30 国王の視察 2
ソフト模擬戦用の闘技場から、一般の闘技場に移動する。騎士団長と警備についている近衛騎士団長は青ざめている。
理由は分かる。子供たちの大会の後に、大人の集団ソフト模擬戦大会を開催したのだが、5人制の部はモギールさんチームが、10人制の部でキュラリーさんチームが、それぞれ優勝してしまったのだ。騎士団と近衛騎士団の新兵も数チーム出場したのだが、優勝できなかったのだ。
この事態に国王陛下が苦言を呈された。
「いかに新兵といえども、商人や女性文官のチームに負けるとは、少し弛んでいるのではないか?」
まあ、そんなことを国王陛下に言われたら、そうなるよね。後でこそっと国王陛下が祖父に言っていたのを聞いた。
「アイツらにはそう言ったが、あの商人と文官はすぐにでも実戦で使えるレベルだ。新兵が勝てるわけなかろうに・・・」
立場的に国王陛下も言わないわけにはいかなかったようだ。
一般の闘技場では、最初にドノバン指揮による軍事訓練が行われた。部隊行進に始まり、剣士隊、槍部隊、弓兵隊、魔導士隊の合同演習へと続く。一糸乱れぬ動きは圧巻だった。国王陛下も満足そうに言う。
「練度が高いな!!これなら、どんな国が攻めて来ても安心だ。騎士団長、近衛騎士団長、よく指導ができている。褒めて遣わす」
「「はっ!!ありがたき幸せ!!」」
国王陛下も先程、少し苦言を呈したから、気を遣って大げさに褒めたのだろうけど、それにしても練度は高かった。軍事面は素人だけど、その素人が見ても凄さは分かる。観客たちも、かなり盛り上がっているからね。
ここで、ギルマスのスタントンさんから、拡声の魔道具でアナウンスがあった。
「次は対魔物戦闘の実演です。まずは、コーガルの自警団3名とブラックボアとの戦闘をご覧に入れます」
ブラックボアは、デモンズラインにいるAランクのワイルドボアほどの強さはない。しかし、かなりのパワーとスピードがあるCランクの魔物で、一般人が勝てるレベルではない。冒険者でもない自警団がたった3人で挑むなんて、自殺行為だ。国王陛下も心配そうに言う。
「おい!!大丈夫か?危なくなったら、すぐに助けてやれ。民を無駄死にさせるな」
しかし、それは杞憂だった。
自警団の3人は、槍使いが「足払い」でブラックボアを転ばせ、弓使いが「速射」で少しずつダメージを与えていく。槍使いの「足払い」は、私の「薙ぎ払い」と同じようなスキルで、スタンを狙う技だ。「薙ぎ払い」ほど、成功率は高くないが、槍なのでリーチが長い。「足払い」が躱されると剣士が上手くフォローしている。しばらくして、弓使いが放った矢が、ブラックボアの頭部に刺さり、ブラックボアは絶命した。
国王陛下は絶句していた。
これがどれだけ凄いことかというと、自警団が3人以上いれば、Cランクの魔物を狩れるということだ。Cランクの魔物は、普通の騎士団員だと大体5人以上で対処する。つまり、その辺の騎士団員よりも、コーガルの自警団の方が強いということだ。騎士団長が言う。
「恥ずかしくて、騎士と名乗れん奴が、何人いることか・・・我々も訓練から見直さなければな」
心中お察しします・・・
その後、すぐにスタントンさんのアナウンスがあった。
「続いては、Cランクパーティー「銀の翼」とワイルドウルフ10匹との戦闘を行います。観客の皆さんは、デモンズラインに生息する魔物がどれほど危険かを感じ取ってください。なお、この戦闘はBランクへの昇格試験も兼ねています。「銀の翼」への温かい声援をお願いします」
ワイルドウルフは、単体だとワイルドボアほど強くはないが、群れでの連携攻撃は厄介で、次々に仲間を呼び出すので討伐に苦労する魔物だ。今回は10匹か・・・単体だと「銀の翼」でも勝てるかもしれないけど、10匹だと厳しい感じはする。
戦闘が始まる。
「銀の翼」は剣士、槍使い、弓使い、魔導士の4人パーティーだ。前衛2人後衛2人でバランスがいい。4人とも真面目な性格で、堅実な戦いをする。ウチの馬鹿貴族の子弟も助けてもらったしね。
戦闘の方は、一進一退の攻防を繰り広げていた。どちらも決め手に欠ける感じだ。しばらく、戦闘が続いたところで、弓使いが救援の信号弾を上空に放った。
すると、すぐにドノバンが率いる部隊が展開し、ワイルドウルフの群を包囲する。ワイルドウルフは観念したように全員が仰向けに倒れ、お腹を見せていた。
「観客の皆さん!!このように危険な魔物と遭遇した際は遅滞戦闘を心掛け、救援の信号弾を撃ってください!!今回の「銀の翼」は、決して無理をせず戦うことができました。討伐は出来ませんでしたが、間違いなくBランクの実力があります。よって彼らをBランクに昇格させます!!」
観客から暖かい拍手が送られる。
因みにこのワイルドウルフは、ウチで飼っている強化型のワイルドウルフだ。もう何も驚かないけどね。
国王陛下が言う。
「冒険者と騎士団の連携も取れているようで、安心した。冒険者と騎士団の仲が悪い領や都市もあるからな。それにしてもドノバン隊長はいい指揮をするのう。流石はグラゼル侯爵の息子だけはある」
「お褒いただき、恐縮です」
ドノバンも評価されたようで、よかった。
★★★
ここで、プログラムにはなかった模擬戦が突如始まった。
なんとゴーケン、オデット、ティーグのチーム対クマキチ、クマコ、ホネリンのチームだ。しかも魔物チームはオグレンが作ったのであろう武器と防具を装備している。クマキチが大剣、クマコが槍、ホネリンが長剣だった。
なぜ、魔物が武器や防具を装備できるんだ?
ツッコム所がそこではないような気がするが、もうどこをどうツッコミを入れていいのかも分からない。国王陛下や騎士団長も驚愕している。
試合はというと、白熱した展開となったが、やはり、ゴーケンたちには敵わないようだった。それでもクマキチたちは諦めずに向かって行く。クマキチたちがゴーケンたちに稽古をつけてもらっているような感じになって来た。次第に観客もクマキチたちに声援を送る。
「頑張れ!!諦めるな!!」
「クマキチ!!クマコ!!ホネリン!!負けるな!!」
「ライライライ!!」
最終的には、地力の差でクマキチたちは敗北したが、それでもゴーケンたちからアドバイスをもらっているようで、観客たちも温かい拍手を送っていた。魔物に声援を送り、拍手をするなんて、観客も感覚が狂っている。
国王陛下が言う。
「あんな強力な魔物を飼っているのはどうかと思うが、ゴーケンたちがいれば安心だろう。いい試合だった」
国王陛下も若干、現実逃避しているように思える。
「以上で視察日程は終了となります。何かお気付きの点があれば・・・」
言い掛けたところで、高齢の宮廷魔導士団長に遮られた。
「もう一つ見たい施設があります。研究所があったはずでは?」
えっ!!あれを見るの?
「マホット、お主が視察について来るのは珍しいと思ったが、お主の本命はそれだったんだな?エミリアよ。案内してくれ」
「はい!!」
そう答えるしかなかった。
できれば、あんなイカれた奴らを見せたくはないあ・・・・
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