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31 国王の視察 3

 宮廷魔導士団長である老魔導士のマホットの提案で、急遽魔法研究所の視察を行うことになってしまった。


 こんなことなら、事前にヤバい研究を止めさせておけばよかった・・・


 もう後の祭りだ。処分があれば、甘んじて受けるしかない。

 そんな私の気も知らないで、研究所は平常運転だった。いつも通りに怪しい魔法や薬品を研究していた。研究所の魔導士たちは、私たちが入って来たのに気付いてはいるが、特に挨拶する様子もない。


 おい!!国王陛下が来てるんだぞ!!

 誰か、代表で挨拶するくらいはしろ!!


 心の中で叫んだ。

 国王陛下を見ると、また驚愕していた。

 そんなとき、マホット団長が研究員たちに土下座を始めた。


「本当にすまぬ!!君らのような才能をこんな辺境に追いやってしまって・・・これも儂に力が無かったからだ。どうか許してくれ!!」


 一同が呆気に取られている。

 そんなとき、研究の手を止め、私たちに歩み寄ってきた女性研究員がいた。


「マホット団長、頭を上げてください。私たちは感謝しているんですよ。変な研究ばかりして、実用性の欠片もない私たちをずっと面倒を見てくださって・・・それに今は最高の環境で研究ができています。ちょっと見ていってくださいよ。私が案内しますよ」

「カイラ・・・」


 変人集団の中にもまともな奴が居てよかった。


 詳しく事情を聞くと、長年マホット団長は成果の上がらない研究員たちの面倒を見て来たそうだ。しかし、そろそろ年齢も年齢だから、引退を考えており、次の宮廷魔導士団長に彼らの面倒を引き続き見てほしいと頼んだのだが、断られてしまったそうだ。予算を管轄する財務省に要請しても受け入れられず、伝手を頼って祖父に相談した。そんな経緯でここに魔法研究所が建設されたようだ。


 道場主なのに、全く知らなかった・・・


 カイラという女性研究員が最初に案内したのは、ポーションの研究をしている部署だった。様々なポーションの研究をしており、高性能のポーションを安価な素材で製作できるようになっていた。それに身体能力を高めるポーションも近々完成するそうだ。


「高性能ポーションと身体強化ポーションはすぐに販売できるくらいには仕上がってます。今後も新しいポーションを生み出せるように研究していきます」


 これには国王陛下も満足そうだった。ポーションの研究者に質問をする。


「そうか!!ところで、なぜここに来て成果が急に上がったんだ?王都にいる間にこの結果がほしかったのだが・・・」

「それはですね、魔物実験の成果です。色々な種類の魔物を大量に連れて来てくれるので、こっちは殺し放題ですよ。そのために異常に強く、知能の高い魔物が生まれたり、スケルトンも生まれましたからね。まあ原理はまだ解明できてませんが、この調子でバンバン魔物を殺し続けたら、解明できると思いますよ」

「そ、そうか・・・まあ・・・頑張ってくれ」


 国王陛下がドン引きしている。

 一方、マホット団長は仕切りに研究員を褒めていた。マホット団長は研究者たちに慕われているようだった。


 それからも研究所内の案内は続いた。魔石の研究者は、魔石の効率的な利用方法に一定の評価を得る一方で、都市ごと破壊する魔法の研究を話すと、またドン引きされていた。

 そして最後はカイラ研究員の研究施設だった。自信満々にカイラ研究員は言う。


「私の最高傑作を見てください。もうすぐ、闘技場デビューです。できれば今回の視察に間に合わせたかったのですが、ギルマスに止められてしまいました。いきなり実戦投入はできないと言われまして・・・」


 国王陛下が尋ねる。


「ところでカイラ、貴殿は何の研究をしているのだ?」

「まあ、これを見て下さい。ジャーン!!」


 カイラ研究員は、壁に掛かっている大きめの布をおもむろに剥ぎ取った。そこに現れたのは、巨大なゴーレムで、両手に剣を装備していたし、背中にボウガンを背負っている。もちろんだが、国王陛下以下、お付きの方たちはドン引きしている。


