37 新必殺技 2
魔法剣を習得した私は、早速訓練に励むことにした。ライライと共に今日もデモンズラインにやって来た。魔法剣を使うに当たって、発動前にしなければならないことがある。それはライライの機嫌を取ることだ。まあ撫でてあげて、お菓子や餌を与えたら、それでいいんだけどね。
そして意気揚々とやって来た私だったが、厳しい現実を知ることになった。
結論から言うと、全く使えなかった。まず威力が弱すぎる。ライライが得意気に付与してくれた魔法剣だが、デモンズラインの魔物はおろか、その辺の魔物にも2~3秒スタンさせるくらいの効果しかなかった。私が剣の達人であれば、スタンした2~3秒を利用して、必殺剣を叩き込めばいいのだろうが、生憎、私は「返し突き」しか攻撃手段がない。相手がスタンしている間は当然、攻撃してこないので、「返し突き」が発動しない。なので、討伐までにかなりの時間を要してしまう。意を決して、スタンしている魔物にこちらから攻撃を加えたが、反撃され、逆に死に掛けた。
つまり、「返し突き」の発動頻度を下げるだけの必殺技でしかなかった。
だったら対人戦で、相手を血塗れにせずに無力化しようと考えた。
大きくなったホクシン流剣術道場にも、自分の実力を把握せずに道場破りに来る馬鹿は一定数いる。基本的には門下生が相手をするのだが、魔法剣の鍛錬のために、久しぶりに道場破りの相手をしてやろうと思い、門下生に通達していた。
そして1週間後、待ちに待った道場破りがやって来た。
道場破りに来た男は、モヒカンヘアで大柄の男だった。そういえば、なんか見たことがある。
「失礼ですが、前にお会いしたことがありましたっけ?」
「俺にあんな仕打ちをして、忘れやがっただと?本当に覚えてないのか?」
ああ・・・何年か前に道場破りに来た馬鹿だ。あの時はポッチャリしていたけど、今、目の前にいる男は筋肉隆々だ。彼も彼なりに努力したのだろう。
「俺は人生で初めて、努力というものをした。この筋肉を見てみろ!!あの時の屈辱をお前に味わわせてやる!!」
「それは分かりましたが、刑期が明けたのですか?」
「そんなの脱獄に決まっているだろうが!!脱獄して最初に思ったのは、お前を血祭りに上げることだ。土下座して許しを請うなら、それなりに可愛がってやってもいいがな」
脱獄か・・・だったら報奨金が貰えるということね。これはこれでラッキーだ。
「分かりました。お受けしましょう。真剣がいいですか?それとも・・・」
言い掛けたところで、男はいきなり大剣で斬り掛かって来た。
以前相手にした時よりは、技にキレがあったが、それだけだ。猛者クラスには到底及ばない。私は、門下生が見ている手前、恰好を付けて、少し大げさに魔法剣を発動することにした。
「魔法剣発動!!ライライ剣!!」
ライライと打ち合わせをして、私が「ライライ剣」と叫んだら、レイピアに電撃魔法を付与してくれることになっているからね。
「何がライライ剣だ!!ふざけやがって!!」
初太刀を躱した私に更に男が斬り掛かって来る。
「返し突き!!」
いつも通り、「返し突き」を発動させた。違ったのはレイピアに電撃魔法を付与しているところだ。レイピアは男の右肩に刺さり、男は電撃魔法で激しく痙攣する。
「もう諦めなさい!!」
私の中ではここで、終わるはずだったのだが、この男の心は、復讐の炎で燃えており、鍛錬の結果、根性まで身に付けていた。結果として、いつも通りの展開になってしまった。そして、いつも以上に男の悲鳴が道場全体に響き渡る。簡単に言うと、突きが刺さる→血塗れになる→激しく痙攣するの繰り返しだった。つまり、以前よりも凄惨な状況なのだ。当然、門下生はドン引きだ。
「エグ過ぎるよ・・・」
「あんな相手に魔法剣を使うなんて、酷すぎる」
「逆らったら駄目な人だ・・・」
「あれって、わざと威力を落してるんだろ?何が目的なんだ?」
何が目的って・・・それしかできないんだよ!!
