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36 新必殺技

 ホクシン流剣術道場を祖父から受け継ぎ、丸5年が経過した。つまり6年目だ。もう「早3年」ではなく、確実に「早5年」だ。再度確認の意味を込めて、ゲームに出て来たエミリアの台詞を思い出してみる。


「祖父から道場を引き継いで、早3年。この技を勇者の貴方に託します」


 間違いなく「早3年」だった。でも勇者は来ない。

 ゲームであれば、このホクシン流剣術道場に来なくてもクリアすることはできる。序盤で苦労することは間違いないが、「受け流し」「薙ぎ払い」「返し突き」のスキルは絶対に習得が必要なスキルではないのだ。ゲームにおいて、この3つのスキルは「二段突き」「二段斬り」を習得するまでのつなぎのスキルとして認識されている。

 というのも、「二段突き」「二段斬り」を習得してしまえば、その辺の雑魚敵はほぼ一撃で倒せてしまう。私のように「返し突き」をしつこく繰り返す必要はないのだ。また、私は魔力を消費しないが、ゲームの勇者は「受け流し」「薙ぎ払い」「返し突き」を発動する度に魔力を消費する。つまり、非効率極まりないのだ。


 ここまで道場を経営してきて、そのキャラ固有のスキルは魔力を消費しないことが分かった。これはゲームの仕様なのだろう。魔法を使ってくる敵キャラが基本的に一定の魔法を撃ち放題なのも、そういった理由からなのかもしれない。


 まあ、そんなことは置いておいて、私は「勇者は無事に旅立ち、今も世界平和のために頑張っている」と思い込むことにした。これは何の根拠もない希望的観測なのだが、そう思わなければやってられない。定期的に新聞を購読して情報収集に努めているが、勇者が誕生したとか勇者が活躍しているという記事は、未だかつて見たことがない。


 もう勇者のことは忘れていいかもしれない。私はエミリアとして十分に頑張った。ここまで道場を大きくしたし、有名にした。勇者が誕生したなら、絶対にここに来るはずだ。もう私が責任を感じるのは止めよう。


 そんなことを思っていたら、ドワーフの少女でチートモブキャラのオグレンが訪ねて来た。


「エミリア殿!!やっと出来たッス!!これは自信作ッスよ」

「本当に!?」

「まあ、見てくださいッス。ミスリルを土台にして、アダマンタイトで薄くコーティングしているッスからね。メンテナンスも何年かに一度、アダマンタイトコーティングを少し補強するくらいで大丈夫ッスから」


 カモネル男爵領でもらったミスリルのインゴットを利用して、私は新型のレイピアをオグレンに作ってもらっていたのだ。ミスリルは基本的に魔力伝導率が高いので、魔法を付与した魔法剣が使える。この道場には幸い多くの魔法剣士を抱えているから、教えてもらえるからね。


「じゃあ、早速使ってみようかしら?まずは魔法剣の達人に習わないとね」



 ★★★


 そこでやって来たのは、デモンズラインだ。

 私に同行しているのは、ライライとルミナ、ドノバン、そして魔法剣と言えばこの人、ティーグだ。私が魔法剣を習いたいとお願いしたところ、快く引き受けてくれた。


「魔法剣についてだが、使い手によって全く違う。ドノバン隊長は、魔法剣を奥の手として隠し持っている。ちょっと見せてもらえるか?」

「はい!!喜んで!!」


 どっちが隊長か分からない。まあ、魔法剣士団に所属していた時は、ティーグが団長だったから、その名残だろう。

 言われた通り、ドノバンはワイルドブルと対峙する。魔法で牽制しながら、得意の剣術で戦っている。ドノバンも強くなったもので、デモンズラインでも強い魔物の部類に入るワイルドブルに対して、互角に戦っていた。

 膠着状態が続いていたのだが、隙を見てドノバンがワイルドブルに剣を突き刺した。


「魔法剣!!炎!!」


 突き刺した剣から炎が噴き出し、内部からワイルドブルを焼き尽くし、絶命させた。


「凄いわ!!ドノバン!!こんなことができるなんて!!」


 私は称賛したがドノバンは、あまり納得がいっていないようだった。

 ティーグが言う。


「我のは、初見殺しだが、ドノバン隊長は奥の手だ。剣を突き刺してから発動までにタイムラグがあるし、その間は隙だらけだ。常に使うにはリスクが高すぎる。この程度の相手であれば問題ないだろうが、互角以上の相手となると捨て身の戦法になってしまう。だが、修練を積めば発動も早くなるだろうから、このまま修行を続けて行けばいい」


「あ、ありがとうございます」


 なるほど・・・ドノバンも頑張っていたんだね。それにワイルドブルがこの程度って・・・本当に強くなったんだね。


 続いてはルミナだった。

 ルミナはナイフに魔法を纏わせて投擲し、隙ができたところで、得意の風魔法でワイルドブルを切り裂いた。


「私は魔法剣を使うよりも、魔法を直接撃ったほうが得意ですからね。魔法を付与したナイフを投げて、目くらましにするだけですよ。投擲については、シャッドウさんに教えてもらいました。火魔法を付与したナイフなら、食料庫などの施設を焼き討ちにしたりできますからね」


 というか、もう特殊部隊じゃん!!施設に火を付ける発想がヤバすぎる。


 最後はティーグだ。


「我については、戦ったエミリア殿に説明する必要はない。まあ、これでも少しは強くなったがな」


 そう言うとティーグはルミナから借りたナイフを手にサル型のワイルドコングと対峙している。ワイルドコングは、ティーグが横に払ったナイフを躱すように後方に大きく飛んだ。これが間違いだった。ナイフから炎が伸びて行き、完全に躱したと思っていたワイルドコングを切り裂いた。


「ナイフを使っても、この程度はできる。魔法剣は本当に奥が深いのだ。我もまだ道半ばだ」


 アンタが道半ばって・・・極めたら一体どうなるんだ?


「ところで、エミリア殿はどのようなスタイルを目指しているのだ?我からすれば、あまり必要ないと思うのだが・・・」


 ここで、私は空気を凍らせる発言をしてしまう。


「その・・・スタイル云々よりも、まずは剣に魔法を付与するところから、教えてくれませんか?それに私は魔法が一切使えないのですけど・・・」


 流石のティーグも呆気に取られていた。こんなことは想定していなかったのだろう。

 ルミナがツッコミを入れる。


「エミリアお姉様・・・魔法が使えないのに、魔法剣を使おうと?流石にそれは・・・」


 結局、ルミナに私のレイピアへ魔法を付与してもらったのだが、威力が少し上がった程度だった。

 ティーグが言う。


「ルミナ殿が魔法をレイピアに付与するよりも直接撃ったほうが威力もあるし、効率的だな・・・」


 そうなんだよね。つまり、実戦では使えないということだ。てっきり、魔法剣で私は無双できると思っていたんだけどね・・・


 そんな時、私の前に救世主が現れた。


「ライライ!!」


 ライライの仕草で、「自分ならできる」と言っているようだった。

 私はライライの前にレイピアを差し出した。なんとライライがレイピアに触る、とレイピアに電撃魔法が付与されたのだった。


「ライライ!!凄いよ!!これで私も曲がりなりにも、魔法剣士を名乗れるよ!!」


 今日ほど私はライライに感謝したことはなかった。ごく潰しの無駄飯喰らいをここまで育てて来た甲斐があった。


 そして、この時私は心に決めた。

 不名誉な二つ名である「血塗れの嬲り姫」を卒業し、「魔法剣士エミリア」として生きていくことを!!


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