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42 魔王軍襲来 2

 何の問題もないと思っていたが、そんなことはなかった。問題だらけだった。


 会議で承認された豪邸建設計画だったが、急ピッチで工事が進み、1カ月後には外観が完成した。こちらの世界では、魔法やスキルを使うので、現代日本よりも圧倒的に早く工事が進む。普通の家なら1日で建つからね。

 そして、完成した建物を見て、腰を抜かしそうになった。豪邸どころか、もはや城だった。それに工事中の看板の横に恐ろしいことが書いてあった。


「風雲!!魔王城、建築中。挑戦者求む」


 魔王城だって!?魔王が住む城だろ!?

 誰も何も言わなかったのか?


 工事中の建物の前で、偶々ルミナに会ったので聞いてみた。


「魔王城って!!どういうこと?」

「それはですね。ご令嬢のマオさんが言うには、ダンジョンのような、猛者が挑戦しに来る施設を作りたいとのことでした。実はシャドウさんも罠や迷路なんかの監修をしているようですよ。極秘任務だけど、こっそりと教えてもらいました」

「マオさん?」

「ああ、名前が長いので、みんなそう呼んでますよ。確か・・・」


 ディサーナーヤカ・ギハーン・ヒューバート・ブレイン・マオ・・・間違いなくゲームに登場する魔王だった。それにシャドウが監修をしているだって!?


 何からツッコミを入れていいのだろうか?

 パニックになった私は、どうでもいいことにツッコミを入れる。


「シャドウさんは、やることなすことすべて、極秘任務よね。この前おやつを買いに行くのも極秘任務と言っていたからね」

「エミリアお姉様、皆、分かった上で、知らないフリをしていますわよ。それが優しさというものですわ」

「そ、そうだね・・・気を付けるよ・・・」


 問題はそこじゃない。なぜ魔王までここに?


 そんなことを思っていたら、広場で体術クラスの生徒を中心にして、大盛り上がりをしていた。そこに獅子族のレオ君が居たので、話を聞いてみた。


「これからレミール師匠とマオさんが模擬戦をするんだよ。師匠も本気でやるって言ってたから、仕事を休んで見に来たんだ。エミリア先生も一緒に見ようよ。ルミナさんもね」


 結局、レミールさんと魔王の模擬戦を観戦することになってしまった。



 ★★★


 野次馬が多く集まってしまったのと、安全面を考えて急遽闘技場での開催となった。

 少し腰の曲がった老婦人のレミールさんとオカッパ頭の黒髪、黒目10歳前後の幼女の魔王、これから二人が戦うことを知らない人が見たら、仲の良いお祖母ちゃんと孫に見えなくもない。


わらわの相手をするなど命知らずじゃな。短命種にしては、長生きをしておるようじゃが、死に急ぐことはないじゃろうに」

「何を言ってんだい。ガキが!!言葉遣いから指導しないとね」

「お主に言われたくはないがのう」


 試合開始の合図もなく、殴り合いがスタートした。

 物凄いスピードだ。それにパワーもヤバい。衝撃で防御の結界を張っている闘技場の壁にひびが入った。


 修繕費が・・・


 でも考えようによっては、あのままいつもの青空教室で模擬戦をさせなくてよかった。被害が甚大になってしまうからね。レミールさんの方針で体術クラスは未だに道場を作っていない。レミールさんは「温室のお遊戯が何の役に立つんだい?常在戦場だよ」と言っていた。


 最初はあまりの迫力に言葉を失っていた観客たちも、華麗な技の応酬に歓声を上げる。

 レオ君が言う。


「俺たちが獣化して、束になって掛かって行っても、敵わないよ。もっと俺たちも頑張らないとね」

「戦士タイプだけでは、無理ですわね。弓使いや魔導士の遠距離攻撃や支援を受けながら、戦術的に戦わないと勝てませんよ」

「ルミナさん、それじゃあまるで、悪の大魔王との戦いじゃないか?俺は、武闘家として正々堂々と勝ちたいんだよね。言っている意味は分かるけど」

「そうですわね。領主になって、如何に被害を少なく勝つかを常に考えてますからね。これは隊長をしているドノバンの影響も大きいですね」


 ルミナがそう思うのも分かる。だって本当の悪の大魔王だからね・・・


 模擬戦は更に激しくなった。もうノーガードで足を止めて、激しく殴り合っている。ここまで来ると技とか関係ないようだった。あまりの光景に観客は逆に静まり返ってしまった。

