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49 観閲式のリハーサル

 コーガルの町は物々しい状態になっている。

 というのも部隊観閲式のリハーサルと武闘大会が開催されるからだ。王都で5年に一度、開催される武闘大会だが、今年は10数年に一度の部隊観閲式がある関係でコーガルで開催するのだという。部隊観閲式は、ニシレッド王国のあるサンドラ大陸だけでなく、別大陸の大国も持ち回りで開催する大イベントだ。それが今年はニシレッド王国での開催となったのだ。


 ぶっちゃけて言うと、「ウチの国はこんなに凄い軍隊を持っているんだ。攻めてきたら大変なことになるよ」というメッセージを他国に示す、重要なイベントなのだ。逆に「なんか弱そうだな。攻めても余裕で勝てるかも?」と思われたら大変なので、国の威信を懸けたイベントなのだ。

 このイベントのお陰かどうか分からないが、ここ20年は、大きな戦争は起きていない。


 なぜ、コーガルの町で観閲式のリハーサルが行われるかというと、このコーガルにニシレッド王国の戦力が集中しているからだ。数ではない質においてだ。ゴーケンはもちろんだが、元魔法剣士団長のティーグや騎士団のエースだったオデット、元宮廷魔導士団のシェリル、元団長のマホットなどの豪華の顔ぶれとホクシン流剣術道場で技を磨いた若手の騎士が多数いるからだ。

 国王陛下のお考えでは、実際の訓練状況を見て、王都で行われる部隊観閲式に連れていくメンバーを選定したいとのことだった。


 そして、武闘大会をコーガルで開催する理由なのだが、裏の事情もあるようだった。国王陛下は言う。


「多くの貴族から要望があってな。王都で恥を晒したくないと言うのだ。各領の最強戦士でも、コーガルだと、その辺の一般人と大差ないからな。それで、参加者が激減した関係で今回は、コーガルでの開催になったのだ」


 ここでも我がホクシン流剣術道場が、大きく影響しているようだった。


 リハーサルに先駆けて、武闘大会が行われた。今回から剣士、魔法剣士などの近接戦闘部門と直接戦わない魔導士部門と弓兵部門が新設された。ゴーケンやオデットが出れば、大変なことになるので、彼らは出場しなかったこともあり、魔導士部門ではルミナが、弓兵部門ではポコが優勝していた。

 そして、近接戦闘部門の決勝は、ドノバンとリンが対決することになった。


 私はというと、ホクシン流剣術道場の道場主として、国王陛下や国の重鎮たちのエスコートをしていた。細かいことはキュラリーさんやパーミラにお任せで、ただ、国王陛下たちと行動を共にするだけだったけどね。


 試合が始まる。

 白熱した展開になった。魔法剣士であるドノバンとこれぞ剣士といったリンとの戦いだ。剣術だけではリンの方が上だが、それをドノバンは上手く魔法で目先を変えながら戦っている。近衛騎士団長と騎士団長が会話をしている。


「今回はかなり盛り上がってますな。前回は異様な雰囲気でしたからな」

「これぞ、決勝という戦いだな。前回のような試合は、他国には見せられんからな」

「そうですな。今思い出しても、ゾッとしますぞ」


 それって、私のことを言っているよね?


 国王陛下も会話に入る。


「我としては、有望な若手が育って嬉しく思う。国を背負って立つ人材が多くいることは、喜ばしい。グラゼル侯爵もご子息をホクシン流剣術道場に預けてよかったであろう?」


 ドノバンの父親のグラゼル侯爵が答える。


「そうですね。素晴らしい伴侶とも巡り会えたようですしね。あの馬鹿息子の成長を見ると、親としても本当に嬉しい限りです」


 ルミナの父親であるバンデッド伯爵も言う。


「私の娘もですよ。鼻っ柱の強い、少し魔法が得意なだけの娘だったのが、ここまで成長するとは思いませんでした。これもホクシン流剣術道場やムサール先生方のお陰ですよ」


 道場を褒めてもらって、正直に嬉しい。


 試合はというと、僅差でリンが勝利した。会場は大きな拍手に包まれた。


 興奮が冷めやらぬ中、場内にアナウンスが響き渡る。


「現在、国軍の精鋭部隊が魔王城を攻略中です。7階層の大迷路を攻略し、現時点は8階層です。中央のスクリーンをご覧ください」


 魔王の計らいで、設置された魔道具から映像が映し出される。魔王が言うには、魔王城のPRにもなるからと、協力してくれたのだ。

 攻略に当たっているのは、近衛騎士団から2名、騎士団と宮廷魔導士団から1名ずつの4人にポンを加えたメンバーだった。ポンは影の軍団の副団長で、実力も確かなので、国の仕事を請け負うことも多く、その道では名の知られた存在だ。戦闘力は高くても、ダンジョン攻略には不慣れなメンバーを上手くサポートしていた。


