3 金の掛かるペット
冒険者活動は順調だった。討伐実績で、私とポン、ポコ、リンはBランクに昇格した。
冒険者は一般的にA~Fの等級に分けられている。Aランクより上のSランクの冒険者もいるが、ごくごく少数だそうだ。Bランクともなればコーガルの町でも3組しかおらず、町の主力といっていいパーティーになっていた。因みに祖父はSランクのようだ。人格と金への汚さはFランクだけど。
そうなると注目される。先輩の冒険者からも質問を受ける。なので、こう答えることにした。
「秘密が知りたければ、ホクシン流剣術道場に是非一度お越しください。きっと貴方の求めているものが見付かるはずです。初心者大歓迎、ニシレッド王国の元剣術指南役がご指導させていただきますよ」
意外に反応がよかった。
「ああ、ムサール先生のところか・・・俺も小さい頃、通ってたんだよな」
「私も!!」
「久しぶりに覗いてみるか?」
因みにポン、ポコ、リンも週に2回は通ってくれている。なので少しだけ門下生が増えた。しかし、クソジジイがまた不当要求をしてきた。
「門下生が増えて、大変じゃ。給料を上げてもらわねば、やってられんぞ。もう隠居してもいい年齢だしな。しかし、ここで儂が抜けると道場が立ちいかなくなるなあ。この老体に鞭を打って・・・」
コイツだきゃあ!!
私が冒険者活動や門下生の勧誘で奔走しているのを知っていて、この態度。クソジジイがいないと道場が回らないのを知って足元を見やがって!!
しかし、この要求は呑むしかなかった。
「お祖父様、10パーセントアップでお願いします」
「いや、30だな」
「15で」
「では20パーセントアップで手を打とう」
誰が言ったか「働けど働らけどなお、わがくらし楽にならざり」、それが私の今の心境だ。
★★★
冒険者活動は、3日に1回はしている。今日も今日とて、デモンズラインより北に入って魔物を狩り、薬草などの素材を採取する。ポン、ポコ、リンも慣れたもので、次第に要求が高くなる。
ポコが言う。
「エミリアさあ・・・もっと早く倒せないの?なんか魔物をおちょくって、嬲り殺しにしているように見えるんだけど。友達として言うけど、あまり良いことじゃないと思うわ。いくら魔物でも、一思いにとどめを刺してあげればいいと思うのよね。彼らも生き物なわけだし」
ポンも続く。
「俺もそう思う。戦闘が長引けば長引くほど、リスクが上がるしな。それにムサール先生みたいに一撃で倒せるんだろう?」
やらないのではなく、やれないんだよ!!
そもそも、「返し突き」をしつこく繰り返す以外のことをやると、逆に私たちが嬲り殺しにされる。ただ、そのことを言えないので、嘘を吐く。
「みんなには悪いんだけど、もう少しで新しい奥義が完成しそうなのよ。だから、それを試したくて、ああいった戦いになっているのよ。だから、悪いんだけど、付き合ってもらえると有難いなあと思って・・・」
リンが言う。
「もちろんよ、エミリア先生。私たちがBランクになれたのもエミリア先生のお陰だしね」
この子は、私によく懐いてくれている。
「まあ、そうよね。私たちも協力するわ」
「そうだな。エミリアも早く奥義を習得できるように頑張れよ」
しばらく、いつもどおりの活動をして帰還することにした。今日の成果は高級キノコのパイン茸が20本、それに薬草が20本、ワイルドコング2体、ワイルドボア1体だった。これ以上増えると持ち運びが大変だからね。
そんなとき、魔物が魔物に襲われている不思議な光景を目にする。襲われているのは小型犬くらいの大きさのタヌキ?ハクビジン?それっぽい魔物だ。少し黄色掛かった体色で、愛らしい顔をしている。そのタヌキっぽい魔物は大怪我をしていて、今にも力尽きそうだ。対して相手は・・・
「ワイバーン!!何でこんなところに?」
「危険すぎる!!」
「幸い交戦中だ!!もったいないけど、討伐した獲物は置いて逃げるぞ!!」
ワイバーンは飛竜種で、私にしてみたら、相性の悪い相手だ。空中からブレス攻撃を続けられたら、「受け流し」で躱し続けるしか方法がない。近接物理攻撃以外、「返し突き」は使えないからね。ポン、ポコ、リンが言うように見捨てて逃げるのが正解なのだろう。
しかし、そのタヌキっぽい黄色い奴は、私に目で「助けて」と訴え掛けてくる。しかも、愛くるしい鳴き声で。
「ライライ・・・」
駄目だ・・・これは魔物のスキルだ!!
