52 キャリアアップ
私が導き出したのは恐ろしい仮説だった。
それを話す前にRPGゲーム「雷獣物語」の話をしよう。「雷獣物語」は様々な伏線が張り巡らされていたのだが、その多くが回収されていない。四天王も三人しか登場しないし、魔王が勇者に討たれた時も意味深なことを言う。奇しくもミニ魔王城でカイン君にやられた時の台詞がゲームと一緒だった。
「貴様が真の勇者であることは分かった。しかし、妾など、雷獣を従える真の支配者から見れば、ただの小間使いでしかない。勇者よ。世界を救いたければ、今後も驕らずにしっかり精進せよ。さらばじゃ!!」
当時のことを振り返れば、何かの雑誌の特集で、「雷獣物語」の次回作で、伏線のすべてが回収されるという話だった。結局、「雷獣物語」発売後20年が経過しても、次回作は発売されなかった。これは制作会社が倒産したことが原因だ。元々経営状態は悪く、「雷獣物語」のヒットで持ち直したものの、経営再建には至らなかったようだ。
そこで、私の仮説に戻るのだが、ゲームでいうと、「雷獣物語」の次回作に突入しているのではないかということだ。
無理やりだが形式上、魔王は勇者パーミラ一家に討たれたことになってしまい、ストーリーが次回作に進んだのかもしれない。こう思うには理由がある。
まず、魔王の最後の台詞で仄めかした黒幕だが、ネットなどの噂では、登場しなかった四天王ではないかと言われていた。また「雷獣物語」の一番のツッコミどころは、タイトルでもある雷獣が登場しないことだ。私でさえ、大声でツッコミを入れたものだ。
雷獣出て来んのかーい!!
それらを考慮し、ライライ=雷獣、魔王最後の言葉「雷獣を従える真の支配者」、ネットの噂では、「黒幕は最後の四天王」・・・そうなると結論は一つ。
黒幕って、私かーい!!
なぜだ!?私は世界を救うため、いつ来るともしれない勇者を待ち続け、道場を維持してきただけなのに・・・
考えても分からない。それにこれからは前世のゲーム知識がほぼ使えない。ゲームでは、普通のRPGと同じように「悪の魔王を倒しました。世界は平和になりました。めでたしめでたし」という形でエンディングを迎える。
つまり、これから、世界がどう動くか全く予想ができないのだ。
途方に暮れた私は、今後の自分の人生を深く考えるのだった。
もしかしたら、新たな勇者が世界のどこかで誕生し、私を討伐しに来るのか?
そんな可能性も否定はできない。今のホクシン流剣術道場の状況を考えると、魔王もいるし、ゴーケンみたいな猛者もいる。日々拷問所からは悲鳴が聞こえ、魔物やスケルトンが普通に闊歩するこの地区は、悪の総本山と思われても仕方がない。
となると何かあったら、逃げるしかない。そのためには、まとまった資金が必要だ。私が資金を稼ぐ手段は限られている。結局、頼ったのは魔王だった。
「なるほど・・・父親の借金か・・・よし、それならば、エミリアをバイトリーダーにしてやろう。時給も上がるからな。だが、それには試練を受けてもらわねばならん」
「はい、頑張ります」
その試練というのは、普通の筆記試験だった。一般常識もあったが、特殊な科目もあった。
「初級ダンジョン学入門」?
