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27 道場の今

 なぜだ!?なぜ、勇者は来ない?


 ホクシン流剣術道場を祖父から受け継ぎ、丸4年が経過した。つまり5年目だ。もう「早3年」ではなく、キリがいい「早5年」と言ったほうがいいのだが、まだ勇者は来ない。最初の1年は祖父に任せっきりだったので、それでまだ4年目扱いで、ギリギリ「早3年」なのか?

 考えても分からない。今日も来るとも分からない勇者を待ち続ける日々は続く。


 道場はというと、本当に大変なことになっている。

 まず、武器ごとのコースが増えてしまった。弓使い要請コースに始まり、槍使い養成コース、体術コース、魔導士養成コースまで出来てしまった。そもそもの話、ホクシン流剣術道場は、剣術道場を名乗っていながら、基本的にどんな武器を手に取ってもいいことになっている。猛者クラスにおいては、魔法剣士と斧使いが戦うこともよくあるし、短刀使いと槍使いが戦うこともある。元々がカオスなところに大量の猛者がやって来たのだから、当然「俺が使っている武器が最強だ!!」とか言う輩も出てくる。


 そして、その者たちは勝手に子供たちに自分が使っている武器を教え始めた。オデットのような比較的まともに近い(最近、基準がかなり甘くなってしまった・・・)者ならいいのだが、クサリ鎌のようなマニアックすぎる武器を教える者まで出てきた。これは私の独断と偏見だが、武器がマニアックになればなるほど、人格破綻者が増えていくように思う。


 そんなこんなでメジャーな武器である弓と槍、最近増えて来た体術を習う子供たちのために、弓使い養成コース、槍使い養成コース、体術コースを新設したというわけだ。槍はオデット、弓はポコ、体術はレミールさんという指導者がいるからね。

 コースを作ると、当然、初級の免状を認定するようになる。弓は「速射」、「精密射撃」の二つのスキル、槍は「三段突き」、「足払い」のスキルを取得した者を認定し、体術はレミールさんやそれに次ぐ指導者と模擬戦をして、それなりに実力があると認められて初めて、認定される。

 そしてこの噂を聞きつけた者が、ニシレッド王国全土からやって来ることになる。ホクシン流剣術道場にはニシレッド王国屈指の弓術場があるし、槍の指導者オデットや体術の指導者レミールさんは、その道では、かなりの有名人らしく、彼女たちに師事しようと、多くの門下生がやって来ることになった。


 また、冒険者ギルドや国の要請で魔導士養成コースも新設された。

 ギルマスのスタントンさんが言うには、冒険者で死亡率が一番高いのは、魔導士だという。この世界でも魔法が使えること自体が珍しく、子供の頃からちやほやされて育てられた魔導士が多くいうるそうだ。そうなると、当然、勘違い野郎も出てくる。初歩のファイヤーボールしか使えないのに「俺、強ええわ!!」と粋がり、無茶な戦闘をして、命を落とすと言う。


 経験的に私もそう思う。危険なデモンズラインに単身乗り込むのは、決まって魔導士だ。実際、ルミナもそうだったしね。ギルマスのスタントンさんは言う。


「ギルドとしても、貴重な魔導士を失いたくはない。魔法を教えてくれとは言わん。ただ、剣士の基本的なスキルと、世の中には、上には上がいるということだけ、教えてくれればいい」


 結果的に多くの魔法剣士が生まれることになった。また、魔法もルミナや宮廷魔導士団だったシェリルもいるので、魔法の才能がある者は、その才能を開花させることになるのだが・・・


 あるとき、私の知らぬ間に、謎の建物が敷地内にできていた。気になって覗いてみると、何やら怪しげな魔法を研究しているようだった。

 中で作業をしている者に話を聞くと、驚きの答えが返ってきた。


「ここは魔法研究所ですよ。ムサール先生が、私たちのような研究職の魔導士は肩身が狭いだろうからと言って、ここを作ってくれたんです。今は主に禁忌魔法の研究をしてます。馬鹿にしてきた奴らを、見返してやるんですよ。国中の魔石を集めれば、都市ごと吹き飛ばすことも可能ですからね」


 もう止めてくれ・・・

 イカれた猛者だけでなく、イカれたマッドサイエンティストたちも、大量に抱えることになってしまった。



 ★★★


 ここまでは、まだ許せる。あれ?許せるか?

