34 出張指導 3
カモネル男爵領に着いた。
まずは領主館を訪ねる。こちらの対応はルミナとドノバンにお願いした。というのもルミナとクレアは、それぞれ貴族の娘で、夜会などで多少の面識があり、剣術指導で偶然再会して、意気投合したという流れにした。クレアは実家では、剣術馬鹿を演じているので、家令のローダックにも怪しまれないという。
領主館に入ると、家令のローダックからはあまりいい顔はされなかった。
「ほう・・・剣術の指導をね・・・生憎、こちらの領では間に合っていますがね」
「ローダック!!折角来てくれたんだから、指導してもらいましょうよ。丁度いいからローダックが案内してよ」
「構いませんが・・・ウチの道場の者は荒っぽい者が多く、お怪我をされても・・・」
「気にしなくていいわよ!!エミリア先生は強いからね。それとルミナ様は、お父様のお見舞いがしたいって言うから、ルミナ様は私が案内するから、ローダックはエミリア先生たちをお願いね」
強引にローダックを私たちの案内に付ける。
これは作戦だ。病に倒れているカモネル男爵だが、ルミナの見解では、何か毒や呪いを掛けられている可能性があるとのことで、お見舞いのフリをして、調べてみるとのことだった。
ここで、マインちゃんとルト君はルミナとドノバンと行動を共にする。急遽、調査することが必要になった時に対処するためだ。
なので、道場に向かうののは、私、ポン、ポコ、リン、オグレン、それにライライだ。
道場に行く途中にローダックから道場の説明を受ける。領都には3つの道場があり、いずれもリッポフ流剣術という流派が経営しているという。かなりの実力者集団で、領内の治安維持や魔物討伐など、なくてはならない存在だという。
ローダックが言う。
「リッポフ流剣術道場のお陰で、我が領は大助かりですよ。旦那様がこんな状態では、彼らに頼るほかありません。聞いたところ、エミリア様の剣術は子供や女性をターゲットにした剣術だとか・・・実戦に強いリッポフ流剣術とは、比べ物にならないでしょうね」
リンが食って掛かる。
「ちょっと、それは流石に・・・」
私はリンを遮る。
「同じ剣術を志す者同士、仲良くしましょう。私たちホクシン流剣術は、剣術を通しての人間形成や人とのつながり、日々の些細な事への感謝などを教えていますので、上手くやれると思いますよ」
「そうですか・・・剣術なんて、強くなれなければ意味がないと思いますがね」
多分ローダックは私たちを挑発しているのだ。模擬戦でもやらせて、ボコボコにしてクレアの顔を潰そうとしているのかもしれない。かなりの腕前のクレアだが、リッポフ流剣術の代表には勝てないと言っていたからね。
いつも相手を煽って「返し突き」を繰り返している私にしたら、煽り方が甘いと言わざるを得ない。私が真の煽り方を見せてあげよう。
道場の一つに着くと、もはや道場と呼べるものではなかった。整理整頓どころか、もはや、悪者のアジトだ。酒瓶なんかも転がっているしね。
「リッポフ流剣術がこちらに来る前は、どなたが指導をしていたのですか?」
「それは名もない流派で名前も忘れましたね。ごく普通の剣術を教えていたようですけどね。どうかされましたか?」
「いやあ、ここまで酷いとなんと言っていいか・・・リッポフ流剣術の底が知れますね。これでは子供たちにいい指導なんかもできませんし、領主様も恥ずかしいでしょうね。まずは掃除の仕方から指導しないといけませんね。そう思うわよね?リン?」
いきなり話を振られたリンは、少し驚いていたが、すぐに二ヤリと笑ってこう言った。
「本当ですよ。こんな道場では、心が荒み、浅ましく卑しい剣術しか学べないでしょうね。クレア様が指導をお願いしたのも十分理解できますよ」
更に私たちの煽りは続く。
「ポンとポコもどう思う?率直な感想でいいわ」
「ゴミ溜めだな。マホットさんの拷問部屋の方がマシだな」
「うん・・・人に教える資格はないようね・・・」
