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29 国王の視察

 急な話だが、国王陛下が視察に来られることになった。

 一体何を見に来るかって?それは、このイカれた施設だ。かなりの猛者を揃え、武器職人をスカウトし、弓兵、槍兵、魔法兵、魔法剣士といったどんな戦場にも対応できる専門部隊を取り揃え、おまけにマッドサイエンティストまで抱えているこの施設をだ。最近では危険なワイルドベアや元ワイルドコングのスケルトンが普通に敷地内を歩いているが、誰も何も言わない。私だけでなく、多くの者も感覚がバグっているのだろう・・・


 そんなことは置いておいて、国王陛下が来られるとなるとかなり忙しい。今も視察に備えて、打ち合わせをしている。私、お祖母様、ルミナ、メイラ、ドノバン、ゴーケン、オデット、ティーグで会議をしている。


「ドノバン、警備の方はどう?」

「国王陛下の案内役はエミリア先生とムサール先生がするんでしょ?だったら心配いらないよ。近衛兵もいるし、ゴーケンさんたちもいるから、誰が攻めて来ても大丈夫だよ。まあ、災害級の伝説の魔物が復活でもしたら別だけど」


 ここでオデットが苦言を呈する。


「ドノバン隊長!!貴方が警備の責任者なのだぞ!!人任せなんてとんでもない。もっと自覚を持ってもらわんと困る。要人を身を挺して守るくらいの気合いがなくてどうする?」

「そ、それは、申し訳ない・・・」


 ドノバンも苦労しているようだ。


「身辺警護は、これ以上必要ないから、猛者クラスの馬鹿が問題を起こさないように見張ってくれたら、それでいいからね。ゴーケンも協力してね」

「協力しよう。本当に危ない奴は視察前に動けないくらいに痛めつけてやろう。なあ、ティーグ」

「そうですね。そうしましょう」


 馬鹿どもは、そんなことをしても、半年もすればまた、忘れて暴れ出すからね。


「ところでお祖母様、おもてなしの方はどうでしょうか?粗相があると困りますからね」

「大丈夫よ。戦闘メイド養成コースの学生を使う予定ですからね。彼女たちも気合いが入ってますからね」


 実は地味にメイドや侍女の研修に来る者も増えてきている。どうせならと言うことで、メイド流戦闘術と、どんな要人にも対応できるマナーを身に付けられる戦闘メイド養成コースを新設したのだ。こちらも単価が高く、しかも問題も起こさないので、道場からすると有難い人たちなのだ。


「国王陛下も、学生が頑張っていることは理解されていると思いますから、多少の失敗は目を瞑ってくれると思います。他の貴族たちが文句を言ってきたら、そこはレミールに折檻してもらいましょう」


 ルミナが言う。


「そうならないように、お父様を通じて、お触れを出しておきますわ。それでも意地悪をするような輩は、自己責任ですわね」


 そんな感じでどんどんと計画を進めていく。一度、ゴーケンから引き継いだ現近衛騎士団長が打ち合わせに訪れたのだが、驚愕していた。


「警備は万全でしょうね・・・ただ、貴方たちが国に反旗を翻して向かってきたら、我々では国王陛下を守り切れないでしょうね」

「そんなことにはならないと思いますよ・・・多分・・・」


 ★★★


 そして国王陛下がやって来た。

 脇を固めるのは、ルミナの父親で領主のバンデッド伯爵とドノバンの父親のグラゼル侯爵だ。その他の貴族は軒並み辞退したらしい。代わりに騎士団長と宮廷魔導士団長が追従する。

 貴族も馬鹿ばかりではない。それなりに情報を仕入れれば、ここのヤバさに気付くからね。そんな所には行きたくないと思ったのだろう。私も貴族の立場ならそうする。


 最初に案内したのは、ソフト模擬戦用の闘技場だ。まずご覧いただくのは、子供たちによるソフト模擬戦大会だ。今回からコーガルのローカル大会ではなく、全国大会にまで発展したのだ。まさにこれから、決勝戦が行われる。

 決勝に進出したプラク道場のプラクさんとオーソド剣術道場のオーソドさんがVIPルームに来て、国王陛下に挨拶をする。オーソドさんは騎士の経験もあるので、そつなくこなしていたが、プラクさんは緊張のあまり、変な言葉遣いになっていた。


「こ、こちらはプラクでありまして・・・国王陛下のお目にかかり・・・」

「緊張せずともよい。冒険者上がりに礼儀や堅苦しい挨拶は期待しておらん。国が有事の際に命を張ってもらえれば、それで構わん。いつもどおり話せ。幸い、ここにいる者は他言せんからな」

