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46 魔王城のアルバイト 3

 魔王の魔道具で、魔王城内を確認する。

 マインちゃんが潜入している冒険者パーティーはすぐに見付かった。マインちゃんを除くと4人、戦士の男、剣士の男、魔導士の女、斥候の女だ。女性を二人入れていることで、女性冒険者も加入しやすくしているのだろう。


 そのパーティーは難なく5階層のボスであるレッサーゴーレムを破壊した。見るからにBランク以上の能力はありそうだ。

 マインちゃんはというと、怯えた様子で後方で震えていた。これは演技だろう。マインちゃんなら単独でレッサーゴーレムを撃破できるだろうしね。

 スタントンさんが言う。


「なかなかの手練れだな。俺が戦っても勝てなくはないが、殺し兼ねん。どうしても生け捕りにしたいから、エミリア嬢の出番というわけだ」

「じゃあ久しぶりにライライ剣を使いますよ。マオ様、経費のほうを・・・」

「よいぞ、存分に食べさせるがよい」


 シャドウはというと、偶に魔道具に映るくらいで、魔道具でも十分確認できない程だった。きちんと尾行はしているようだったけどね。


わらわには、シャドウの方が驚きじゃ。この高性能魔道具でも捉えきれんとはな。これなら、一度もボスと戦闘することもなく、わらわの元まで来れるじゃろう。本当に恐ろしい奴じゃ」


 しばらく監視を続ける。スタントンさんが言う。


「俺の見立てでは、7階層で事を起こしそうだな。あそこだったら、大迷路もあるし、「はぐれた」って言えばいいわけになるからな。マインもシャドウさんもそれは分かっていると思うが・・・」


 魔王が言う。


「ならばわらわから提案がある。そのような行為が確認された時点で、エミリアを投入しよう。だが、世界観を壊したくはないから、エミリア・・・」


 本当に!?でもやるしかないんだよね?



 ★★★


 件のパーティーは7階層にやって来た。斥候の女性が仕切りに周囲を確認している。それは罠やトリックを見破ろうとする動きではなく、他の冒険者パーティーがいないかどうかを確認しているようだった。もうすぐ犯行に打って出るのだろう。

 すると戦士の男がいきなり、斧でマインちゃんに斬り掛かった。マインちゃんは間一髪、これを躱す。そして、大げさな演技で叫ぶ。


「な、何をするんですか!?私をどうしようと?怖い!!止めてください」

「叫んだって誰も来ないぞ!!大人しく死ね。一発であの世に送ってやるからな」


 はい!!もう確定です!!


「マオさん、打ち合わせどおり、俺を6階層に送ってくれ。そこに冒険者パーティーを待機させている」

「うむ、そうしよう。エミリアよ、お主も打ち合わせ通り頼むぞ。登場も大事だからな」

「は、はい・・・」


 私が転移したのは、丁度マインちゃんと冒険者パーティーの間だった。突然のことで、マインちゃんも冒険者パーティーも驚いている。

 私は意を決して、打ち合わせ通りの台詞を言う。


「わ、我は血塗れ仮面!!神出鬼没の流れのダンジョンボスじゃ!!魔王城で不埒な真似は許さんぜよ!!」


 緊張のあまり、変な言葉遣いになってしまった。それにこの衣装はヤバすぎる。いつもの仮面を付けていなかったら自殺を考えるレベルだ。

 マインちゃんもドン引きしている。


「せ、先生・・・」


 物陰から姿を現したシャドウに言う。


「魔導士をお願い!!後は大丈夫よ」


 シャドウは物陰からナイフを投げ付け、魔導士の女を瞬殺した。いくら実力があっても、全く警戒してない死角からナイフが飛んで来たら避けられないよね。


 すぐに戦士と剣士、斥候の女が私に斬り掛かってくる。私は電撃魔法を付与されたレイピアで「返し突き」を繰り返す。いつも通りの展開だ。冒険者三人の悲鳴が響き渡る。最初に斥候の女、次に剣士の男の気持ちが折れた。