 そういえば、このゴーレムは見覚えがある。ゲームに登場した敵キャラとそっくりだ。

 それはキラーゴーレムという名前のゴーレムで、魔王城に登場する。攻略本には、「魔王に従う、マッドサイエンティストが作った、危険なゴーレム」との記載があった気がする。倒すのにかなり苦労した覚えがあり、魔王直轄の四天王をも凌ぐ強さだったと記憶している。


「これに勝てる人なんて、ゴーケン様やオデットさん、ティーグさんくらいですかね?こっちに来て、ドワーフの優秀な鍛冶職人が手伝ってくれましたから、やっと完成しました!!」

「カイラ!!よくやった!!本当に素晴らしい」

「マホット団長もありがとうございます。もっとこのゴーレムは強くなりますよ!!そして、ゆくゆくは量産化も目指します」


 因みにこのゴーレムは、「キラーゴーレム君1号」というそうだ。そもそもこんな危険なゴーレムを量産するつもりだなんて、ヤバすぎる。一瞬カイラのことをまともそうに思った自分を殴ってやりたい。

 だが、物は考えようだ。この研究所ができたお陰で、魔王にカイラが仕えることが無くなってよかったと思おう。転生して初めて、世界平和に貢献したのかもしれない。


 これで、すべての日程が終了した。

 国王陛下が言う。


「ホクシン流剣術道場は練度も高く、それに騎士団や冒険者、一般市民への教育にも適した機関であるとよく分かった。この功績をもって、国から貸し付けている借金の利子は免除にする。

 そして騎士団長!!ここに騎士団の訓練施設を作れ。編成はコーガル方面隊の所属でよい。騎士学校を出た若手を中心に第二の教育機関と位置付けよう」


 騎士団の訓練施設ができるのは、予定外だが、利子が免除になったのは嬉しい。利子自体は格安だったが、それでも額が額だけに利子だけ払い続けるだけで、人生が終了する未来もあり得たので、本当に嬉しい。


「続いて、魔法研究所についてだが、マホットよ。引退したいと言っておったが、まださせんぞ。こちらの研究施設は国有化する。そして、マホット、お前が所長をせよ。彼らの面倒を見てやれ。それなりに予算は付けてやる」

「ありがとうございます・・・本当にありがとうございます・・・」


 マホット団長は嬉し泣きしていた。このイカれた集団の面倒を見て、いつか成果が出ると信じて疑わなかった結果が出た瞬間だった。マホット団長は本当に人格者だ。



 ★★★


 誰が人格者だって?そう思った自分を殴ってやりたい。


 国王陛下が帰還した一ヶ月後にマホット団長改め、マホット所長がやって来た。王都での引継ぎを終えてやってきたのだが、一緒に拘束された罪人を多数連れてきた。事情を聞く。


「儂は若い頃から、拷問官になるのが夢でな。なまじっか攻撃魔法の特性があったばっかりに宮廷魔導士団長までさせられた。だが、とうとうその夢が叶ったのだ。こいつらは拷問予定の者じゃ。国王陛下の許可はいただいておるから、心配せんでもいいぞ」


 マホット所長の到着に合わせて、研究員も出迎える。


「マホット所長!!俺の拷問用ポーションを使ってください!!」

「それよりも私の劇薬を使ってくださいよ!!」

「死んだら、スケルトンの研究をしたいので、是非譲ってください」


 もう何も感じない。私には研究員に慕われている人格者の所長にしか見えなかった。


 そんな時にマホット所長が言う。


「しかし、エミリア殿も太っ腹じゃな。こんな施設を国に寄付するなんてのう。ポーションと薬品類の特許料だけで莫大な物になるのに、それを建物の賃貸料だけでいいなんて・・・これが真の武人というものだろうな」


 当然だが、賃貸料は祖父の物になる。

 つまり、私は大きな利益を逃し、マッドサイエンティストもびっくりのマホット所長も抱えることになってしまった。

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