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40 勇者はもう・・・ 3

 出張指導から帰って来て、私は3日間寝込んだ。

 何もやる気が起きなかったからだ。だって、待ちに待った勇者があんな状態だったんだから・・・たとえばどこかの馬鹿貴族の子弟のようにグレて変な道に走っていたのなら、殴り付けてでも勇者として立ち直らせただろう。しかし、我がホクシン流剣術道場に感謝し、幸せな家庭を築いている彼女にどうしろというんだ?


 私は「どうして、こうなったんだ?」と答えの出ない自問自答を繰り返していた。猛者クラスがいけなかったのか?それともソフト模擬戦を普及させたことか?

 やはり答えは出ない。


 心配したライライが優しくすり寄って、「ライライ」と鳴いてくる。ただ、こうしている間にも時は流れていく。道場主としての仕事もあるし、重い体を引き摺って、仕事に復帰した。心配したリンや勇者のパーミラが声を掛けてくれた。


「もう大丈夫よ。少し疲れが出ただけだから」


 勇者は言う。


「それは本当によかったです。早速ですが、拷問が2件と魔物の捕獲依頼が3件来ています。対応をよろしくお願いします」


 お前は鬼か!!病み上がりで拷問をしろと?


 仕方なくこれには従った。


 次の日から今の時代、ママさん勇者もありかもしれないと思い、パーミラを分析してみることにした。パーミラはショートの青髪、青目の美人さんで、旦那さんのアベルと3歳の息子カイン君の三人暮らしだ。仕事ぶりは、旦那さんともども真面目で優秀、夫婦仲もいい。

 私が軍の司令官でも、こんな家族を戦地に送りたくはない。


 戦闘能力はというと、どう贔屓目に見ても、中の上くらいだ。本人が勇者と名乗らない限り、気付く者は、まずいない。猛者クラスに入ろうものなら、数秒でフルボッコだろう。本人も自覚しているようで、猛者クラスには決して近寄らない。

 魔法も生活魔法を習得しているのみで、火起こしや料理の水に魔法を使うくらいだ。本当にどこにでもいる普通の女性だ。


 腹立たしいのは、彼女が美人で、優しく格好のいい旦那さんと可愛らしい子供に恵まれているところだ。本人も旦那さんも文官の国家試験に合格しているから高給取りだし、ホクシン流剣術道場の初級の免状を取得しているくらいだから、決して弱くはなく、それなりの剣士ではある。つまり、「ザ・リア充」なのだ。

 毎日、血塗れになっても一向に暮らしが楽にならず、出会いもない私と比べると、人生の不条理を感じてしまう。


 もう勇者のことは、放っておいて、私は私で好きにすることにした。



 ★★★


 私は勇者を再起不能にした教訓を生かし、全くノータッチだった大人のソフト模擬戦クラスにも積極的に顔を出すことにした。というのも、可能性は低いがゲームでは、クリア後のボーナスステージとして、勇者なしでも冒険をすることができるのだ。確率は低いが、勇者パーティーの準主人公たちがやって来る可能性もゼロではないからだ。

 そんな奴らがソフト模擬戦だけやって、帰って行ったら目も当てられない。


 なので、私は忙しい合間を縫って、大人対象のソフト模擬戦クラスに顔を出した。キュラリーさんとモギールさんが声を掛けてくる。


「エミリア先生がここに来るのは珍しいですね」

「何かありましたか?」


「パーミラさんの件もあって、優秀な人がこちらに来るかもしれないから、ちょっと顔を出しに来たんですよ。ところで、期待の新人とかはいませんか?」


「じゃあ、ミミちゃんとメメちゃんですね」

「双子でコンビネーションがいいから、次の5人制か10人制のチーム戦に出場させようと思っているくらいですよ」


 ミミとメメだって!?


 私は二人が指示した場所で、模擬戦を行う少女たちを見た。褐色の肌に愛らしい黒髪のショートの双子の姉妹、間違いなくゲームに登場した魔王軍四天王の一角だ。

 なぜ、ここに?


「今は二人とも戦闘メイド養成コースの生徒さんで、ソフト模擬戦は必修科目ですからね」

「もうホクシン流剣術の初級はマスターしているし、そろそろ「三段斬り」もできるんじゃないですかね?卒業したら、私の商会で雇いたいくらいですよ」


 ほう・・・この商人は魔王軍の四天王を雇用する気か・・・

 知らぬが仏と思っておこう。


 怖くなった私は、ミミとメメには声を掛けず、その場を立ち去った。

 今度は魔王軍の四天王が来たぞ!!一体、この道場は何なんだ!!


 ソフト模擬戦クラスを後にした私は敷地内を物思いにふけりながら散策していた。

 そんな時、猛者クラスの道場が異様に盛り上がっているのに気付いた。気になって猛者クラスの道場に顔を出す。

 人だかりができていたので、野次馬に事情を聞く。


「ギルマスのスタントンさんとオーガの兄ちゃんが、ハンマー対決をしているんですよ。お互いノーガードで、技も何も関係なく、ハンマーで殴り合っているだけなんですけど、これが迫力があって面白いんですよ」


 道場はかなり盛り上がっている。スタントンさんと互角に渡り合えるって、一体どんな奴だ?


「行け!!クレイジーハンマー!!お前に賭けてんだぞ!!」

「負けるな!!オーガの兄ちゃん!!」


 野次馬を描き分けて、確認に向かう。


 アイツは・・・


 そこに居たのは、オーガのオルグだった。奴も魔王軍四天王の一角だ。

 なぜここに?

 もしかして、ここから世界の危機が始まるのか?


 でも腑に落ちない。ミミとメメは戦闘メイド養成コースの生徒だし、オルグは普通に模擬戦をしている。もう思考が追い付かない・・・


 ハンマー対決はというと、決着がつかず、引き分けになった。


 そんな私の気も知らないで、スタントンさんとオルグは肩を組んで、お互いの健闘を称え合っている。


「オルグの兄弟!!またやろうぜ!!」

「それはこっちの台詞だ!!また頼む」

「じゃあ、これから飲み比べだ!!」

「うむ、受けて立とう!!」


 一呼吸おいて、スタントンさんが言う。


「これから飲み比べをするぞ!!挑戦する者はギルドの酒場に集合だ!!優勝者は飲み代を無料タダにしてやるぞ!!」

「「「オオオオー!!」」」


 何人もの野次馬を引き連れて、スタントンさんとオルグは行ってしまった。


 これってどういうことだろうか?

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!


次回から第五章となります。今後は、エミリアが勇者を無視で突き進んでいきます。

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