、その職を辞した。これで、イシス帝国はニシレッド王国を何か理由を付けて攻めることはほぼ決定したそうだ。戦力がガタ落ちしたと判断したのだろう。
それで、先に開催された部隊観閲式で状況は一変する。
部隊観閲式に出席した武人や軍関係者は口を揃えて、こう言ったそうだ。
「誰が勝てるんだ?あんな国に・・・」
それはイシス帝国の関係者だけではなかった。部隊観閲式に参加した多くの国がそう思ったようだ。そこで、イシス帝国は方針を転換した。直接攻めるのではなく、軍事拠点となっているコーガルをまず、手中に収める方針に切り替えた。それで、ホクシン流剣術道場がその工作対象となり、狙われたというわけだ。
後日、裏付け捜査をしたところ、この証言は正しいことが判明、私は拷問主任官のデビュー戦で、大手柄を上げた。そして第一級アイズン勲章を受章することになった。
マホットは言う。
「才能だけなら、儂以上じゃ。儂なんて、デビュー戦は緊張で、ほとんど喋れんかったからのう・・・」
不本意ながら、拷問官として生きる道も、私にはあるのかもしれない・・・
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次回から第六章です。エミリアがどっぷりと魔王の手先になっていきます。




