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20 本戦 3

 準決勝は赤髪の女槍使い、「閃光の槍」オデットとの対戦となる。いつもどおり、会場は完全にアウェイだ。


「オデット!!串刺しにしてやれ!!」

「そうだ!!ぶっ殺せ!!」

「シェリルちゃんの仇を取ってくれ!!」


 もはや、握手を交わす雰囲気ではなかった。開始早々にオデットが目にも止まらぬ速さで突きを繰り出す。


「百裂突き!!」


 こんな芸当ができるのは、相当の猛者だ。私は「受け流し」を発動させる。しかし、2発ほど体を掠めた。


「貴様がやって来たことをそっくりそのまま、我がやってやろう!!」


 ヤバい!!オデットは私を嬲る気だ!!


 しかも「受け流し」ですべてを躱しきれない・・・

 私のスキル「受け流し」は、ほぼすべての攻撃を無効にする。しかし、例外が存在する。一つは精神攻撃だ。これについては、精神攻撃を防ぐアクセサリーを身に付けていれば何とかなる。実際私も身に付けているしね。そして、もう一つは相手との力量差があり過ぎる場合だ。レベルが30以上離れているとすべてを「受け流し」で躱しきれないのだ。

 私のレベルが10くらいだと仮定すると、オデットは確実に40以上あることが分かる。レベル40ともなると、ラスボスを倒せるレベルだからね・・・


 あれ?オデットって・・・ゲームに出てきたモブキャラだ。


 思い出した!!オデットは隣りのレコキスト王国で、同国の王女が魔族に攫われた事件で単身敵のアジトとなっているダンジョンに乗り込み、ボスの手前で勇者パーティーと合流する。ボスは勇者パーティーが倒すのだが、オデットは勇者にこう言う。


「我は、勇者殿が戦っている間、雑魚どもを決して通さん!!勇者殿、姫を頼む」


 ここで、プレイヤーからいつものツッコミが入る。


 おいおい!!こんなダンジョンの奥深くまで、単身で来れること自体が異常なんだよ!!

 あれだけ苦労した魔物が雑魚だと?

 というか、勇者パーティーとか要らなかったよね?


 オデットも異様に強いモブキャラの一人だった。それは置いておいて、何とかしないと、私の命がない。


 槍使いとの闘いの基本は、相手の間合いが届くギリギリでの攻防から、機を見て、懐に飛び込むのが定石だ。遠い間合いでは流石に私の「返し突き」も発動できない。

 道場の猛者クラスには多くの槍使いがいる。しかし、オデットはその者たちと比べ物にならないくらいに強い。一応、対槍使いの戦闘も訓練してきたのに・・・

 当初の計画では、「受け流し」で凌ぎつつ懐に入り、焦って近間で攻撃してきたところを「返し突き」で仕留めるはずだったのだが、その計画が早くも破綻してしまう。


 だったら、一か八か賭けに出ることにする。本当に初見殺しなんだけどな・・・

 やるだけやってみて、駄目なら潔く降参しよう。


 私はオデットに向かって言った。


「なかなか、やるようですね。だったら一撃で仕留めてあげましょう。私の門外不出の奥義をもってね」


「何を訳の分からないことを!!嬲れない相手となると本気を出すか・・・その考え自体、虫唾が走る」


 やっぱり、滅茶苦茶嫌われている・・・


 私はオデットと間合いを取り、初級の型試験で習ったそれっぽい強そうな動きで、いかにも凄い技を出しそうな雰囲気を演出する。そして、大声で叫ぶ。


「受けてみよ!!ハイパーサンダー竜虎乱舞!!」


 大層な名前だが、そんな技なんてない。やったことは「二段突き」からの「二段斬り」だ。これは、初級を取得した者が好んで使う技だ。ちょっとそれっぽく、剣術をやってる感があるからね。当然、オデットのような猛者に効くはずはない。軽く躱される。


「なんだそれは?舐めているのか?だったら、我も一撃で仕留めてやる。

 一閃突き!!」


 物凄い速さの突きが飛んできた。当たったらかなりの威力だ。石の壁だったら一撃で粉砕できるだろう。でも、あくまでも当たったらだ。この距離なら「返し突き」が発動できる。コケ脅しに使ったのはすべて間合いを詰めるためだったのだ。

 そして、今回は一撃で決める。胸でも貫けば、それだけで戦闘不能だろう。幸い一流の回復術師が多く待機しているから、死にはしないだろう。痛いだろうけど・・・


「返し突き!!」


 しかし、ここで誤算が起きた。あまりのオデットの速さに狙いがズレた。私のレイピアは、オデットの喉元に向かって進んで行く。人間ヤバいと思うとスローモーションになるのは本当だ。止めようにも止まらない。私は心の中で叫ぶ。


 止まって!!殺しちゃう!!


