41 魔王軍襲来
私は月1回の定例会に出席している。
ただ、色んなことが起こりすぎて、全く会議に集中できない。道場主として、会計報告などはしっかりと聞いて、確認をしなければならないのだが、全く頭に入ってこない。仕方なく、話題を変えてみる。丁度、祖父の代理で出席していたお祖母様に尋ねる。
「ところでお祖母様、ミミさんとメメさんとは、どのような子たちなのでしょうか?見たところ魔族に見えますが・・・」
「あら?エミリアには珍しく、魔族に対して偏見があるのですか?」
「そういうわけではなく、一生懸命にソフト模擬戦をしていたので、応援したくなって、聞いてみただけです。戦闘メイド養成コースの子たちと聞いたもので」
「そういうことね。最初はとにかく酷かったわ。礼儀もなってないし、他人をもてなそうという気持ちも皆無でした。なので、レミールを中心に厳しく指導を致しました」
お祖母様によると最初は本当に酷かったそうだ。言うことも聞かず、好き勝手にするし、気に入らないことがあるとすぐに怒鳴り散らしていたそうだ。
「戦闘メイド養成コースで、そのような子は珍しいですからね。私もレミールも本気で指導しました。まあ、1時間もしない内に命乞いを始めましたけどね。流石に少しやり過ぎたと思ったのですが、それ以後は改心して、真面目に取り組むようになりました。今ではどこに出しても恥ずかしくありませんよ。偶には大人しく、真面目な子ばかり指導するのではなく、こんな跳ねっ返りを更生させるのも指導者冥利に尽きますね」
流石の魔王軍四天王もお祖母様とレミールさんには、屈したようだ。ミミとメメは素早く、連携攻撃が得意で、一撃の威力よりも手数で勝負するタイプだが、破壊的なパワーを持つレミールさんには、歯が立たなかったのだろう。
「ミミとメメは、詳しくは語りませんでしたが、名家の方らしく、我儘し放題で育ったそうです。ここできちんと更生すれば、親御さんも喜ぶでしょうね」
力こそすべての魔王軍で好き放題していたのだろう。それが全く通用しない環境に置かれると、借りて来た猫のように大人しくなったのだと推察する。
そんな時、キュラリーさんが発言し始めた。
「情報共有は大事ですが、少し承認をいただかなくてはならない案件がありますので、そちらの議題に移ってもよろしいでしょうか?」
「すいません。ちょっと気になったものですから・・・そちらの議題をお願いします」
キュラリーさんが言うには、ホクシン流剣術道場の土地とコーガル領の管理地に跨るように豪邸を立てる計画があるそうだ。
「領主のルミナ様からは承認はいただいております。ホクシン流剣術道場としての立場を議論していただきたいのです」
「その前に予算とかは大丈夫なんですか?豪邸って・・・どれくらいの規模なのでしょうか?」
ルミナが答える。
「豪邸を建てられる方は、かなり裕福な国のご令嬢のようでした。土地代も破格の額を即金で支払ってくれましたからね。身分は隠されていましたが、それにしても豪気な方でしたね」
「分かりました。お祖父様がどう言うかでしょうが・・・」
「ムサール先生には私から言っておきます。賃貸料は相場どおりにすれば、文句はないと思いますからね」
キュラリーさんがまとめる。
「それでは承認されたということで、処理を致しますね。とりあえず、今回はこれで終了となります。それではパーミラさん、議事録の作成をお願いしますね」
「はい!!」
会議はそれで終わった。勇者であるパーミラも馴染んでいるようで嬉しい。勇者云々は抜きにして、本当にいい子だからね。
★★★
会議終了後、私は冒険者ギルドに向かった。
スタントンさんにオルグのことを聞くためだ。ゲームでは物理攻撃特化の大柄なオーガで、こん棒を振り回すキャラだったと思う。こん棒をハンマーに持ち替えてはいたが、本質は変わっていないと思う。
ギルマスルームを訪ねると、気安くスタントンさんが声を掛けて来た。
「おうエミリア嬢!!急にどうしたんだ?」
「先日、スタントンさんとハンマーで殴り合っていた人のことが気になりましてね。スタントンさんと互角に渡り合うなんて凄いなと思って、興味本位で聞きに来たんですよ」
「そうか!!エミリア嬢も根っからの武人だな!!これからオルグを呼んでやるよ。直接聞くといい。もうすぐしたら休憩時間だから、すぐに来させるよ」
お祖母様のように怪しまれなかったが、オルグと直接対面することになってしまった。それにどうやら、オルグはギルドの職員をしているようだった。しばらくして、オルグがギルマスルームにやって来た。当たり障りのない挨拶をする。
「初めまして、エミリア・ホクシンです。ホクシン流剣術道場の道場主をしております。先日のスタントンさんとの模擬戦が凄かったので、少しお話でもと思いまして」
「我はオーガ族のオルグだ。エミリア殿の話はかねがね聞いている。あのゴーケン殿やティーグ殿、オデット殿よりも強いと」
「運が良かっただけですよ。今やったら確実に負けますよ」
「謙遜しなくていい。貴殿の強さは分かるつもりだ」
少し話した感じだが、オルグは礼儀正しい武人だった。ゲームではそんな描写は一切なかったけどね。
「ところで、オルグさんはギルドの職員をしているんですか?」
「そうだ。スタントン殿には感謝している」
ここでスタントンさんが会話に入って来る。
「実はな、俺はオルグに強くなってほしいと思って、支援をすることにしたんだ。大体の奴と同じようにオルグもゴーケンの旦那たちに模擬戦でボコられた。俺も同じだがな。そんで、俺みたいなパワー特化型の奴は、何とかしようとして、防御を磨いたり、小手先のテクニックを身に付けたりするんだが、コイツは違ったんだ。小手先の技術にこだわらず、鍛えぬきパワーだけで奴らに勝とうとしている。それで応援したくなっちまったんだ。同じパワーファイターとしてな」
オルグが言う。
「遠回りかもしれんが、この信念は曲げたくないのだ。それに不器用な自分は、それしかできんからな」
「だから俺も、もう一度原点に帰って、力でねじ伏せてやるって奮起して、年甲斐もなく頑張ってるんだ。それにオルグは力持ちだから、職員としても助かっているんだぞ。将来はギルマスを譲ってもいいと思っているくらいだ」
調査したところ、ミミとメメもオルグも問題はないようだ。それにサポートしてくれる人もいるみたいだしね。
そうなると、なぜ彼らはここにやって来たんだ?
その疑問は未だに解明されていない。
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