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2 冒険者エミリア

 とりあえず、日銭を稼ぐことにした。それで考えたのが冒険者だった。私のスキルだと、戦う相手さえ間違えなければ、ほぼ負けない。時間は掛かるけどね。本当は道場の門下生を増やすことが必要だけど、そんなに急に増えない。15歳の小娘に敢えて習いたいなんて奴は多分、変態か何かだと相場は決まっている。

 実際に冒険者の活動をしてみても、それなりに魔物は倒せた。問題は一人では、討伐した魔物を多く回収できないことだ。それは追々考えるとしよう。


 そして、肝心の道場なのだが・・・


「儂にしばらくの間、道場の指導者をしてほしいと?それは構わんが、給料は出るんだろうな?優しいエミリアのことだから、年寄りを無料タダで、こき使うとかせんじゃろうな?」


 このクソジジイが!!


「そうじゃ、食費も払ってほしいと婆さんが言っておったぞ。少ない恩給でやりくりするのは大変じゃからな」


 帳簿を確認すると、もはや赤字どころではない。今のまま冒険者の活動をしても賃貸料を払わなくてはいけなくなる3ヶ月後には、間違いなく破綻してしまう。なので、私は賭けに出ることにした。



 ★★★


 門下生でもある三兄妹のポン、ポコ、リンと臨時パーティーを組むことにした。ともに青髪の兄妹で一番上の兄のポンは細身の斥候タイプ、妹のポコは弓使い、末娘のリンは回復術師だ。ポンは私よりも2つ上、ポコは私と同級生、リンは私の一つ年下で、三人とも幼馴染でもある。三人が冒険者活動を始めてからは、ほとんど道場に来なくなったが、籍だけはまだあるので、一応は門下生扱いだ。

 彼らを引き連れて、私はある場所に向かった。ポンが叫ぶ。


「おい!!エミリア!!ここって、デモンズラインを越えてるんじゃないのか?まだCランクの俺たちには無理だよ。引き返そうぜ」


 私たちが住んでいるコーガルの町の北には未開の森が広がっている。そして、その森を更に北に進むと明らかに魔物が強くなる場所がある。ここをコーガルの町の住民はデモンズラインと呼んでいるのだ。デモンズラインより北に立ち入っては命がないと言われ、毎年多くの冒険者がこの場所で命を落とす。


 ならなぜ、彼らはこの地に入ったのか?


 そんなの、いい素材が取れるからに決まっている。ゲームでは、この森の奥に魔族領があり、魔王が住んでいるのだが、物語終盤まで立ち入らないほうが安全だ。それに世界を回って、クリスタルを集めなければ、どのみち魔王城までたどり着けないからね。


 しかし、今の私にしてみればリスクを冒す価値は十分にある。ここで定期的に魔物を狩れば、当面道場は維持できる。それに実際にここの魔物と戦ってみて、私のスキルがあれば死ぬことはないと実証済みだからね。物理攻撃メインの魔物であれば、勝率は100パーセントと言ってもいいくらいだ。


 怯えている三人に私は言う。


「大丈夫よ。これでも私はホクシン流剣術道場の道場主よ!!私のスキルがあれば、まず負けないからね」


 私は三人に作戦を指示した。ポコが言う。


「本当に危なくなったら逃げていいのね?エミリアは友達だけど、本当にそうさせてもらうわよ」


「大丈夫よ。貴方たちに頼むのは追撃戦と素材の回収だからね」


 しばらくは、薬草やキノコ類を採取して回っていた。薬草やキノコだけでも普段の3倍以上の収入は見込める。2時間ほどして、中級冒険者の死亡率第1位と言われる魔物、ワイルドベアが現れた。それも5体。

 ワイルドベアは大型の熊の魔物で、強力な爪での攻撃をしてくる。それに鋭い牙で嚙みつかれたら、即死してもおかしくない。しかし、私の敵ではない。近接物理攻撃は効かないからね。

 5体のワイルドベアが私を襲ってくる。私はおちょくるようにスキルの「返し突き」を発動させる。もちろん一撃では倒せない。ちまちまと嫌らしく突き刺し、ダメージを与えていく。そうすると怒り狂った1体が向かってくる。


 来た!!


 私は「返し突き」を発動し、ワイルドベアの心臓を一突きにした。流石にこれは致命傷だ。それを見た2体が更に怒り狂って突っ込んでくる。「返し突き」を発動した。1体は肩に、そしてもう1体は喉に命中した。1体はまだ戦意を失っていないが、もう一体は倒れ込んで戦闘不能だ。放っておいても、その内死ぬだろう。


 そんな攻防を繰り返していたところ、残り2体となった。その2体は私と距離を取り、どうしたものかと悩んでいるようだった。もちろんだが、私から攻撃はしない。というかできない。私はスキルを使わなかったら並みの剣士以下だ。多分、弓使いのポコや回復術師のリンにも負けるだろう。なので、挑発をしてみる。しかし、効果がなかった。


 そして2匹は示し合わせたように私に背を向けて逃走した。私はすかさずスキルを発動する。


「薙ぎ払い!!」


 すると2体のワイルドベアは足を掬われ、地面に転がった。

「薙ぎ払い」は斬撃を飛ばして、相手を転ばせるだけのスキルで、足がある魔物や対人戦では、かなり効果がある。足のないスライムには効果はなかったけどね。


「今よ!!一斉射撃!!」


 ポン、ポコ、リンがそれぞれ弓で大量の矢を射掛けた。ポンもリンも本職ではないけど、それなりに弓は使えるからね。転んだところに大量の矢が飛んできて、2体のワイルドベアは瀕死の状態だ。


「ポン!!気を付けてとどめを刺して!!」


「よし来た!!」


 ポンは斧に持ち替えて、ワイルドベアの首を刎ねて行く。攻撃が強力なだけで、こんな状態になったら、Cランクのブラックベアと大差がないからね。

 三人が歓声を上げる。


「やったあ!!Aランクのワイルドベアを倒したぞ!!それも5体!!」

「これで半年は遊んで暮らせるわ!!」

「エミリア()()のお陰ね!!ありがとう」


 4人で均等に割ったとしても、かなりの収入になる。とりあえず、3ヶ月は凌げる。帰り道、私たちの足取りは軽かった。もちろん、討伐したワイルドベアの死体は重かったけど。ギルドに納品をすると私が思っていたよりも多くの収入があった。というのも5体中4体がオスで、ワイルドベアの睾丸は精力剤として高値で取り引きされているようで、嬉しい誤算だった。


 デリカシーのないポンが余計なことを言って、妹たちにタコ殴りにされていたけどね。


「4人もオスを従えていたなんて、とんだ逆ハー熊だな。お前らもあんな風になるなよ」

「バカ兄貴!!デリカシーはないの!!」

「本当よ。兄妹であることが、今日ほど恥ずかしいことはないわ!!」


 結局、ポンの分の睾丸の臨時収入は没収され、私に渡してくれた。照れ隠しだが、お礼のつもりだろう。


 それから気を良くしたポン、ポコ、リンは定期的に私とパーティーを組んでくれることになった。

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