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33 出張指導 2

 指導先のコドマス男爵領にやって来た。

 コドマス男爵領は、山岳地帯で主な収入源は鉱山の採掘だという。早速、領主館を訪ね、コドマス男爵に挨拶をする。


「よく来てくれた。まずは領都の道場の指導をお願いしたい。我も一緒に訓練するから、そちらの指導も頼みたい。よいな?」

「もちろんです。ただ、あくまでも非戦闘員や子供をターゲットにしていますから、武人である領主様には物足りないかと・・・」

「分かっておる。とりあえず行こう」


 コドマス男爵は大柄の壮年の男性で、立派な顎髭を貯えている。見るからに武人といった感じの人物だった。道場に着くと領都の道場の道場主と地方の道場の道場主や代表者が既に集合していた。その内の一人、スコティと名乗る壮年の男性が文句を付けてくる。


「女子供が我らに何を指導してくれるというのだ?領主様からの命令だから仕方なく来たのだがな。実力を示してほしいものだ。そうでなくては、貴殿らの指導を受ける気にはならん」


 気持ちは分かる。

 私を含め、20歳にもなってないメンバーばかりだし、威圧感のあるような者はいない。そんな者たちに長年やってきた指導方法を変えろというのだから、腹が立つのも仕方がない。出張指導を受けた段階で、こんなことは想定済みだった。


「分かりました。そのお気持ちもよく分かります。では模擬戦を致しましょう。模擬戦を希望する指導者の方は、集まってください」


 スコティ以外は、領主のコドマス男爵の顔色を伺っている。


「今のところ、スコティ殿だけですね。それでは私が相手を致します。真剣でしますか?それとも木剣で?」

「もちろん真剣だ!!小娘が!!」


 模擬戦が始まる。

 スコティはかなりの腕前だった。ウチの猛者クラスでも十分にやっていけるだけの実力はあった。だが、それだけだ。スキルを使わなかったら瞬殺されるレベルだろうが、私は「返し突き」を繰り返すだけなので、相手が強かろうが弱かろうが関係ないのだ。問題は相手が向かって来てくれるかどうかだからね。

 スコティは頭に血が上っているようだから、特に煽る必要もなく、楽な相手だった。


 数分後、スコティは血塗れになっていた。いつもどおり、観戦者にはドン引きされている。心無い声も聞こえる。


「あれが噂の「血塗れの嬲り姫」か・・・」

「噂以上にエグイな・・・」

「強くはなれるかもしれないが、武人としてどうなのだ?」

「俺は子供たちにあんな非道な剣術を使ってほしくない・・・」


 いつもどおり、酷い言われようだった。


「スコティ殿・・・もう止めにしませんか?」

「くっ殺せ!!生き恥を晒すわけにはいかん・・・」


 おっさんのクッコロなんて、誰得なんだよ!!


 堪り兼ねたコドマス男爵が割って入る。


「とりあえず、指導を受けてみようぞ!!話はそれからだ!!」



 そこからはいつもどおりのモギール・キュラリー式の指導が始まった。事前の打ち合わせのとおり、初心者の子供や女性を多く集めてもらっていたので、ポンやドノバンたちを割り振って、指導していく。凄惨な模擬戦と違って、こちらは和気あいあいとしていた。

 そのギャップに多くの指導者が驚いていた。


「画期的な指導方法だな。これなら子供たちも楽しんで訓練ができるだろう」

「効率もいい。技の習得も早いだろうな」

「礼儀もしっかり、教えているようだし、すぐに取り入れてみよう」

「しかし、なぜこの指導を受けて、あんな剣術になるんだ?不思議で仕方がない・・・」


 それはね・・・私が指導してないからだよ。礼儀や精神面以外の指導は放棄しているからね。



 ★★★


 1週間が経過した。

 私以外の指導者は他の指導者や子供たちと馴染んでいた。私はというと、訓練指導が思いのほか、順調だったので、魔物の対処訓練もすることになり、魔物を用意するために別行動をしていた。当然、血塗れの魔物を大量に連れて来るから、ドン引きされる。なので、あからさまに私を避ける子供が大勢いるのは、悲しい現実だ。

 そんなこんなもあったが、成果は上々だった。飲み込みの早い子は、すでに「二段突き」と「二段斬り」をマスターしていた。


 本当に羨ましい・・・私の苦節15年は何だったのかと思ってしまう。


 そんな時、コドマス男爵から声を掛けられた。表情からして、あまりいい話ではなさそうだ。一瞬、指導に対するクレームでも来たのかと思ったがそうではなかった。


「実はエミリア殿にお願いしたいことがある。無理を承知で頼むのだが・・・クレア嬢、入って来てくれ」


 私の前に現れたのは、金髪青目の美少女だった。


「こちらのクレア嬢は、隣接するカモネル男爵家のご令嬢だ。こちらにいる()()は、エミリア殿から剣術を指導してもらうため、我が特別に許可したことになっている。あくまでも、()()だが・・・」


 建前か・・・かなり含みのある言い方だな。

 クレアという女性には見覚えがある。指導者枠として出張指導に参加していて、一生懸命に頑張っていたと記憶している。少し訓練を見たが、「二段突き」と「二段斬り」は完璧にマスターしているようだった。


「この後は、二人で話をしてくれ。我が頼めるのは二人で話をすることだけだ。クレア嬢、後は我のあずかり知らぬこと。エミリア殿、話だけでも聞いてやってくれ・・・」


 そう言うとコドマス男爵は私とクレアさんを置いて、立ち去った。クレアさんは、去って行くコドマス男爵に一礼している。二人きりになると、クレアさんは、話始める。


「まず、私の事情からお話しします・・・」


 クレアさんの父であるカモネル男爵は、コドマス男爵と親友同士で、派閥が違っても仲が良かったそうだ。カモネル男爵家は元々ゴドリック伯爵の派閥だったのだが、ゴドリック伯爵が失脚したため、今後どうするかという話になったそうだ。その時、カモネル男爵はコドマス男爵の伝手を使って、バンデッド伯爵の派閥に入ることを考えていたようだが、その矢先に病に倒れたという。それから、実質カモネル男爵家を仕切り始めたのは、家令のローダックという男だった。

 このローダックが曲者で、盗賊のような犯罪集団を領に招き入れ、周辺の領にも被害を出しているそうだ。


「父は病に倒れ、母と幼い弟は人質のような扱いを受けています。私はというと剣術馬鹿を演じ、政治に全く携わらない姿勢を貫いてきました。それで、こちらの剣術指導に来るにも許可が下りたのです。コドマス男爵にも相談しましたが、このことが公になると、カモネル男爵家は取り潰される可能性があるとのことでした。だから、エミリア様に依頼することになったのです。コドマス男爵は知らないフリをして、エミリア様たちに解決してもらおうと・・・」


 まあ、断ることもできないし、偶々指導に行った先でトラブルを解決したことにすれば、問題ないだろう。


「分かりました。私たちが行くのは、あくまでも剣術の指導ですからね。領の事情は関係ありません。それで構わないなら、剣術指導に向かいますよ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 また、厄介ごとに巻き込まれたようだった。

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