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50 幕間 祖父の願い

 ~ムサール視点~


 儂は今、妻のエルザとともに国王陛下とその側近たちと、極秘会談をしている。国王陛下が言う。


「ところで、エミリアには言わなくてもいいのか?我としてはエミリアにも国のために働いてもらいたいのだがな」

「陛下、何度も申しましたように、あの子にこんなことは、させたくないのです」

「だが、あの実力だ。時代がエミリアを放って置かんかもしれんぞ」

「そうなってしまったら、仕方はありません。しかし、それまでは普通に生活をさせたいと思っております」



 儂の孫エミリアは、少し変わった子だった。

 儂やエルザ、そして息子のコジールの血を引いているのに、剣術の才能は皆無だった。心優しく、誰に対しても分け隔てなく接するエミリアを儂もエルザも、つい甘やかしてしまった。息子のコジールは、それでもエミリアに厳しく訓練をさせていた。

 エミリアの母アナスタシアも相当の武人だったので、自分と妻の血を引いた娘の不甲斐なさが許せなかったのだろう。


 というのも、エミリアには病死と言っているが、本当は犯罪組織カラブリアの手の者に惨殺されたのだ。エミリアにこのことを言っていないのは、復讐に人生を捧げてほしくなかったからだ。これには代々ホクシン家が背負って来たカルマが関係する。ホクシン流剣術道場という表向きの看板とは別に代々ニシレッド王国の暗部として、国に仕えて来た。当然、後ろ暗い仕事もする。

 コジールには、常々こう言っていた。


「エミリアには剣術の才能は皆無じゃ。もうこんなことは儂らの代で終わらそう」

「しかし、父上!!アナの仇を・・・」

「それは儂らがやればよかろう。エミリアにそういったことをさせたくはないのじゃ」

「分かりました。ですが最低限の訓練だけはさせます」


 最低限とは言うものの、それは厳しい訓練だった。子供にさせる訓練ではない。それでもエミリアがスキルを全く身に付けなかったのは、不思議だった。しかし、エミリアが8歳の時に転機が訪れる。コジールの技をすべて受け流し、突きを繰り出した。最初はマグレだと思っていたが、そうではなかった。だんだんとその回数は増えていき、とうとうすべての攻撃を受け流し、突きを当てるようになる。

 そして、ショックを受けたコジールは、修行の旅に出てしまった、エミリアを残して。


 そこから儂とエルザで、エミリアの面倒を見ていたのだが、エミリアは厳しい修行をするわけでもなく、趣味程度の訓練しかしなかった。それでも実力は伸びていく。15歳の時、儂はエミリアに完全敗北した。長年の修行で身に付けた渾身の必殺技、「乱れ桜」があっさりと返されたのだ。

 こうなると、エミリアに道場主を譲るしかなかった。しかし、エミリアに道場を譲るということは、優しいエミリアに後ろ暗い仕事をさせることになる。それはどうしても避けたかった。なので、一計を案じる。金銭的に追い込むことにした。道場を経営破綻に追い込み、自分の意思で「道場を閉める」と言ってほしかったのだ。


 しかし、結果は予想外の展開を迎えた。

 すぐに音を上げると思っていたが、その逆境に打ち勝ち、ホクシン流剣術道場は大発展する。ここまで大きくなるとどうしようもない。ここで儂の中である仮説が生まれた。エミリアは追い込まれれば、追い込まれるほど、力を発揮するスキルを持っているのだと。


 その昔、自分を窮地に立たせて初めて、大きな力を出せる伝説の剣士が居たという。その剣士のスキルは「背水の陣」だったと古い文献にあった。エミリアも伝説の剣士と同じスキルを持っていると確信した。なので、心を鬼にして、エミリアを追い込んでいる。武力では勝てないので、主に金銭面でだが・・・


 儂にできるのは、エミリアの才能を開花させることだけだからな。



 会談は続き、今後の話になった。マホットが言う。コイツとも長い付き合いだ。共にこの国の暗部を支えてきた仲だ。


「一連の事件はカラブリアだけでなく、教会の狂信者も関与していると伺える。カラブリアと教会に何かしらのつながりがあると推察されるのじゃが・・・」


 国王陛下が言う。


「だが、大きな声では言うな。確証が掴めるまではな」


 カラブリアか・・・ここまで調査しても、組織の全容は分からない。エミリアのお陰で、少しずつ実態解明は進んではいるのだが・・・


「ところで魔王城の主、マオについてだが、どうだ?」


 国王陛下に尋ねられ、答える。


「間違いなく、魔王国の魔王です。しかし、今のところ危険性はありません。何も知らないエミリアとも打ち解けておりますし。何か目的はあるようですが、悪い人物ではないと思われます」

「それは我も思う。だが、監視は怠るな」

「御意!!」


 そんな話が続き、極秘会談は終了した。


 終わった後にエルザと話した。


「ムサール、思いつめなくていいわよ。エミリアなら何とかなるわ。ああ見えて、あの子は強いのよ」

「それは分かっておるが、アナスタシアのようにはしたくないからな。あれほどの武人であったのに・・・」

「アナスタシアもコジールも、強いがゆえに他人に頼ろうとしなかった。多勢に無勢ではね・・・でもエミリアには多くの仲間がいるのよ。ポン、ポコ、リンもそうだし、ゴーケンさんやオデットさん、最近ではマオさんたちもね。みんなエミリアが困ったら支えてくれる」

「そうだな・・・微力ながら、儂らもおるしな」


 今後どうなるか分からないが、エミリアには幸せになってほしいと強く思う、

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!


独り言

ただの強欲ジジイではなかったんですね・・・


ちょっと短編を書きましたので、箸休めにどうぞ。


「異世界スプーンおじさん」

https://ncode.syosetu.com/n6003ki/


しがないアラフォーサラリーマン須崎啓介は電車事故に巻き込まれ、気付くと神殿のような場所に転移していた。そこには108人の乗客がおり、女神を取り囲むように人だかりができていた。女神の話では、この108人は、世界を救う使命を受けた勇者らしく、「神器」という聖なる武器を渡されて、異世界に転移されるという。しかし、この「神器」が大問題だった。順番に「神器」を渡されて、転移して行く者たちを見送る啓介だったが、途中で気付く、これってネタ切れしてないか?

案の定、108人の最後に啓介が受け取った神器はハズレ中のハズレで、武器とは呼べない「スプーン」だった。これは後に伝説の勇者となる男の始まりの物語である。

※この物語は短編ですが、反応が良ければ連載も考えております。

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