「そうですか!!だったら遠慮なく」

「プラク、遠慮はしろ!!」


 しばらくして、オーソドさんはその場を辞した。子供たちの側で見守り、共に戦うのだという。一方のプラクさんは、ここに残っていた。


「ここは見晴らしがいいしな。俺は最初から最後まで口出しをする気はない。まあ、アイツらがルール違反や人の道に反するようなことをしたら別だがな」


 これを見た国王陛下が、微笑みながら言う。


「ムサールよ。お前に指導を受けたのに、ここまで違うと面白いもんだな」

「そうですね。まあ、それがホクシン流剣術道場の最大の特徴だと思っております」

「なるほどな・・・ところでエミリアよ。今回は残念だったな」


 いきなり話を振られた。

 国王陛下が言っているのは、ホクシン流剣術道場の5チーム全てが、決勝進出することができなかったからだ。1チームだけは、何とか準決勝に進出できたけどね。多分、そのことを言っているのだと思う。


「私は負けてよかったと思っています。それがあの子たちの為だったとも思います」


 どこかの有名バスケ漫画の台詞のようなことを言ってしまった。

 というのも、今回大会に出た子供たちは驕っていた。チームの編成などは子供たちの自主性に任せて決めさせたんだけど、「今回は1位~5位までをホクシン流剣術道場で独占してやる」とか言っていた。やる気はあるようだけど、ドノバンやルミナ、レオ君の時とは少し違う気がした。ドノバンたちは「何としても勝ちたい」と思っていたけど、今回の子たちは「勝って当たり前、圧倒的に勝つ」と思っていたようだった。


 こうなるのも無理はない。

 ホクシン流剣術道場に入門してくる子は、才能のある子が多い。有名な武芸者の子弟であったり、親が上位ランクの冒険者だったりする者も多くいる。そんな状況なので、ドノバンたちが優勝した後もずっと優勝していた。「どうしても勝ちたい」がいつの間にか「勝って当たり前」になっていたのだろう。だから、チームも均等に分けたようだ。それに子供でも派閥のようなものができているから、道場内でも争いがある。


 そんな話を国王陛下やプラクさんにした。


「国も同じだ。国が大きくなればなるほど、そういったことも頻繁に起こる。これでも我は苦労しているのだぞ」

「心中、お察しします」


 ここでプラクさんが、会話に入って来る。


「やっぱり、ルトが言ったとおりだな・・・本当にここまでやるかと思ったぜ。勝ちたい気持ちは俺のガキどもの方が上だな」

「ルト君?ああ・・・コボルトの少年ですね?」

「そうだ、マインと戦った奴だ。アイツは今回で最後だからな。どうしても優勝がしたかったらしい。それで、シャドウとかいう怪しい奴に弟子入りして、情報戦で勝つことにしたようだ」

「シャドウって、あの黒ずくめの人ですか?」

「そうだ。怪しい奴だけど、結構いい奴だったぞ。模擬戦をしてみて、それは分かった」


 シャドウって一体何がしたいんだ?

 それは置いておいて、話を聞くと、どうもウチの内部事情をすべて把握されていたようだ。ウチは均等にメンバーを振り分けたことで、1チームにポイントゲッターが2人くらいしかいなかった。それを利用し、ポイントゲッターには引き分け狙い、負けても1本負けを基本戦術に、少し実力の劣るメンバーに確実に二本勝ちを狙う作戦に出たようだった。


「そんなことをしてたんですね・・・気合いが違いますね」

「ああ、決勝も何か秘策があるみたいだぞ。俺は知らないけどな」


 決勝が始まる。

 今回のプラク道場の作戦は、先鋒にポイントゲッターのルト君、次鋒に獅子族で、ルト君の次に実力があるクガルちゃんを配置し、逃げ切りを狙うようだった。結局、この作戦が功を奏し、大将戦を迎えるまでに決着がついていた。


 勝ちたい気持ちって大事だよね・・・


 試合後、プラクさんは、子供たちに胴上げされていた。子供たちの声が聞こえる。


「僕たちは先生に優勝をプレゼントしたかったんだ!!」

「そうよ、だから姑息なこともしたのよ!!」

「先生!!ご指導!!ありがとうございました!!」


 どうやら、子供たちが優勝したかったのは、プラクさんに優勝をプレゼントするためだったようだ。こういうところが、スポーツや武道のいいところだよね。


 私はというと、ライライとともに負けて悔しがっているホクシン流剣術道場の子たちを励ます。泣いている子もいるしね。


「プラク道場の子よりもウチの方が実力は上だと思う。けどね、勝ちたい気持ちが相手の方が上だったね。これからの人生、能力や才能よりも、気持ちの方が大事ってことだよ。悔しかったら明日から頑張ろうね!!」

「「「「はい!!」」」」

「ライライライ!!」


 技術的な指導ができない私は、今日も熱く精神論を語るのであった。

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