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38 勇者はもう・・・

 早いもので、祖父から道場を引き継いで、丸6年が経った。もはや「早5年」でもない。私もとうとう20歳だ。この世界では15歳で成人なので大した意味はないが、それでも前世の記憶がある私は、特別な感情を抱く。世の20歳と言えば、浮いた話も一つ二つはあるはずだが、全くない。前世を含めて、恋愛未経験の私には、遠い異国の出来事のように思ってしまう。

 だって毎日、魔物の捕獲、模擬戦、拷問と・・・一日の大半を血塗れになって過ごしているからね。


 こんな私に「好き」と言ってくれる人は、普通はいない。いたとしてもド変態野郎と相場は決まっている。


 そんな私が道場主をしているホクシン流剣術道場だが、また拡大していた。

 剣術道場なのにカジノも治療院もある。近々教会も出来るようだ。そして、私にも大きな変化があった。それは雇われの道場主になったのだ。

 というのもこれは、祖父への対策だった。まず、日本でいうところのホクシン流剣術道場を法人化し、私は代表ということになった。金銭的な管理は国から派遣された文官や事務職員に任せ、私は代表として給料を受け取ることになったのだ。


 これで不当に祖父から搾取されることは激減した。祖父への賃貸料の支払いもホクシン流剣術道場事務局がしてくれるからだ。そして、道場の運営に当たり、私、祖父、ルミナ、国から派遣されたキュラリーさんを筆頭にした文官たちが役員となって、役員による合議制で運営することになり、アドバイザーとして商人のモギールさんにも会議に参加してもらっている。なので、腰を抜かすような建物が急に立つことは激減したのだった。


 ここでなぜ、ルミナが役員に入っているかというと、それはドノバンと結婚し、正式にルミナがコーガルの町の領主になったからだ。ドノバンは養子になったんだけどね。

 ゆくゆくは父親の後を継いでバンデッド伯爵領全体の領主になる予定らしく、今はその勉強だという。


 残念なことにルミナに先を越されてしまった・・・


 それは置いておいて、ヤバい奴がまたやって来た。

 ゴーケンやオデットがまだここに居て、ゲームでは「俺はシャドウ、極秘任務を遂行している。だが、ここに俺が求める物はなかった」と言っていたシャドウも長期間居座っている状況で、今度はゲームでも登場したリナラデスというエルフの姫がやって来たのだった。


 彼女はエルフの国の姫君で、ゲームだと世界樹がある森で勇者たちと出会うのだが、その出会いのシーンは鮮烈だった。通称負けイベで、勇者たちが魔物に襲われているエルフの子供たちを庇って戦闘するのだが、健闘むなしく勇者たちは魔物に敗れてしまう。そこを間一髪リナラデス率いるエルフ隊に救われるのだ。

 そして、そのことを感謝した勇者たちは、枯れかかっている世界樹を救うために世界を回り、必要素材を揃えて秘薬を完成させ、世界樹を救う。その後、魔王討伐までリナラデスたちエルフと親交を深めるのだった。


 エルフは排他的な種族として描かれていたのだが、勇者たちの行動が彼女の心に響き、親交を深めるシーンは、感動を覚えた。「おい!!一人二人、エルフ隊の奴を連れて行けよ!!魔王なんて余裕だろ?」というツッコミは無視してだが・・・


 そんなリナラデスとそのお付きのエルフたちは、弓術場に勝手に住み着いてしまった。

 弓兵の指導をしてくれているので、一応道場主として挨拶に出向いたのだが、驚きの事実を告げられる。


「私はエミリア・ホクシン。ホクシン流剣術道場の道場主をしております。弓兵の指導をしてくださり、本当にありがとうございます」

「気にしなくていい。我らが礼をしなくてはならん立場だ。というのも・・・」


 リナラデスが話した内容は、衝撃的で、勇者を無視して、世界樹は救われたとのことだった。あのマッドサイエンティストが多数在籍している魔法研究所で秘薬が開発され、試しに使ってみたら枯れかかっていた世界樹が復活したそうだ。


「感謝してもしきれない。世界樹の葉10枚渡しただけで、それでいいと言ってくれた。太っ腹すぎるぞ。だから我々は、少しでも恩を返そうと弓兵を指導しているのだ」


 世界樹の葉は1枚でも家が建つレベルの貴重な素材だ。それを10枚って・・・太っ腹なのは、アンタたちだろうが!!


 そんな時、弓使いのポコがやって来た。


「リナラデス師匠に習って、私もそれなりにエルフの魔弓術をマスターしたのよ。ちょっと見てよ!!

 カービングショット!!」


 明後日の方向に撃ち出した矢が、大きく弧を描いて的に命中した。というか・・・こんなの誰も防げないんじゃないの?


「ポコ殿も大分上手くなったな。後30年も修行すれば、我々と同レベルになれるだろう」

「・・・30年か・・・先は長そうですね」


 ポコは落ち込んでいるが、長名種のエルフにとっては私たちで言う「後3年修行すれば・・・」レベルだ。ということは、ポコも人間を辞めかけている。


 私の親友も遠いところに行こうとしている・・・


 最近、特に思う。

 もう勇者いらなくね?


 ★★★


 ホクシン流剣術道場は順調に発展している。

 そんな時、久しぶりに出張指導が入った。今回は世直し旅ではなく、門下生が道場を開くので、お祝いを兼ねて、激励に向かうのだ。まあ、向こうで適当にソフト模擬戦を指導すれば、出張費を貰えるから美味しい仕事ではある。

 最近、道場を開く門下生が増えて来た。道場を開くにはホクシン流剣術道場で正式に師範の認定を受けなければならないのだが、以前であれば法外な認定料を祖父が総取りしていたが、法人化してからは、適正料金で祖父には一銭も入らないことになっている。祖父は悔しそうにしていた。本当にいい気味だ。


 それは置いておいて、今回の出張指導に同行するのは、私、ライライ、ポン、ポコ、リンにキュラリーさんとモギールさんを加えたメンバーだ。というのも、行先の道場主の希望で、ソフト模擬戦を中心に指導したいとの意向で、何でも強い魔物が出没しない環境下で、子供たちの向上心を養いたいとの思いからだという。ソフト模擬戦の指導は、キュラリーさんとモギールさんは定評があるからね。


 今回は問題なく、出張指導ができそうだったのだが、行先を確認して驚愕した。計画書には、行き先がこう書かれていた。


 ニシレッド王国東部地区、リバーサイド


 これって・・・


 ゲームで登場した勇者の生家がある町だった。

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