 想いが通じたのか、私のレイピアはオデットの首の皮を少し切ったところで止まった。オデットは、何が起きたか分からないような顔で、私を見ている。


 まだ、やるとか言わないよね?


 会場は静まり返った。するとオデットは槍を捨てて言った。


「我の負けだ・・・我の渾身の一撃を躱し、そして助命までするとは・・・まさか、これまでの戦いは、何か意図があってのことだったのか?」


 何か、勝手に変なことを想像しているようだったけど、負けは認めてくれたようだ。私は勝名乗りを受けるとすぐに会場を立ち去った。

 だって、観客から罵倒されるからね。



 ★★★


 次は決勝まで、しばらく間が空く。ルミナとドノバンが準決勝を見ようと誘ってきた。そこに居たのはなんとリンだった。リンも準決勝に進出していたのだ。


「本当に決勝でリンと戦えるかもね」


 しかし、ドノバンが言う。


「そうなってほしいけど、それは無理。相手は近衛騎士団長のゴーケン団長だからね。もう凄すぎるよ。流石のエミリア先生でも・・・」


 リンの対戦相手を見やる。こちらは金髪で大柄な筋肉隆々の男だった。年齢は30歳くらい、大きな大剣を装備している。


 あれ?アイツも・・・ゲームで見たな・・・


 ゴーケン・・・それはニシレッド王国の王城が魔族の襲撃を受けた時に一人で、王宮の扉の前に立って、勇者パーティーが来るまで、敵を撃退し続けた奴だ。


「ここは死んでも通さん!!たとえ屍になってもな!!」


 コイツにも多くのプレイヤーからツッコミが入った。


 なんで、一人で持ち堪えられるの?

 魔族の精鋭部隊を全く寄せ付けないって、どういうこと?

 というか、ここまで攻め込まれる前に何とかできたよね?ニシレッド王国は馬鹿の集まりなの?


 試合を見ると、私が知っているゴーケンだった。二つ名は「剣鬼」、それに恥じぬ実力だった。リンが子供扱いされている。ただ、私と違って観客はリンが一生懸命に戦っている姿に声援を送っているし、ゴーケンにも声援が飛んでいる。

 まるで、ゴーケンがリンに稽古をつけてあげているようだった。


「なかなかの腕前だ。近衛騎士団女性隊であればすぐに推薦してやろう。かなり努力したようだな」

「はい!!いい師匠や同僚に恵まれてますので」

「そうだ。感謝の気持ちを忘れないのはいいことだ」

「ありがとうございます。勝てないかもしれないけど、胸を借りさせてください」

「存分に来るがいい」


 観客もそれに答えて、声援を送る。


「リンちゃん、頑張れ!!」

「ゴーケンの旦那も優しいな」

「こんな機会はないぞ」

「おお!!ゴーケンが仰け反ったぞ。やるな!!」


 同じ道場の出身なのに、私と対応が全然違う・・・


 そして、決着の時が訪れる。


「いい稽古だった。このまま精進を続けるように」

「はい!!」

「では、我が奥義の一端を見せてやろう。覇者の一撃!!」


 ゴーケンは大剣を横振りにした。

 全く見えなかったが、リンの剣が真っ二つに切れていた。


 あんなの喰らったら、「受け流し」でも防ぎきれない・・・


 降参したリンにゴーケンは優しく声を掛ける。そして、脇に差していた予備の直剣をリンに手渡す。


「我の予備の直剣をやろう。少し重いが、しっかりと振れるように努力しろ」

「はい!!ありがとうございました!!」


 場内は暖かい拍手に包まれた。


 あれ?私のときと違い過ぎるよね?

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

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