魅了されてしまう。
気付いたら、私は咄嗟にそのタヌキっぽい黄色い奴の前に出て、ワイバーンのブレスを防いでいた。
「ポン、ポコ、リン!!すぐに逃げて、私はここでこの子を救うわ!!」
「おい!!止めろ!!」
「エミリア、魔物にそこまでする必要はないよ」
「先生!!」
でも私は彼らの声に耳は貸さなかった。堪り兼ねたポンが言う。
「分かったよ!!エミリア!!俺たちは逃げる。でもムサール先生を連れて来てやるからな」
★★★
長い長い戦いが始まった。最初は私のことを侮ったワイバーンが急降下して一気に仕留めようと向かってきた。もちろん「返し突き」で攻撃する。何度かそんなことを続けたが、ワイバーンの固い表皮を貫くことはできなかった。それにワイバーンは知能がそこそこ高いので、近接攻撃は避けて、遠距離からのブレス攻撃に切り替えてきた。
こうなると私に攻撃手段はない。ひたすら「受け流し」でブレスを躱すのみだった。
永遠のように長い時間が続いた。実際は3時間くらいだったらしい。ポン、ポコ、リンも力が続く限り走ってくれたようだ。
そして戦いの終わりは突然訪れた。
「斬撃波!!」
大きな斬撃がワイバーンを襲う。バランスを崩したワイバーンを更に大量の矢と魔法が襲う。そして、ワイバーンは地面に落下した。「斬撃波」を撃ったのは我が祖父だった。地上に落ちたワイバーンに祖父がとどめを刺す。
「乱れ桜!!」
無数の刃がワイバーンを襲う。あっという間にワイバーンが切り刻まれる。
助かった・・・
それはタヌキっぽい黄色い奴も同じ気持ちだったみたいで、私の胸に飛び込んできて、頬を擦り付けてきた。
「ライライ!!」
私とその魔物が抱き合っているとポン、ポコ、リンも抱きついてきた。感動の再会をしているところに、クソジジイが空気の読めない言葉を発する。
「緊急クエストの受領書にサインをくれ。儂はSランクだから高いぞ。それに救援に来てくれた奴らは、Bランクが2人、Cランクが3人だからその分もお前が何とかするように。まあ、今持っている素材を全部売れば、払えんことはないだろうがな」
私は膝から崩れ落ちた。
★★★
それからギルドで各種手続きをした。大赤字だった。2週間の儲けがほぼゼロになった。助けてくれたことは有難いが、そもそもの話、道場の経営を再建するために私は頑張っているのに、全く協力してくれないことは本当に腹立たしい。
更に信じられないことをギルドの受付嬢から聞かされる。
「そちらの魔物の従魔登録をされますか?登録料が必要になりますが・・・」
ここでしないとは言えないだろう・・・
仕方なく、安くもない現金を支払って従魔登録して、このタヌキっぽい黄色い魔物には、鳴き声から「ライライ」と名付けた。
ただ、この魔物には騙された。愛くるしい見た目とは裏腹に滅茶苦茶食べる。なので、私には比較的優しかったお祖母様も堪り兼ねて、食費を上げられてしまった。今までの3倍だ。
本当に金の掛かるペットだ。一瞬捨ててやろうかと思ったが、訴えるような目で「ライライ」と鳴かれるとすべてを許してしまう。
働けど働らけどなお、わがくらし楽にならざり・・・
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