魔王は、魔王城はダンジョンではないと言っていたけど・・・
ただ、この科目の勉強は面白かった。しかし、これは、秘密にしなければならない内容だった。教科書の1ページ目にこう記されていた。
「この教科書を読み進めるに当たって注意をしておく。これ以上読み進めるのなら、覚悟することだ。この教科書の内容をダンジョン関係者以外に漏らした場合は、一族郎党皆殺しにする。その覚悟があれば読め」
迷った挙句、私は読むことにした。
ダンジョンは基本的にダンジョンポイントという魔力に似たエネルギーを集めるために設置されているという。多くの挑戦者、中でも猛者が来れば来るほどダンジョンポイントが溜まるようだ。そんなことが書いてあった。他にも、スタンビートの発生原理についても記載があり、ダンジョン防衛機能の一つだと分かった。よく思い出してみると、ダンジョンブレイカーが来た時にセバスがスタンビートを発動させるように魔王に言ったのだが、魔王はそれを止めていた。
そう考えると、魔王は意外に良心的なのかもしれない。
別にダンジョンを経営することはないし、私は軽い気持ちでこの試験を受けることにした。結果は見事合格、私はバイトリーダーに昇格したのだった。
「エミリアよ、見事じゃ。これも四天王としてやっていくには、必要な知識じゃからな」
「流石に四天王は早いような・・・」
「何を言う。もうお前は四天王じゃ。それに役職手当も支給するぞ」
役職手当に負け、私は正式に四天王にもなってしまった。
ここで魔王軍四天王なのにバイトって?という疑問が湧くかもしれないが、それには訳がある。魔王軍と魔王本人は否定しているが、ダンジョンのような魔王城は別の組織なのだ。だから、四天王が魔王城のアルバイトをしていても不思議ではない。魔王は魔王軍の長であり、魔王城のオーナーでもあるのだ。魔王は日本で言うところの、会社をいくつも経営している実業家ということになる。
つまり、私は魔王城のアルバイトでありながら、魔王軍四天王という新たな仕事もさせられる羽目になったというわけだ。
早速、魔王からの仕事を受ける。
「それでは、早速仕事をしてもらおうかのう。最初の仕事は魔物の補充じゃ。リストを渡すから、それを連れて来て、魔王城の各階層に配置しておいてくれ」
「は、はい・・・」
通常のダンジョンであれば、スポーンという魔物発生装置を利用するのだが、壊れることもあり、スタンビートが稀に発生することがある。魔王の方針で魔王城はスポーンを使わずに魔物を用意しているそうだ。
魔王軍のメイン業務の一つが、この魔物補充なのだという。魔王から魔王軍の担当者を紹介してもらい、話を聞く。私と同じように魔王軍でありながら、魔王城のスタッフをしている者もいるのだ。
「かなり大変なんですよね。エミリア様が来てくれて本当に助かります」
「それで、補充できない場合はどうするのですか?」
「それはですね・・・用意できるまで、自分たちで魔物の代わりをします」
「・・・・」
なんという力業!!
よく聞いてみると、それなりに真面目にやれば、達成できないことはなく、今までそのような事態になったことはないそうだ。
担当者にリストを見せ、アドバイスをもらう。
「C~Eランクの魔物20体はすぐに集められると思います。エミリア様は闘技場用に魔物を集めてらっしゃるので、その量を増やせばいいと思います。ただ、このAランク以上というのは、少し難しいかもしれませんね。多分12階層以上を想定した魔物でしょうし・・・」
となると・・・
★★★
結局やることは変わらなかった。今も闘技場や魔法研究所用や闘技場用に魔物を用意しているしね。その量が増えただけだ。問題は運搬に冒険者を使えないことだ。魔王がよく言う世界観を壊さないためだ。それで考えたのは火竜フランメを使うことだ。魔王に許可を求める。
「うむ、それはいい案じゃ。ただ、奴がうんと言うかのう?奴が所在不明になったのも、魔王軍の仕事が嫌だったからじゃしな・・・」
とりあえず、フランメに聞いてみる。
「嫌だよ。働きたくないよ・・・ゴロゴロしていたいんだ」
これにキレた私は、ちょっと怒鳴ってしまった。
「おい!!馬鹿ドラゴン!!舐めた口を利くと、またビリビリしてやるよ!!」
「ひっ!!や、やります・・・」
そこからは真面目に取り組んでくれるようになった。ただ、フランメは戦闘には使えない。強すぎて、魔物を瞬殺してしまうからだ。なので、「返し突き」を繰り返す捕獲までのプロセスは変わらない。でも空を飛んで移動できるので、運搬や移動はかなり楽になったけどね。
ノルマを達成した私は、魔王に報告する。
「フランメに言うことを聞かせるとは、恐れ入った。妾もフランメの親から頼まれていたから、嬉しい限りじゃ。これで、フランメの親にも報告ができる。礼を言うぞ」
私の魔王軍での評価が上がった。
因みにフランメは、ドラゴンでいうと幼竜になるそうだ。それに女の子だ。
孤児だったミミとメメといい、オルグも比較的若いオーガだし、魔王軍は教育機関なのかもしれないと思ってしまった。
まあ、そんな感じで、現実逃避かもしれないが、とりあえずはバイトを頑張ることにしたというわけだ。
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