この話を聞いて、道場主がブチキレた。
「てめえら、勝手に来て、その言いぐさはなんだ!!喧嘩を売っているのか?」
「そんなつもりはありませんよ。私たちはクレア様に請われて指導に来ただけですのでね。ただ、頼まれたからには、きっちりと指導をしてあげませんとね」
「ごちゃごちゃとうるさいんだよ!!ぶっ殺してやる!!」
あろうことか、道場主はいきなり斬り掛かって来た。それも真剣で。
「口頭での指導は困難ですか・・・仕方ありません。身を持って指導を受けてもらいましょう」
道場主はそれなりの実力者ではあった。だが、本当にそれなりだ。ホクシン流剣術道場だと猛者クラスにも入れない。多分、モギールさんやキュラリーさんの方が強いだろう。だが、私は油断はしない。いつもどおりに「返し突き」を繰り返す。しかも急所を外して・・・
3分も経たない内に道場主は血塗れになった。
「こ、こんなはずじゃ・・・こうなったら全員でやるぞ!!ただで帰せるか!!」
すると取り巻きの10人程が向かって来た。これにはポン、ポコ、リンが加勢してくれる。道場主がこの程度なので、その下っ端が何人来ようがどうということはない。4人で全員を血祭りに上げる。5分もしない内にすべてが終わった。
「礼儀も全くなっていないですね。こういった所は運営も杜撰なことも多いですからね。リン、帳簿を確認しましょう」
「はい!!」
呆気に取られているローダックを無視して、帳簿を確認していく。確認したところ、恐喝や窃盗、横領をした証拠となる帳簿だった。ここにいる者すべてが、門下生とは名ばかりのならず者だった。
「これは酷いですね・・・クレア様に報告しましょう」
「わ、分かりました・・・」
それからローダックはクレアに報告に行くと言って、道場を後にした。しかし、しばらく待ってもローダックは戻って来なかった。やって来たのは、完全武装のリッポフ流剣術道場の門下生と代表者だった。
リッポフ流剣術の代表者は、リドルという男で、筋骨隆々の大男だった。
「やりたい放題やりやがって!!何を考えているんだ!!」
「私たちはクレア様から依頼を受けて、こちらの道場に指導に来たのです。どんな指導をしようとこちらの勝手です。まあ、指導するに値しないことがよく分かりましたけどね」
激怒したリドルは更に怒鳴った。
「もういい!!お前らやっちまえ!!嬲り殺しにしてやる!!」
「はい!!いただきました!!
もう指導は結構ということですね?分かりました。ポン、ポコ!!一斉射撃で!!」
ポンとポコは弓で、攻撃を開始した。大した実力もない者が、一流の弓使いである、ポンとポコの矢を躱せるはずもない。あっという間にリドル以外の下っ端は無力化した。
リドルが言う。
「ひ、卑怯だぞ!!正々堂々勝負しろ!!」
一体、どの口が言っているのだろうか?
「分かりました。ここからは正々堂々と勝負しましょう。ポン、ポコ、リン、手出しは無用です」
「甘ちゃんが!!後悔させてやる」
まあ、ここからはいつもの展開だった。しつこく「返し突き」を繰り返し、全身を突き刺していく。いつも通り血塗れになり、次第に動かなくなる。
「ゆ、許してください・・・」
「分かったわ。じゃあ、この領でやって来た悪事を正直に言いなさい」
「分かりました・・・まず俺たちは盗賊団で・・・」
リドルが言うには、リッポフ流剣術道場は、元々はリッポフ盗賊団という組織で、拘束されたゴドリック伯爵の子飼いの盗賊団の一つだったそうだ。ゴドリック伯爵が失脚し、後ろ盾を失ったところにローダックから声を掛けられ、カモネル男爵領の乗っ取り計画に加担したという。因みにローダックもゴドリック伯爵が懇意にしていた犯罪組織の一員らしい。
「まあいいわ。今後の対応を考えないとね・・・」
もう出張指導の域を超えているように思うけどね・・・
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