 国王陛下が言う。


「ムサール、エミリアよ。騎士団や近衛騎士団の者たちに活躍の機会を与えてくれたことを有難く思う。ホクシン流剣術道場ばかりが目立っては、彼らの立つ瀬がないなからな」


 近衛騎士団長と騎士団長は、恐縮している。


「おっと!!9階層を攻略しました。次の10階層はエリアボスが控えています。未だかつて、このエリアボスを倒した挑戦者はいません。初の撃破となるか!?」


 要は初めての10階層攻略という名誉を国軍の精鋭部隊が獲得することで、国としての威信を保とうということなのだ。10階層のボスはキラーゴーレム君2号だけど、精鋭部隊はこっそり、キラーゴーレム君1号と模擬戦を繰り返していたので、問題はないだろう。


 戦闘が始まると、作戦通りの展開になる。キラーゴーレムは巨大なゴーレムで左右に剣を持ち、背中にボウガンを背負っている。1体で近接攻撃と遠距離攻撃を行える優れものなのだ。戦い方は色々とあるが、精鋭部隊が選んだ戦術は、力業だった。連携して、絶え間なく攻撃を加える。

 国王陛下が言う。


「なるほどな・・・下手に距離を取るよりも、ボウガンの攻撃を封じるために一斉攻撃に出たか。巨大な敵に向かっていく気概は評価しよう」


 そして、決着の時が訪れた。物陰に潜んでいたポンが斧で、キラーゴーレムを一刀両断にした。騎士団長が唸る。


「ただの力業に見せて、これを隠し持っていたのか!!」


 これは凄いね。

 それにしても、ポン、ポコ、リンが大活躍している。同じパーティーとして誇らしい。因みにだが、最近は一緒に冒険者活動をほとんんどしていない。それぞれが忙しいというのもあるが、私が足手纏いになってしまうからだ。近接戦であれば、リンが普通に倒してしまうから、私の役目は、ほぼないのだ。これが悲しい現実だ。


 キラーゴーレムの討伐報酬はアダマンタイトのインゴットだった。会場は盛り上がる。魔王も大盤振る舞いをしたものだ。

 その後、ポンたちは11階層に到達、そこで店を開いているレドンタさんに会い、買い物をしている状況が映し出される。

 レドンタさんによる、CMのような映像が続く。


「私たちは、ダンジョンの最下層から火山の頂上まで、どこでも貴方のご来店をお待ちしています!!」


 会場は騒然となる。気持ちは分かるよ。

 誰がそんなとこまで買い物に行くんだって思うよね?


 空気を読んだスタッフが映像を止めた。


 次の日、帰還したポンから話を聞いた。


「12階層からは、マジでヤバいぞ!!何とか13階層まで行ったが、逃げるしかなかった。誰が攻略できるんだって思ったよ。今の俺たちじゃ無理だな」

「そうなの?じゃあ、どんなメンバーだったら大丈夫?」

「そうだな・・・シャドウ師匠、ゴーケンさん、オデットさん、ティーグさんを揃えたら行けるんじゃないか?」


 そんなメンバーなら、ダンジョンどころか、世界征服もできるだろう。


 ★★★


 その後数日間、リハーサルは続いた。

 部隊行進や想定訓練をしていたが、圧巻だった。多分、これを見て攻め込んでやろうという国はいないだろう。よっぽど頭のおかしいイカれた国は別だが。


 そして、ゴーケンたち猛者、ドノバンを筆頭にした部隊、おまけにレミールさんを筆頭にした戦闘メイド隊、エルフ隊まで、部隊観閲式のため、王都に向かうことになった。国王陛下も感覚がバグったのだろう。見せられるだけ、見せてやるとか言っていたな・・・


 というわけで、コーガルの町は少し手薄になる。1軍戦力が王都に行ってしまったからだ。まあ、心配はしてないけどね。

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