4 金の掛かる居候
冒険者の活動で稼ぐ資金は増え、門下生もそこそこ増えてきてはいるが、出費は増える一方だ。今月から道場の賃貸料の支払いが始まる。計算してみると、今までの活動を続けても僅かに黒字になる程度だった。今でもかなり無理しているのにである。
更に追い打ちを掛ける出来事があった。素材が値崩れを起こした。大量にデモンズラインの素材を私たちがギルドに納品した所為で当初の半分まで価格が落ち込む。今までの倍以上素材を採取しないと今までと同じ収入は得られず、それをやったところで、今度は更に価格が下がるという悪循環に陥ってしまう。
結局私はリスクを取ることにした。デモンズラインを更に北に進むことを決断したのだった。
私はポン、ポコ、リンと、よく分からないタヌキっぽい黄色い魔物であるライライとともに今日もデモンズラインを奥に進む。ライライは戦力にはならないが、実家に置き去りにして冒険に出掛けたところ、勝手に実家の食糧庫の干し肉を食べてしまい、1日の儲けがなくってしまったことがあったので、それ以後、冒険には必ず連れて行くようになった。
今日の目標はあまり出回っていない薬草、ラグーサ草を採取することだ。ラグーサ草はハイポーションの原料になる薬草で、かなり高値で取引される。10本もあれば、今日の目標は達成できるだろう。
今回は嬉しい誤算があった。ライライにラグーサ草の匂いを嗅がせて探させたところ、立ちどころに見付け始めた。すぐに30本採取することができた。大喰らいの穀潰しと思っていたが、意外に役に立つ。そんなライライは褒めて、褒めてと言わんばかりに私の足に頬を擦り付け、「ライライ」と可愛く鳴く。メロメロになってしまった私は、持っていた干し肉をライライに食べさせた。
ライライは、本当に魅了のスキルでも持っているのかもしれない。
目標は達成したので、ポン、ポコ、リンに帰還することを提案した。三人とも賛成だった。私たちの足取りは軽かった。持ち帰るべき魔物がいないのもあるが、思いのほか早く目標が達成できたからだ。
「いつもこうならいいんだけどな」
「そうだね。でもここまで奥に来ると雰囲気が全然違うね。強い魔物の気配でいっぱいよ」
「だったら早く帰りましょうよ」
軽口を叩きながら進んでいると急にライライが私の肩から飛び出して、走り始めた。仕方なく、私はライライの後を追う。やっとライライに追いついたところで、ライライが大きな声で鳴く。
「ライライライ!!」
そこに居たのは、金髪縦ロールのいかにもお嬢様と言った感じの少女とメイド服を着た黒髪の女性だった。お嬢様の方は12~13歳くらい、メイドのほうは20歳前後に見える。どうやら魔物と戦闘をしているようだ。金髪縦ロールのお嬢様は魔導士で、ファイヤーボールを連発していた。対する魔物の方はワイルドウルフという狼型の魔物で、10体近くいる。単体だとワイルドベアほど強くはないが、群れでの連携攻撃は厄介で、次々に仲間を呼び出すので討伐に苦労する魔物だ。
戦況を確認すると、メイドの女性が毒か何かで、状態異常に陥っている。それをお嬢様のほうが必死で守っているという展開だ。
なぜ、お嬢様とメイドがここに?