 しばらくそんな状態が続いていたのだが、魔王が言う。


「なかなか、やるではないか?ここから本気で殺しにいくが、それでも構わんか?」

「そっちがその気なら、こっちも考えがあるよ。ただ、死んでも文句は言うなよ」


 魔王が気合いを入れると、両手から長い爪が伸びた。あんなのが当たったら、普通の人なら真っ二つにされる。一方のレミールさんも、懐から光り輝くカイザーナックルを両手に装着した。


「ヤバいよ!!レミール師匠が装備したのは、オリハルコンナックルだよ!!鋼鉄も貫く威力なんだよ。最近は生徒が増えたから、新入生に鋼鉄をぶち壊すパフォーマンスを最初にやるんだよ。どんな跳ねっ返りも、ほとんど言うことを聞くんだよね。ミミさんとメメさんは聞かなかったけどね」


「ということは・・・双方とも本気で殺し合いをしようとしているのですね。これは領主として見過ごせません。すぐに止めませんと・・・」


 なぜ、二人ともこっちを見る?

 この中で二人を止められるのは私しかいないし、猛者クラスの奴を呼びに行く時間もない。仕方なく私は、二人の間に立った。


「模擬戦は中止です!!殺し合いをするなんて、道場主として見過ごせません。ここは相手に敬意を持ち、切磋琢磨する場所です。決して殺し合いをするような場所ではないのです!!」


 観客は少し引いている。多分、「アンタが言うな!!」と思っているのだろう。


「ごちゃごちゃとうるさい奴じゃのう!!盛り上がってきたところで、水を差すなど無粋な!!まずはお主からあの世に送ってやろう」

「それについては、いくらエミリアちゃんでも許せないね。マオ、勝負はお預けだね」


 何と、二人が一緒に向かって来た。興奮状態で二人は、冷静な判断ができていないのだろう。巨大な爪とオリハルコンナックルが私を襲う。


「返し突き!!」


 この威力の攻撃にも「返し突き」は発動した。しばらくは、それで凌いだ。レミールさんも魔王も血塗れになっているが、全く攻撃を止めなかった。


「かすり傷をいくら付けたところで、わらわたちには効かんぞ!!」

「エミリアちゃん!!大人しく、引っ込んでな!!」


 これ以上は私も本気でやらないと厳しい。喧嘩を仲裁しに来た道場主が、仲裁していた相手を惨殺するなんて、笑い話にもならない。となると、残されたのはアレしかない。月に3回しか使えないあの技を使うときだ。なぜ月に3回かというと魔力や体力の問題ではなく、私の資金がショートするからだ。道場主といえど、国から大借金をしている手前、そんなに多くの給料は貰っておらず、一般のスタッフレベルでしかないのだ。


「ライライ!!やるよ!!ライライ剣!!」


 しかし反応はなかった。ライライはキョトンとしている。多分、久しぶりの実戦で、ライライは打ち合わせを忘れてしまっていたのだった。

 慌てて私は二人に言った。


「ちょ、ちょっとお待ちを!!私も本気を出しますので!!」


 何とか二人を説得し、私はライライに説明する。ライライも理解してくれたようで、私にすり寄って「ライライ」と鳴く。多分、「この後は分かってるよね?いっぱい食べるよ」と言っているのだと思う。


「気を取り直して!!ライライ剣!!」

「ライライライ!!」


 ライライが私のレイピアに電撃魔法を付与した。定期的に拷問を繰り返した結果、ライライ剣の特性が解明されたのだ。ダメージはほぼゼロだが、激しく苦痛を与えることができる。これは「痛み耐性」のスキルを持っている者やバーサーカー状態の相手にも有効で、マホットが研究しても原理は分からなかったらしい。


「ダメージを与えず、激しい苦痛だけを与えるなんて、拷問官の理想じゃな。エミリア殿であれば、世界一の拷問官になるのも夢ではないぞ!!」


 否!!ならないよ!!


 準備ができた私は二人に向かって言う。


「どっからでも掛かって来てください。お仕置きのお時間です」


 この後、私は激しく後悔することになった。

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