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26 バンデッド領の政策 2

 結論から言うと形になるまで1年の期間を要した。

 心の中では、こんなことをしている場合ではないと思っていたが、口に出すことはなかった。それにしても、まだ、勇者は来ない・・・


 最初にやったことは、指導内容の統一だ。同じように型と「二段突き」と「二段斬り」を習得するだけなのにこうも違うかと思うほど指導方法はまちまちだった。冒険者タイプのプラクさんは実戦型だし、騎士タイプのオーソドさんは型重視だ。他にも素振り原理主義の指導者もいて、「とにかく振れ!!」という指導をしている者もいる。何度か会合を重ねたが、議論は平行線のままだった。

 とりあえず、こちらは他の道場主に任せて気の済むまで話し合ってもらうことにした。


 そして、冒険者ギルドの関係だが、こちらは新人冒険者の指導要領を流用することで、何とかなった。ギルマスのスタントンさんは言う。


「一日講習を受けてもらえれば、できる内容にしてるぜ。冒険者になるわけじゃないし、これくらいでいいだろ?」

「もちろんですよ」

「苦労しているようだが、頑張れよ。応援だけはしておいてやる」


 冒険者ギルドはそれでOKだったが、指導者たちはそうはいかなかった。3日後に再度、協議を行ったが平行線のままで、挙句の果てに喧嘩になり、協議そっちのけで模擬戦を始めてしまった。流石は名立たる道場の代表者だけあって、壮絶な戦いを繰り広げていた。その中でもプラクさん、オーソドさん、それと素振り原理主義者のフリルさんは群を抜いていた。猛者クラスの者でも彼らに太刀打ちできる者は、そういないだろう。

 結局三人の勝負はつかず、最後はなぜか和解して、飲みに行ってしまった。


 その一週間後にも協議を行ったが、もうこの日から協議する気はないようで、みんなで模擬戦をして、その後飲みに行くという流れになってしまった。これが1ヶ月続いた。取りまとめる私のことも少しは考えてくれればいいのに・・・


 仕方なく、彼らに頼ることはやめた。そこで頼ったのが、商人のモギールさんと、女性文官のキュラリーさんだ。彼らは趣味で始めたソフト模擬戦から剣術の面白さに目覚め、初級の免状を取得しているから、参考になると思った。この二人は成長著しく、最近では「三段突き」や「三段斬り」も習得している。これはゲームでいうところのレベル20前後に相当する。かなりの猛者だ。


 二人から話を聞く。

 まずは練習方法だが、最初は週に1回か2回、ソフト模擬戦をしに来る程度だった。それが徐々に面白くなり、毎日のように通うようになる。そして3ヶ月目からは、仕事前に朝のランニング、素振りを行うようになったという。


「僕は友人に誘われてここに来たんですが、面白くてね。それに痛くないですし」

「私もです。仕事のストレス解消ですね。嫌な上司を思い浮かべながら思いっきり、叩きに来たのがはじまりですよ」


 きっかけは大したことはない。


「やると嵌っちゃいましてね。今ではごく偶に猛者クラスにも行ってますよ」

「私もです。怖そうに見えて、ゴーケンさんは凄く教え方が丁寧なんですよ」


 私は質問をする。


「それは凄いですね。でもどうやって「二段突き」や「二段斬り」を習得したんですか?それなりに努力しないと普通は身に付きませんよ」


「それは、「二段突き」や「二段斬り」を使ってくる人が、ソフト模擬戦クラスにも結構いたからですね。実際に何度も受けてみて、ああ、こんな感じかってなって、教えてもらいながらやったらできたんですよ」

「私も同じです。あまり痛くないので、何回受けても平気ですしね。ただソフト剣と真剣では、感覚が少し違うので、ソフト剣で習得してから、真剣で習得するのに1ヶ月は掛かりましたよ」


 詳しく聞いてみると、「三段突き」や「三段斬り」も同じ感じで習得したそうだ。多分そこにヒントはあるのだろう。更に詳しく聞いて私はある結論に達した。ソフト模擬戦で楽しさを知ってもらい、次第に勝ちたくなったり、もっと上手くなりたくなる気持ちを醸成する。そして、実際に「二段突き」や「二段斬り」を体験してもらい、習得していく。無理に押し付けても駄目だということだ。

