53 キャリアアップ 2
魔王軍のアルバイトと魔王軍の四天王の役職手当で、私の経済状況は劇的に改善し、貯金も増えてきた。良い傾向だ。それに定期的に依頼のある魔物補充業務も、魔法研究所が偶に作り出すスケルトンを貰い受けることで、かなり楽になった。
スケルトンは未だに生成方法が確立されていない。いくつも仮説はあるのだが、それでも成功するのは30体に1体だという。これを無償で貰えることになった。というのも、スケルトン、特に元人間のスケルトンは命令に全く従わない。ホネリンは本当にレアケースらしい。
それにスケルトンは痛覚がないので、苦痛を与える方法がない。しかし、ライライ剣にだけは苦痛を感じるようで、私には嫌々従ってくれる。なので、私が町中を歩かせて魔王城まで、生成されたスケルトンを運搬するのだった。
「エミリア先生、またヤバいことしているよ」
「スケルトンを使役している・・・」
「スケルトンが可哀そうだ」
血塗れ仮面の格好はしているが、完全にバレている。隠す意味はあるのかと思うが、気持ちの問題だ。流石に素顔を晒して、こんなことはできない。給料が高いので、やっているだけだ。
そんな時、キュラリーさんとパーミラから呼び出しを受けた。用件を聞いて愕然とする。
「私に対する苦情ですか!?」
「大変申し上げにくいのですが・・・特に最近勤務し始めたスタッフや役員からの苦情です。報告書にまとめていますので、ご確認をお願いします」
報告書を確認する。酷い内容だった。
〇いつも道場におらず、フラフラしている。
〇怪しい施設、主に魔王城と拷問所に入り浸っている。
〇血塗れで、怪しげな魔物を連れて街中を闊歩している。
〇闘技場や魔王城で、よく相手を血塗れにしていて、気分が悪い。
〇道場主が道場の品格を落すのは許せない。
全て事実だが、これはすべて、道場のためを思ってやったことだ。
キュラリーさんが言う。
「もちろん、私や古くからいるスタッフは、十分理解していますが、昨日今日入ったスタッフは、そうではないようです。俗に言う「創業者の苦労も知らないで!!」とかいうやつですね。今のスタッフでも、パーミラのようにエミリア先生と触れ合う機会の多い者はそうでもないのですが、ほとんど接点がないスタッフは不気味に思っているのでしょうね・・・」
パーミラも続く。
「エミリア先生は、一生懸命にやっているだけなのに!!表面しか見ない人たちは、エミリア先生不要論まで持ち出してきます。本当に腹が立ちます」
最近の情勢を見ると確かにそう思われても仕方がない。
ホクシン流剣術道場は有名になり、国内だけでなく、国外からも多くの武芸者がやって来る。その武芸者たちは、それぞれ目標があって来ていることが多く、元々有名だった祖父、元近衛騎士団長のゴーケンや、元魔法剣士団長のティーグ、槍使いのオデットなど、ここに来た段階で、師事する者を決めていることが多い。
なので、好き好んで「血塗れの嬲り姫」である私に教えを請いに来る者はいない。
そのような状況に輪をかけて、最近ではソフト模擬戦クラスを含め、多くの指導者が育ってきて、私が直接指導することが激減したのだ。純粋な道場主の仕事は、式典の時の挨拶や来賓の接待くらいしかない。魔王城に入り浸るわけだ。
パーミラが言う。
「酷い人なんて、『ムサール先生の孫というだけで、何もせずのうのうと道場主をしている』と言っている人もいるんです。本当に許せません」
まあ、そうなるよね・・・
キュラリーさんが言う。
「次回の定例会までに対策を練ろうと思います。まずは資料作りから始めようと思いますので、先週一週間の業務内容をまとめてください」
すぐにその場でまとめる。まとめて見て驚愕した。
月曜日 午前中に拷問業務、午後から冒険者ギルドの指名依頼(デモンズラインにおける救出業務)
火曜日 終日魔王城でアルバイト
水曜日 終日魔物の捕獲業務
木曜日 拷問業務、酒場で暴れた門下生の引取り及びその指導
金曜日 ソフト模擬戦5人制リーグ戦での挨拶、その後、魔王城でのアルバイト
キュラリーさんとパーミラも絶句する。
だって、道場主としての純粋な仕事はリーグ戦での挨拶のみ、後は拷問と魔王城がほとんどで、緊急案件が2件だ。これでは、私の不要論が出ても仕方がない。
