48 魔王、討たれる
ダンジョンブレイカー事件があってから、ルミナ直轄の領兵や冒険者ギルドの警備強化、影の軍団の情報収集などで、あれから大きな問題は起きていない。一番効果を上げたのは、ホクシン流剣術道場の猛者クラスのメンバーによる自主防犯パトロールだ。
彼らはボランティアだが、ご飯代として銀貨3枚を支給している。それに目を付けたならず者の門下生が、その金で酒場に繰り出し、例のごとく誰彼構わず喧嘩を吹っかける。最終的には警備隊が駆け付けたり、ゴーケンや私が行って、治めたりするのだが、不思議と体にダンジョンブレイカーたちと同じような魔法陣が刻印された者が見付かる。
馬鹿門下生の一人に聞いてみた。
「それがよく分からないんですよね。最初に喧嘩していた奴じゃなかったと思うんですよ。何か正義感を出して止めに来た感じでした。まあ、返り討ちにしてやったんですけどね」
自慢げに言うが、相手の方が正しい気がする。一体奴らは、何者なんだろうか?
そんな形で、コーガルの町は落ち着きを取り戻し、魔王城も大盛況だ。
気を良くした魔王は、新たに施設をオープンさせた。それは親子連れを対象にしたミニ魔王城だ。5階建ての塔で、安全面を考えて戦闘はソフト剣を使った申し訳程度のものだが、迷路やトラップなんかは、かなり凝っている。多くの親子連れが挑戦するが、未だに攻略はなされていない。
最近のアルバイト業務は、こちらの施設で、明かに子供ではない挑戦者を排除するのが、メインの業務になっている。
そして今日もアルバイトで魔王城に向かう。最近は魔王城が私の執務室のようになっている。道場主として緊急の用件があるとそこに呼びに来てくれるようになってしまった。そして、今日も魔王とダラダラと過ごす。
そんなとき、セバスから魔王に報告があった。
「マオ様、ミニ魔王城で3階まで攻略した親子が現れましたので、報告に参りました」
「ほう・・・なかなかやるではないか。しかし4階層はちと難易度が高いぞ」
「ですが、それも攻略しそうな勢いです」
ミニ魔王城は、迷路やトラップだけでなく、謎解きや一般常識が必要になってくる。これは監修したのが、お祖母様とキュラリーさんだったことが大きい。二人としては、戦闘だけでなく、常識を持った優しい子供やその親たちに攻略してもらいたいとの思いがあったからだ。
一応、魔道具で確認してみると、なんと勇者パーミラ親子だった。パーミラと夫のアベル、それと息子のカイン君だ。
「なるほど・・・これは5階層まで来るかもしれんな。エミリアよ、5階層に来た時のマニュアルは理解しておるな?」
「はい、一応は・・・でも初めてですけど」
「妾も初めてじゃ。とりあえずミニ魔王城の5階層に移動するぞ」
私は魔王に連れられて、5階層の待機室に移動した。
魔道具で確認すると、パーミラ親子が迷路を攻略し、4階層、最後の試練に挑戦していた。
「ママ、ニシレッド王国の5代目国王が行った政策で有名なのは、他種族への差別の禁止でよかったよね?」
「そうよ。カインはよく勉強してるわね。ということは、右の扉ね」
そんな感じで、ダンジョン設定なのに歴史の問題とかも出るのだ。
そして、数々の試練を突破し、とうとう5階層へ通じる転移スポットに到着した。
「エミリアよ。そろそろ、我らも行こうぞ」
私たちは待機室を出て、配置に着いた。
★★★
5階層にやって来たパーミラ親子に私は、死角から「薙ぎ払い」を放ち、パーミラと夫のアベルを転ばせた。すかさず、スタッフとともにパーミラとアベルを拘束する。そして、怪しげな檻に二人を放り込んだ。怯えているパーミラの耳元でこっそりと言った。
「これは最後の試練で、カイン君の勇気を試すものです。危険はありませんから、安心してください。できれば、雰囲気を出すために大げさに怖がってください」
「えっ!!エミリア先生?」
「違います。血塗れ仮面です」
パーミラもアベルも空気が読めて、常識人なので、すぐに理解をしてくれた。少しわざとらしいが、演技もしてくれる。
「カイン!!助けて!!」
「捕まった!!もう駄目だ!!」
涙目のカイン君が叫ぶ。
「ママ!!パパ!!」
そこに怪しい仮面を付けた魔王が登場する。そして、怯えるカイン君に魔王はソフト剣を投げ付けて、こう言った。
「父と母を助けたいのなら、二つの選択肢がある。一つは妾に従い、共に世界を征服するか。それとも、その聖剣で妾に立ち向かい、妾を討ち倒すかじゃ。言っておくが、妾は、かなり強いぞ」
無茶苦茶な設定だが、子供相手ならこれくらいでも通用する。それにしてもソフト剣に派手な装飾を施しただけで、聖剣って・・・
カイン君は葛藤している。
そこにパーミラが叫ぶ。
「カイン!!パパとママのことは気にしないで!!世界を救って!!」
カイン君は意を決して、魔王に言う。
「僕は戦う!!たとえどんなにお前が強くても!!」
「ほう・・・後悔することになるぞ!!」
怯えながらもカイン君は向かって行く。しばらく微笑ましい戦闘が続いたところで、カイン君の聖剣が魔王のお腹辺りにヒットした。
「グワー!!やられた!!お主こそ真の勇者じゃ!!」
スタッフがこっそりと宝箱を用意して、魔王の後ろに置く。
「真の勇者には、これをやろう」
宝箱の中身はお菓子の詰め合わせなんだけどね。そして、カイン君は解放されたパーミラとアベルと抱き合う。そこに魔王が言う。
「貴様が真の勇者であることは分かった。しかし、妾など、雷獣を従える真の支配者から見れば、ただの小間使いでしかない。勇者よ。世界を救いたければ、今後も驕らずにしっかり精進せよ。さらばじゃ!!」
魔王と私は逃げるようにその場から立ち去った。
★★★
それからの話をする。このアトラクションは大人気になり、他の町からも大勢の親子連れがやって来た。何でも貴族の子弟の間では、ミニ魔王城を攻略することがステータスなのだという。それでも攻略できるのは、多くて30組に1組なんだけどね。
数が増えたので、私にも魔王役が回って来ることがある。同じアルバイトでも、レミールさんとオデット、シャドウは諸般の事情で外されているけどね。
そして、初攻略者のカイン君だが、勉強に剣術に頑張っている。魔王を討ち倒した聖剣を振り回して、今日もソフト模擬戦クラスで稽古に励んでいる。
「僕は勇者だ!!世界を救うんだ!!」
カイン君が本当に勇者なら、嬉しい限りだ。
カイン君の母親で、真の勇者であるパーミラの自信を無くさせた私がいうのもアレだが、今後は子供たちには、自信をつけさせる指導をしていこう。
そんなことに気付かされた出来事だった。
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