 ここに習得まで15年掛かった人がいるからね・・・私だけど。


 そして次の会合で、指導者たちにこう提案した。


「皆さんが一流の武芸者であることはよく分かりました。なので、実際に子供たちを指導してみて、一番習得が早かった指導者の指導に従うというのはどうでしょうか?」


 これには同意してくれた。早速、ホクシン流剣術道場に入りたての子供を集め、均等に割り振る。各指導者5名ずつの子供を抽選で選んで、訓練を開始させた。

 3ヶ月後に結果が出た。

 5名全員が習得できたのは、モギール・キュラリー式の指導方法だった。他の指導者はというと多くて2名、それも指導者そっくりの子供ができあがっていた。


「皆さんはそれぞれ思いがあって、道場を運営されていると思います。子供によっては合う合わないといったこともあるでしょう。私たちがやった指導が完璧とはいいません。プラクさんに習って習得できた子はプラクさんが一番よかったというでしょうし、オーソドさんやフリルさんも同じです。

 これがコーガルの町のように子供やニーズに合わせた道場が、たくさんあればいいのですが、そうではない剣術が盛んでない地域では、私たちの指導が効率よく習得させることができると思います。皆さんは、こだわっていますが、初級なんて始まりにすぎませんからね」


「そうだな。我々が間違っていたのは、一流の剣士を育てようとしていたことだ。そうではない者たちを指導すると忘れていたよ」

「俺もだ。一流の冒険者や戦士にしようと考えていたからな」

「誰もが騎士になりたいわけではないからな・・・」


 これで上手くまとまる。型はオーソドさんが中心になって統一化を図り、訓練前後の素振りやトレーニングはフリルさんとプラクさんが中心にメニューを作ってくれた。そして、それをまずコーガルの町で広めていき、徐々に他の町へも指導に出向くことになった。


 ここで問題になったのは、指導者の問題だ。指導者が圧倒的に足りなかった。

 なので、領全体から指導者を集め、指導者認定の講習を行い、多くの指導者を輩出することになった。講習を受けた他の町の指導者はびっくりしていた。


「こんな指導があったとは・・・これなら辞めていく子供も減るぞ」

「ああ、やる気があったり、才能がある奴は勝手に訓練するからな」

「本当にありがとう。次は子供ソフト模擬戦大会で会おう。負けないからな」


 これがきっかけで、ソフト模擬戦は領全体に広がることになった。


 ★★★


 1年が経つと領全体で大きく犯罪発生率が低下したという。領主のバンデッド伯爵自ら、お礼にも来てくれた。


「本当にありがとう。これを国に報告すれば、補助金も多くつけてくれる。他の領にも指導に行かないといけないかもしれないけどね。そういえば予算は足りているかい?補助金を出してるはずだが・・・」


「補助金?」


 いや、貰ってないけど・・・


「領主様、武人に金の話など無粋ですぞ。我々は世のため、人のために精進しているのですからな。それが真の武人です」


 おい!!またちょろまかしたのか!?


 バンデッド伯爵が帰った後に祖父を問い詰めた。


「お祖父様、これは一体どういうことですか?私は補助金なんて・・・」


 言い掛けたところで、ポコがやって来た。


「ありがとうございます。ムサール先生!!それにエミリアも!!私たち弓使いのために、弓術場を新設してくれるなんて・・・弓使いは矢のお金もかかるし、メンテナンスも大変なんですよ。それに変なところで練習すると危ないですからね。これで私も後輩たちにしっかりとした指導ができます」

「ポコよ、儂は何もしておらん。エミリアに礼を言ってくれ」

「本当にありがとう、エミリア!!エミリアにも教えてあげるわよ」


 今度はポコを利用したのか・・・嬉しそうなポコを見ると何も言えないじゃないか!!


 それはそうと、このクソジジイは一体何を考えているんだ。かなりの猛者を揃え、武器職人をスカウトし、今度は弓兵まで育てる気か?


 本当にこのクソジジイは戦争でも起こそうとしているのかもしれない。

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