気を取り直したキュラリーさんが言う。
「魔王城については、マオ様からの正式な書面でもあれば、言い訳がつきますね。それにコーガルの町の中心的な施設ですから、領主であるルミナ様から、「最大限魔王城の運営に協力を要請をする」旨の書面を用意してもらえれば大丈夫でしょう。問題は拷問関係ですね。拷問所は国の機関ではあるのですが、理解を得にくい施設ですからね。どうにかして、正当性を担保する何かがあればいいのですが・・・」
これを受けて、私は拷問所所長のマホットを訪ねて、相談をした。
「なるほどのう・・・だったら拷問主任官になるとよい。これは国際的な資格だから、強いぞ。一定数の拷問経験と筆記試験に合格すれば、取得できる。儂も推薦状を書くから、実質筆記試験さえ合格すればいいだけだからな。因みに儂は、最上位の拷問管理官じゃ。エミリア殿も経験を積めば、拷問管理官になれるぞ」
これからの人生、拷問官として歩むことは考えてないが、とりあえず、拷問主任官の資格を取得することにした。勉強してみて、拷問とは奥が深いものだと分かった。拷問をしていい要件は厳しく定められているし、個人的な恨みで拷問してはいけないことになっている。また、肉体的苦痛よりも精神的苦痛を与える方が良いとされ、如何に肉体にダメージを与えずに拷問ができるかが、拷問官の腕の見せ所らしい。となると私のライライ剣は、拷問に最適の必殺技だ。
因みに拷問官の階級は、拷問補助官(拷問主任官の監督の元、拷問ができる。今の私のポジションで、外部委託も可能)、拷問主任官(自分の判断で拷問ができ、拷問補助官に指示ができる)、拷問監督官(小規模の拷問所を運営できる)、拷問管理官(すべての拷問所を運営できる)らしい。
マホットは最上位の拷問管理官なので、ここの拷問所は、かなりの重要施設だといっていいようだ。
試験は無事に合格、私は晴れて、拷問主任官になってしまった。
冷静に考えて、私は肩書きが増えた。道場主の他に魔王軍四天王、魔王城アルバイトリーダー、拷問主任官だ。
★★★
そして、いよいよ定例会が始まった。
キュラリーさんが、私の代わりに業務内容などを説明してくれる。
「エミリア先生は、各種書状にもありますように、道場のために魔王城での業務を請け負い、また、拷問所でも拷問主任官として、我が道場の発展のために尽力されています。決して遊んでいたり、フラフラしているわけではないのです」
ここでアゲントという、最近役員になった男が反対意見を述べる。どういったわけか、入って3ヶ月足らずでこの地位まで登りつめたという。何かしらの力が働いていると言われていた。
「しかしですね。スタッフだけでなく、門下生や一般住民からも苦情が入っています。道場主が拷問やその他の業務をする必要はあるのでしょうか?この際アルバイト禁止にするか、道場主を退くかを決断していただきたい。よって、ここにエミリア殿の退任決議を発議します!!」
おいおい!!アルバイト禁止だと?
私に死ねと言うのか?
問題はそこではないか・・・
とりあえず、採決をした。一応否決されたが、賛成派は4割もいた。アゲントが事前に根回しをしていたようだ。定例会の規定では、反対が3割以上だと、再議決の必要がある。これは、なるべく穏便な形で、運営していこうという趣旨からだ。
そんな時、祖父が言う。
「ここが一般の商会や国の機関であれば、多数決で決めても文句はない。しかし、ここは剣術道場じゃ。それも実戦型のな。文句があるなら決闘でもすればいい。エミリアよ、そうしてあげなさい」
これに対し、賛成に回っていた役員の大半は、手の平を返す。
「決闘とは物騒な・・・決闘するくらいなら、私はエミリア先生を支持します」
「私もです」
「アゲント役員から、苦情を放置しない方がいいと言われたから賛成しただけで、本当は辞めてほしいと思っていません」
アゲントが言う。
「ちょっと、話が違うじゃないか!!」
祖父が言う。
「では、この議案の代表者がアゲント殿であるなら、アゲント殿とエミリアが決闘して、その結果を見て、再議決することにしよう」
結局、私はアゲントと決闘することになってしまった。
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