21 意外な結末
決勝が始まる。
一応、ゴーケンに握手はしてもらえた。
「礼儀や志は大事だ。だが強さこそ、武人が一番大事にすべきことだと、我は思っている。好き嫌いは別にして、負けた者がとやかく言うことではないと、我は思う」
「私はそこまで強くはないですけど、礼儀とか、相手を敬う気持ちとか、思いやりは大事だと常々思っています」
「面白いことを言う。あれが貴殿なりの思いやりだと?まあいい、勝負だ」
開始と同時に私はゴーケンに猛然と向かって行った。「受け流し」ができない以上、私は接近して、「返し突き」を繰り返すしかない。ここまで、追い込まれたのは今世で初めてかもしれない。
「今までと全く違う戦いだな。よし、我も嫌いではない。付き合ってやるとしよう」
ゴーケンの剣は凄まじかったが、何とか「返し突き」が発動し、躱せている。しかし、全くダメージが与えられない。ゴーケンは凄まじく、訓練しているようで、鋼のような肉体だった。RPG風に言うとこんな感じだろう。
エミリアのこうげき!
ミス!ゴーケンに!
ダメージを与えられない!
ふざけている場合ではない。時を追うごとにゴーケンの攻撃は激しくなっている。
「蚊でも刺したか?それにもう終わりか?」
うん!!もう終わりです。体力が切れたとき、それが私の命が尽きるときです!!
私が肩で息をしているところにゴーケンの大剣が飛んでくる。
「覇者の一撃!!」
死んだ!!
だが、何とか「返し突き」が発動した。もう無意識だった。私のレイピアがゴーケンの喉元に飛んでいく。一瞬ヤバいと思ったが、私にレイピアの軌道を変える力は残っていなかった。レイピアの剣先がゴーケンの喉元にクリーンヒットした。鋼鉄に剣を突き立てたような感触だった。そして確認すると、少し皮膚が切れた程度の傷しか付けられなかった。
殺さなくてよかったと思う反面、アンタ・・・首まで鍛えているの!!という驚きでいっぱいだった。
そりゃあ、魔族の精鋭部隊でも勝てないよ。アンタが魔王倒してきなよ・・・
私は潔く、降参しようと決意した。バンデッド伯爵には「絶対に優勝してくれ」と頼まれたけど、相手が悪すぎる。
私はレイピアを鞘に納め、「降参します」と声を出そうとしたところ、ゴーケンが言った。
「我の負けだ・・・助命感謝する・・・我も修行が足りんようだ。我はこれより近衛騎士団長を辞する。一介の武人に戻り、修行に励むとしよう。ワハハハハ!!エミリア殿、感謝する」
いやいやいや・・・アンタこれ以上修行しなくていいって!!
何やら訳の分からないまま、優勝してしまった。ゴーケンは私が、喉元に剣を突き付けたことで、私がゴーケンをいつでも殺せると思ってしまったようだった。
訳も分からないまま、表彰式を迎える。
国王陛下直々に表彰状を授与されたのだが、観客の拍手はまばらで、国を上げた5年に一度の武闘大会とは程遠い表彰式となった。まあ、私に人気がないからね・・・
そんなとき、国王陛下から声を掛けられた。
「少し話したいことがある。すぐに我について来てくれ」
「はい!!喜んで!!」
そうだよね。こんなところで、白金貨100枚は渡せないだろうしね。日本円にして約1億円、これで道場の心配はしなくてよくなる。私は期待を胸に国王陛下についていくことにした。
★★★
案内されたのは、闘技場の地下で、何か拷問施設のようだった。そして、バンデット伯爵も控えていたし、なぜか祖父がいた。それに私が一回戦で倒した魔法剣士団の団長ティーグ、宮廷魔導士団のシェリル、準決勝で対決したオデットもいた。
どうしたんだ?まさか、賞金の白金貨100枚を払うのが惜しくなったのか?
でも祖父がいる以上は、それを許さないだろう。だったら、なんだ?
すると国王陛下がおもむろに話始めた。
「これより特別裁判を行う。ゴドリック伯爵をここへ!!」
ロープで拘束されたゴドリック伯爵が国王陛下の前に連れて来られる。国王陛下の傍らに控えていた宰相が何かの文書を読み上げる。
「罪状、ゴドリック伯爵は配下の者と共謀の上、以下の悪事を犯した。一つ・・・」
滅茶苦茶悪いじゃないか、このおっさん!!
