5 金の掛かる居候 2
ルミナとメイラを救出した私は、ポン、ポコ、リンとギルドで別れ、ルミナとメイラを実家に招待することにした。二人とも祖父と面識があるようだし、どう見ても訳アリだからね。
帰り道、串焼きの屋台の前でライライが鳴き出した。ライライはルミナにも懐いているようで、頬をルミナの胸に擦り付けて「ライライ」と何度も鳴いている。おねだりしているのだ。
「ルミナ様、買ってあげてもいいですよ。そうしたらライライも喜ぶと思います」
「そ、そうなんですね・・・」
浮かない顔をするルミナに変わってメイラが答える。
「申し訳ございません、エミリア様。私どもは路銀が尽きてしまいまして・・・」
チッ!!文無しか・・・
だが、ここで無下に扱うことはできない。ルミナを救出したお礼をたんまりと領主様から貰える予定なので、串焼きくらい安いものだ。それに今回はライライが大活躍だったからね。
「気にしないでください。ここは私が立て替えますよ」
結局、私は2本、メイラが5本、ルミナとライライが10本食べることになった。ルミナも見かけによらずによく食べる。聞いたところ、しばらく碌に食べられていなかったようだ。
家に着くと早速、祖父と祖母に二人を紹介した。
「お久しぶりです。ムサール様、エルザ様」
「おお、ルミナ嬢か?大きくなられたな!!何もないがゆっくりしていってくだされ」
「ありがとうございます」
しばらく、昔話に花を咲かせた後にデモンズラインにいた理由を話始めた。
「会ったことのない40過ぎの貴族と結婚させられそうになり、それが嫌で、私は家出をしてしまいました。とりあえず、魔法の才能を生かして冒険者になろうと思ったのですが、詐欺に遭い、路銀をすべて奪われてしまったのです。だから、仕方なくデモンズラインまで入って・・・」
私が言うのも何だが、一発逆転を狙ってデモンズラインに入ったようだ。私はその点、しっかりとリサーチしているからね。まあ、その年齢で40過ぎの男と結婚させられそうになったら、私でも嫌だから、家出したのも頷ける。
祖母が言う。
「事情はよく分かりました。しばらく当家で保護させていただきます。ただ、お父様にお知らせしない訳にはいきません。その点はご了承ください。それとメイラさん、少しお話があります」
そう言うと祖母は、メイラを連れて出て行ってしまった。
それからしばらくは、のんびり過ごすことになった。ルミナが実家に連れ戻され、望まない結婚をするのは可哀そうに思うが、それも貴族の務めだ。それよりも私は彼女の父親から貰える報奨金が欲しいのだ。ルミナを保護してから、今か今かと領主様の使者を待ち続ける日々を過ごしていた。
使者が来るまではとりあえず、冒険には連れていってあげた。流石にデモンズラインは危ないので、初心者でも大丈夫な場所にだ。せめてこの短い間だけでも楽しく過ごさせてあげたいと思ったからだ。収入は減るけど、報奨金で回収できるので、ルミナとメイラの装備も新調してあげた。これも後で請求してやろう。
そんなことをしていたら、ルミナが懐いてしまった。
「エミリアお姉様・・・ずっと一緒にいたいですわ」
私のことをお姉様と呼ぶようになってしまった。メイラが言うには、ルミナは母親を早くに亡くしており、甘える対象がいなかったからではないかとのことだった。
「私もつらいけど、とりあえず、今を楽しみましょうよ」
「はい、エミリアお姉様!!」
一緒にいると情が移ってしまう。いつしかルミナと離れたくないと思うようになってしまった。でも仕方がない。領主様にルミナの結婚を考え直すように進言するわけにもいかないしね。
★★★
悲劇は突然訪れた。やって来た領主様の使者から驚きの事実を伝えられた。
「ルミナ・バンデッドを廃嫡する。以後、家名を名乗ることは許さず、ただのルミナとして生きること。当家としては、ルミナを助けてくれたことは感謝している。報奨金に変わるものとして、ムサール氏に当家から貸し付けている債務を免除するものとする」
祖父とルミナは大喜びしている。
しかし、冷静になって考えると私には銅貨1枚も入ってこないということだ。それに借金って・・・このクソジジイは一体何に金を使ったんだ?
更に追い打ちを掛けるように祖母が言う。
「厳しいことを言いますが、ルミナ様たちの家賃と食費は払ってもらいますよ。それにメイラさんについてもです。ここまで優秀なメイドを無料で使い続けるなんて考えられませんよ。メイラさんならどこに行っても引く手あまたでしょうからね。メイラさんのお給料を全額出せとは言いません。当家でもお手伝いをしてもらいますから、半額は負担してください。
いいですね!?エミリア、ルミナ様!!」
ルミナに投資した資金は回収できず、ルミナとメイラの家賃と食費、それにメイラの給料の半分を支払わなくてはならなくなった。金の掛かるペットに加えて、金の掛かる居候まで手に入れてしまった。これから、どうすればいいのだろうか・・・
そんな私の気持ちなどお構いなしに、能天気にルミナが言う。
「よかったですわ!!折角ですからお祝いをしましょう!!ライライちゃんもいっぱい食べましょうね」
無駄飯喰らいのごく潰しどもが!!立場を弁えろ!!
怒鳴りたくなったが、止めておいた。
その日の夜、メイラが私の部屋に訪ねて来た。
「改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」
「今更、畏まらなくていいよ」
「では本題に入らせていただきます。まず、旦那様がルミナ様を廃嫡されたことは何か意図があってのことだと考えられます。旦那様は誰よりもルミナ様を愛していらっしゃいましたし、廃嫡なんて普通に考えれば絶対にしないようなことなのです」
となると、まだ報奨金が貰える可能性があるのか?
「ルミナ様を貴族に嫁がせる件も何かの陰謀があったと思われます。最近、バンデッド家の資金繰りは悪化し・・・」
じゃあ結局、貰えないのか・・・
私が落ち込んでいるのも気にせず、メイラは言う。
「また、ムサール様もエルザ様も何か意図があってエミリア様に厳しくしているように見受けられます。あのお二人が、あのようにお金に意地汚くなるはずはありません」
「そうなの?」
よく考えてみたら、お金に汚くなったのは、私が道場を継いでからだしね。それまでは、お金のことを気にするわけでもなく、不自由な生活を強いられることもなかった。それに恩給もかなりの額を貰っているはずだ。元剣術指南役と元侍女頭だからね。
ここで少し、私の家族のことを話しておく。
祖父のムサールはSランク冒険者で、ニシレッド王国の元剣術指南役だ。未だにその名声は衰えないし、祖母のエルザは宮廷で侍女頭まで務めた人物だ。気品に溢れ、気遣いもできる。それに戦闘力も意外に高い。メイド流戦闘術の免許皆伝の腕前だ。なので、侍女やメイドたちの間では知る人ぞ知る伝説の人物らしい。ここにいるメイラも祖母には心酔している様子だ。
私の母は私を産んですぐに他界、父親は私が8歳の時に「剣の道を極めるために武者修行に出る」と言って、それ以後消息不明となっている。まあ、母親の記憶なんてないし、父親の思い出も厳しく訓練をさせられていたくらいしかない。何だかんだ言いながらもここまで育ててくれた祖父と祖母には感謝しているんだよね。
それは置いておいて、メイラの話に戻る。
「それでエミリア様に質問なんですが、エミリア様は冒険者として身を立てようとしているのですか?それとも剣術家としてでしょうか?」
この質問に私は即答できなかった。
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