「こ、殺してください・・・」

「もうこれで楽になれる・・・」


 武器を捨てた二人をシャドウとマインちゃんが拘束する。戦士の男だけは最後まで向かって来た。


「もう諦めるのじゃ!!無駄ぜよ!!」


 おかしな言葉で警告する。


「それはできん・・・もし失敗すれば、家族が殺される・・・それは・・・」


 それから10回くらい、「返し突き」を繰り返し、途中何度か「薙ぎ払い」を使った。「薙ぎ払い」は以前は相手を転ばせるだけだが、ライライ剣でやると激しい苦痛を与えられる。最近、拷問ではこれを使っている。血塗れにならないからね。


 しばらくして、戦士の男は気絶した。

 丁度そこに冒険者を引き連れたスタントンさんがやって来た。


「相変わらずエグイな・・・」

「初めて見る奴だな?後は頼んだぞ。さらばじゃ!!」


 私はそう言うと颯爽とその場を立ち去った。

 スタントンさんが言う。


「エミリア嬢がおかしなことになっているが、それは置いておいて、とりあえずコイツらを拷問所に連れて行こう。話はそれからだ」



 しばらくして、私を悲劇が襲った。

 登場については、魔王から事細かに指示があったのだが、どうやって離脱するかについては全く指示されていなかったのだ。なので、7階層名物である大迷路を2時間近く彷徨うことになってしまった。ライライが私を今までにないくらい威嚇する。


「ライライライライ!!」

「ライライ!!もう少しだから・・・帰ったら、いっぱい食べさせてあげるから・・・」


 彷徨い続けた結果、捜索に来たセバスに救助された。魔王の部屋に戻り、報告をする。笑いながら魔王は言った。


「流石のエミリアも迷路は攻略できんかったようじゃな?わらわを散々痛めつけた仕返しと思ってくれ。これで、すべて水に流してやる。あっさりと殺してしまうよりも、徐々に痛めつけるほうが効果が高いことをわらわも学習したのじゃ。それにしても傑作だったのう。ミミとメメと共に笑い転げておったぞ」


 ミミとメメを見ると、表情が凍り付いていた。私が憎悪の炎を燃やし、睨み付けたからだ。

 だが、私は彼女たちに復讐はしなかった。これは私が人格者だったからではない。魔王から破格の特別報酬をもらったからだ。

 つまり、私は魔王の金という巨大な力に屈してしまったのだった。



 ★★★


 それから3日後、私はスタントンさんから呼び出しを受けた。訪ねるとそこには拷問所所長のマホットもいた。


「この前はご苦労だったな。拷問の結果だが、犯罪組織カラブリアの関与が判明した」

「またですか?ところで、犯罪組織カラブリアってどういった組織なのでしょうか?」


 ゲームでは、カラブリアなんて出てこなかった。一応、犯罪組織が何かをしているという描写はあったけど、特にメインストーリーに関係ないし、サブイベントもなかった。私が疑問を持つのも当然だ。


「実は、こっちもよく分からんのだ。どこに本部があって、何が目的で、どれくらいの規模なのか・・・全く不明だ。これまでの捜査から、奴らは巧妙に組織解明がされないようにしている。例を挙げると・・・」


 私が拷問した元騎士や今回マインちゃんを襲った冒険者パーティーのように、それなりに腕の立ちそうな者の弱みを握り、その者たちに実行犯をさせる。拘束された者は基本的に口を割らない。だが、口を割ったとしても、「カラブリアを名乗る怪しい男から指示された」という情報しか持っていない。


「これまでの捜査で、かなり大掛かりな組織であることは間違いない。だって、国や領の乗っ取り計画や王女の誘拐、普通のコソ泥なら絶対に手を出さない案件だ。国にも報告しているが、どうなることやら・・・もしかしたら、国の中枢にも奴らの手下が入り込んでいるかもしれんからな」


 ここでマホットが言う。


「今、儂らにできることは地道な捜査と拷問しかない。エミリア殿、より一層の協力を頼むぞ!!」


 私が物語の主人公であれば、この悪の組織を壊滅させるために立ち上がり、本部に乗り込むのだろう。   

 しかし私がやることは拷問らしい。


 やるせない・・・

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