かいつまんで言うと、まずブラブカ道場に代表される傘下の道場を隠れ蓑にして、犯罪組織を手引きしたこと、その悪事が露呈しないように数々の悪事を繰り返したこと、極めつけは隣国レコキスト王国のメリダ王女の誘拐だった。
宰相が言う。
「証人よ。発言を許可する。メリダ王女は無事だ。心配せずともよい」
ティーグが言う。
「ありがとございます。私、シェリル、オデットは隣国レコキスト王国より派遣された武官です。日頃から他国の身でありながら、良くしていただいたことを心より感謝いたします。結果としてニシレッド王国を裏切ってしまったことは・・・」
国王陛下が遮る。
「気持ちは聞いておらん、端的に述べよ」
「はい、私とシェリルはメリダ王女が誘拐され、監禁されている事実をそこのゴドリック伯爵に告げられ、協力しなければ、王女の命はないと脅されました。依頼された内容は、そこにいるエミリア殿を試合中に抹殺すること、そして、国王陛下の暗殺です。オデットは何も知りません。まっすぐな奴ですから、王女のことよりもニシレッド王国に忠義を尽くすと言い出しそうなので、声を掛けなかったのでしょう」
「相違ないな?」
「はい」
ここで、ゴドリック伯爵が騒ぎ出す。
「陛下!!このような他国の者を信じてはなりません!!戯言です」
「ほう・・・だったら、証人を連れて参れ」
連れて来られたのは、懐かしい顔だった。ブラブカ道場の代表者だったバコモンだ。そういえば、コイツから、あの時の大会運営費を取り立てねば・・・
でも言える雰囲気ではなかった。
「間違いありません。ゴドリックの旦那に頼まれまして、仕方なく王女を誘拐しました。それに会場に手下を忍ばせてまして、騒ぎに乗じて・・・まあ、こうなってしまいましたがね」
詳しく聞くと、私のことは気に食わなかったようだ。理由はコーガルの町で犯罪組織が潰されたことが大いに関係しているという。それが元で国内のほとんどの組織が壊滅したらしい。全くの逆恨みだ。流石に腹が立つ。
ゴドリック伯爵の悪事に気付いていた国王陛下は、ルールを曲げて、国王の推薦枠としてゴーケンを出場させたそうだ。ゴーケンには流石のティーグも勝てないので、それならばということで国王陛下の暗殺を狙ったようだ。ゴーケンが優勝してしまえば、国王が軍事部門を統括できて、悪事が露見するからね。
ゴーケンが大会に出ることになり、警備が手薄になることを狙い、当初の予定では、ティーグが私を始末した後に、頃合いを見て負ける。シェリルも同じ形で、途中で負けて国王陛下の襲撃に備える。計画では、決勝は何も知らないオデットとゴーケンが戦うことになり、すぐには決着がつかない。この時に騒ぎを起こして、ティーグとシェリルが国王陛下を暗殺する予定だったそうだ。
あれ?私って優勝しなくてよかったんじゃね?
それは置いておいて、私は国王の暗殺を防いだ陰の立役者として称賛されることになる。だって、結果としてだけど、ティーグもシェリルも出血多量で、ポーションや回復魔法で治療しても、すぐに動ける状態ではなかったからね。
宰相がまた、文書を読み上げる。
「エミリア・ホクシンは、ティーグとシェリルが暗殺を企てていると事前に察知し、ティーグとシェリルを敢えて殺害することはせず、戦闘が継続できない危険な状態にまで追い込んだ。これは貴重な証人を確保するためにも非常に有効な措置だったと評価できる。よって、エミリア・ホクシンを騎士爵に任ずるものとする」
あれ?貴族になっちゃった?
訳の分からないまま、事が進んで行く。オデットが私の前に跪く。
「非礼の数々、詫びのしようもない。自ら汚名を被り、主君のために忠義を貫いた貴殿こそ、武人の中の武人だ。大した実力もなく、事情も知らない我が偉そうに言ったことは、本当に恥ずかしい。誠に申し訳なかった」
そんなつもりでもないし、貴方は滅茶苦茶実力がありますよ。本当に・・・
勝ったのだってマグレだしね。
「まあその辺でいい、後のことは担当の者に任せるとして、エミリアよ。ささやかな宴を準備しておる。貴殿の武勇伝を聞かせてくれ」
私は宴の前に着替えを命じられ、従者に連れられてその場を後にした。
去り際に国王陛下と祖父が何やら、言葉を交わしているのが聞こえてきた。歩きながらだったので、あまり聞こえなかったけどね。
「ムサールよ。エミリアに本当のことは言わんでいいのか?」
「陛下、お戯れを。このようなことは私の代で終わりにしたいのです。あの子の母のこともありますし」
「だが・・・」
「これは決めたことです。ではこれで失礼します。これでも忙しいですからな」
「ではまたな、武運長久を祈る」
このとき、二人は何の話をしていたのか?
後に知ることになるのだが、それを知ったとき、私は発狂した。
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次回から第三章となります。