そんな疑問が頭をよぎったが、まずは救出しないとね。
私は二人に対して、助太刀する旨を伝えて、彼女たちの前に立った。
「私はコーガルの冒険者で、ホクシン流剣術道場の道場主、エミリアと言います。お困りのようでしたら、助太刀致します!!」
こんな状況でも、さり気なく、ホクシン流剣術道場をアピールすることを忘れない。お嬢様が言う。
「お願いします。私はルミナ、こっちのメイドはメイラ、メイラはワイルドスネークの毒にやられて動けません。解毒ポーションはありますか?」
「あるわよ!!飲ませてあげて。それまで、私が凌ぐから」
私は彼女たちの前に出て、ワイルドウルフのヘイトを一身に集める。ワイルドウルフは近接攻撃しかしてこないから、私のスキルと相性がいい。私は無防備を装って、ワイルドウルフに近付く。すぐに3体が同時に攻撃してきた。「返し突き」を発動させる。1体は前足、1体は顎、1体は運よく右目を貫いて討伐した。
それから次々に襲って来たが、ちまちま突きを放って撃退していく。しばらくして、ポン、ポコ、リンが合流した。
「説明は後でするわ!!一斉射撃の準備をして!!できたら合図して」
「エミリア!!できたぞ!!」
「薙ぎ払い!!」
スキルの「薙ぎ払い」を放ち、斬撃でワイルドウルフ5体を転ばせた。
「今よ!!」
一斉に矢が降り注ぐ。2体仕留めたが、3体は逃走した。追う必要はない。この二人を助けることが最優先だからね。これで、助かったと思ったが甘かった。別の魔物がやって来た。メイドのメイラに毒攻撃を加えたワイルドスネークだった。
ワイルドスネークはブラックスネークの上位種のヘビ型魔物で、強力な毒攻撃で相手の動きを止め、そこを全身で巻き付いて絞め殺すのが攻撃パターンだ。毒攻撃を遠距離から撃たれると私は何もできない。取りあえず「受け流し」で毒攻撃を回避している。このままではジリ貧だ。
「ファイヤーボール!!」
お嬢様のルミナが魔法を放つが、ワイルドスネークに躱されてしまう。見た感じ、魔法の腕はそこそこあるのだが、実戦経験が不足しているようで、動いている魔物に攻撃することは苦手なようだ。更にポン、ポコ、リンが矢を放つもこれも上手く躱されている。思ったよりも素早い。
「ルミナ!!魔法はどれくらいの威力を出せるの?氷結魔法は使える?」
「使えます!!氷結魔法なら上級魔法のアブソルートフリーズも撃てます」
これなら使える。ブラックスネークに「薙ぎ払い」は有効だったので、ワイルドスネークにも有効だろう。だったら、この魔法で決められる。
「私が転ばせて動きを止めるから、氷結魔法を叩き込んで!!」
「分かりました!!」
「じゃあ行くよ。薙ぎ払い!!」
斬撃でワイルドスネークはひっくり返った。そこへ、ルミナが氷結魔法を放つ。
「アブソルートフリーズ!!」
ルミナの魔法の腕はかなりのもので、ワイルドスネークは完全に凍り付いて動かなくなった。
「ポン!!お願い!!叩き斬って」
「おっしゃ!!任せろ!!」
ポンが大斧を振り抜き、ワイルドスネークの頭を叩き潰した。
ワイルドスネークは温度変化に弱く、体温が下がると動きが鈍くなる。それを狙って氷結魔法を撃たせたのだけど、全身を凍らせるとは、かなりの使い手だ。
とどめを刺したポンだが、すべて俺の手柄と言わんばかりにドヤ顔をしている。
討伐したワイルドウルフとワイルドスネークを集め、素材が採取できるかを確認していたところに、回復したメイラがお礼を言いに来た。
「この度は本当にお世話になりました。お礼のしようもございません」
「別にいいよ。冒険者なら当然のことだしね。お礼はホクシン流剣術道場にしてもらえればいいから」
「ホクシン流剣術道場とはムサール様が道場主をされている、あのホクシン流剣術道場ですか?」
「今は私が祖父から引き継いで、道場主をしているんだけどね・・・」
メイラとルミナはお互い目を合わせて頷き合っている。そして、ルミナが私に向き合って言った。
「この度は助けていただき、本当にありがとうございました。申し遅れましたが、私はルミナ・バンデッド、バンデッド伯爵家の者です。高名なムサール様のお孫さんに助けていただくなんて、これも何かの縁ですね」
「も、もしかして・・・領主様の・・・」
「娘になります」
何と助けたご令嬢は、コーガルの町を含むこの辺一帯を統治する領主様の娘だった。
お礼で金一封が貰えるかもしれないとポン、ポコ、リンとともに期待で胸を躍らせた。
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