 もう私も感覚がバグっているからね。


 それは置いておいて、絶対に許せない施設が二つも完成した。どちらも大規模な闘技場で、一つはソフト模擬戦の集団戦を行う施設、もう一つは騎士団レベルの集団模擬戦を行う施設だ。こちらも私が気付いた時には8割方完成していたから、工事をストップするなんて無理だった。


 何が許せないかって、それは建設費だ。

 白金貨3000枚、日本円にして約30億円だ。もちろん私に払えるはずはない。どうしたかというと、国からの借金だ。

 流石に頭に来て、クソジジイに文句を付けた。


「こんな大金払えませんよ!!経営破綻したらどうするんですか!!」

「経営破綻したら、担保として国に施設すべてを取られてしまう。国が運営してくれるだろうから、門下生は安心じゃろう。だが、儂らは無一文じゃろうな・・・恩給も差し押さえられるじゃろうし、先祖代々受け継がれてきた道場じゃし・・・」


 だったら、なぜそんなことをしたんだ!!

 開いた口が塞がらない。だが、この危機を切り抜けなければ、ホクシン流剣術道場は消滅し、ひいては勇者にスキルを教えられず、世界が亡ぶかもしれない。

 とにかく、この馬鹿みたいな施設を利用して、収益を上げなければ・・・


 まずやったのは、大規模なソフト模擬戦大会だ。

 大人気スポーツであるソフト模擬戦、しかも集団戦とあって、多くの注目を浴びる。救いだったのは、文官のキュラリーさんが、国からの出向ということで、ウチの道場の職員になってくれたことだ。流石に多額の貸し付けをしている相手の監査は必要だからね。キュラリーさんを中心にして行った大会運営は上手くいき、予想以上の収益をもたらすことになった。そして、定期的にリーグ戦を開催することになり、観客も多く訪れた。


 そして、もう一つの闘技場だが、国の騎士団や他領の領軍に訓練所として貸し出すことにした。こちらも好評だったが、流石に毎日のようには使ってくれない。なので、騎士団や領軍が利用しないときに門下生や冒険者、一般の利用者に対して商売をすることにした。

 それは魔物と戦わせることだった。


 最初は猛者たちに魔物を捕獲させようとしたのだが、上手くいかなかった。アイツら問答無用で討伐するからね。それでも趣旨を懇切丁寧に説明して、協力を求めたが、無駄だった。だってアイツら、加減ができないんだもん・・・


 結局、私が魔物を用意することになる。「返し突き」で魔物を瀕死の状態に追い込み、弱ったところを捕獲する。幸い搬送は、ギルドが無償で協力してくれた。ギルマスのスタントンさんは言う。


「こっちは冒険者が実際に魔物と戦っている状況を見て、指導できる。大体、殺されるのは、初めて戦う魔物だからな。ここで経験を積めばそれも減る。これで冒険者の生存率も大幅に上がるだろうよ。魔物搬送を無料にするくらい、将来有望な冒険者の命に比べれば安いもんだ」


 スキンヘッドで筋骨隆々のスタントンさんだが、意外に情に厚く、面倒見もいい。


 しかし、問題もあった。

 魔物搬送のボランティアに来てくれる冒険者は駆出しの冒険者、E~F級の者たちがほとんどなのだが、いつもドン引きされる。今もブラックウルフの群れと対峙しているのだが、心無い言葉を投げかけられる。武闘大会の記憶がフラッシュバックする。


「惨たらしい・・・見てられねえよ・・・」

「いつも血塗れだしな・・・」

「仕事の割に報酬が高いから来ているだけで、普通なら絶対受けねえ案件だぜ」

「教会の奴らには見せられないな・・・命を冒涜してるとか、言われ兼ねない」


 おい!!黙れ!!お前らも同じ目に遭わせてやるぞ!!


 だが、ここでキレたら、魔物搬送に協力してくれる冒険者がいなくなってしまう。その気持ちをグッと堪え、今日もひたすら「返し突き」を繰り返すのであった・・・


 本当にやるせない・・・

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

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