そして最終的に心も体もボロボロになった男は言った。
「もう殺してください・・・脱獄したことは反省してますから・・・刑務所に帰りたい・・・」
すぐに門下生に回復魔法を掛けさせ、ギルド職員を呼びに行かせた。報奨金は手に入ったのだが、私は多くの物を失った気がした。
★★★
私とライライの魔法剣は、対魔物にも使えないし、対人戦にも使えない。
そして最大の弱点はコストが掛かり過ぎることだ。魔法剣を一度使うと、ライライは体力を激しく消耗するみたいで、いつもの5倍は餌を食べる。最近は、舌が肥えてきて、その辺の生肉では満足できなくなっている。それが3日は続くのだ。
大して威力もなく、使えない魔法剣を使えば使うほど、私は赤字になっていくのだった。
何とか魔法剣の使い道はないかと模索していたところ、ある人物に声を掛けられた。魔法研究所の所長兼拷問所の所長のマホットだ。
「エミリア殿の魔法剣は、拷問に向いていると思うのじゃ。国一番の拷問官と自負しておる儂が言うのだから間違いはない」
噂が噂を呼び、とんでもない人に目を付けられてしまった。仕方なく、私は拷問でやっているのではなく、歴とした模擬戦だったと主張した。
「なるほど・・・勝てるかもしれんという希望を持たせた上で、徐々に嬲り、最終的には心をポッキリと折ってしまうか・・・素晴らしい!!儂の後継者にピッタリの才能じゃ!!」
理解してくれなかった・・・
仕方なく、普段の模擬戦を拷問官たちの前でやることになった。
「これはあくまでも模擬戦です。拷問ではありません。それとライライの餌代はそちらで出してもらえることでいいのですね?」
「そんなの安いものじゃ。では連れて来るぞ!!」
連れて来られたのは、頬に十字の傷がある如何にも手練れの戦士と思われる30代の男だった。引き締まった体をしており、激しい拷問を受けたというのに全く喋らないという。この男は犯罪組織カラブリアの内情を知っているとマホットは見ているようで、どうしても自供させたいらしい。
犯罪組織カラブリアの名前が出てきたら、協力しないわけにはいかないからね。
あまり乗り気はしなかったが、拷問という名の模擬戦をすることになった。私はその男に男の所持品であった長剣を投げ与えた。
「模擬戦を致しましょう。私に勝てれば、自由の身にして差し上げましょう。使い慣れた剣をお返ししますから、掛かって来なさい」
「その驕り・・・後悔することになるぞ!!」
男は長剣を振り上げて向かって来た。
かなりのスピードだ。魔法は使って来なかったが、それでもかなりの剣士だと分かる。冒険者というよりは生粋の剣士や騎士と言った感じだろうか。一番似ているのはオーソドさんだろう。動きも騎士のように基本通りだった。犯罪組織にいたとは思えない。実力もオーソドさん並みで、もしかするとそれ以上かもしれない。猛者クラスでいうと上の下くらいの実力だ。
でも私には関係ない。ライライに電撃魔法を付与してもらったレイピアで、ひたすら「返し突き」を繰り返す。結果は・・・
「「血塗れの嬲り姫」っていう二つ名は伊達じゃない!!」
「拷問官の鏡だな」
「あの魔法剣もヤバいな。ダメージを極力抑えて、苦痛だけ与えている」
「俺が二つ名を付けると「電撃拷問姫」だな・・・」
そうなるよね・・・これが仕事のはずの拷問官にもドン引きされている。そして、その男だが・・・
「こ、殺してくれ・・・もう無理だ・・・みんなすまぬ・・・耐えられそうにない・・・」
血塗れの男は、心が折れたようだ。最後に心を折ったの私ではなく、マホットだったけどね。
そのやり口には、正直感心した。散々痛めつけた男に回復ポーションを振りかけ、こう言ったのだ。
「治ったら再度、模擬戦をしてもらおう。勝ったら自由の身じゃから、嬉しかろう?」
その時の男の絶望しきった顔は生涯忘れることはないだろう。
これは後日談になるが、諦めた男はすべてを自供したらしい。
この男はミゼットというバンドラ王国の元騎士で、仲間と家族を人質に取られて、仕方なくカラブリアの指示に従っていたようだ。そして、かなり有用な情報も聞き出せたという。どうりで、騎士っぽい戦いをしていたわけだ。
今回の件で、私はライライの餌だけでなく、報奨金までもらった。
「電撃拷問姫」というイカれた二つ名とともに・・・
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