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19 本戦2

 私の快進撃?は続く。


 二回戦は不戦勝だった。相手が私に恐れをなして逃亡したらしい。これで又、箔がついたようで、三回戦に登場した時は、会場から一斉にブーイングが巻き起こった。気持ちは分かるんだけど・・・


 三回戦の相手はゴドリック伯爵領の領兵隊長だった。伝統的なプレイトメイルアーマーを身にまとい、大楯と長い槍を装備した相手だった。どこかで見たことがあると思ったが、コーガル少年ソフト模擬戦大会に出て来た領兵も同じスタイルだった。

 戦ってみると、ソフト模擬戦大会に出て来た領兵よりは、格段に実力は上のようだったが、それでも私の敵ではなかった。


 レイピアを鞘に納めたまま、相手に不用意に近付く。そして、笑いながらこう言った。


「のろまなカメさん!!甲羅に閉じこもって・・・怖いのなら帰ったらどうですか?ほら、こんなに近くにいますよ」


 これは私が意地悪なのではない。こうしなければ勝てないからだ。この重装歩兵スタイルは私と相性が悪い。相手も攻撃をしっかりと受け止めて、カウンターを狙うスタイルだからだ。そうなると勝負は待ち合いになってしまい、私の能力がバレてしまうからね。

 怒った相手は向かってきた。


「貴様!!我を愚弄するのか!?この槍の錆にしてやる!!」


 槍を構え、猛然と突進して来た相手に会わせて、「返し突き」を繰り出す。動きが遅いので、関節部分を中心にレイピアを突き刺す。修行の結果、これくらいのスピードの相手であれば、何とか狙った所に突きを繰り出せるようになっているのだ。


 いつもどおり、長時間の戦いになった。戦闘が長引けば、長引くほど相手は不利になる。いくら訓練を積んでいるとはいえ、その重い装備では、体力の消耗は著しい。次第に鈍くなっていく。


「薙ぎ払い!!」


 攻撃してこなくなると、すかさず相手を転ばせる。致命傷にはならないけど、地味にダメージが入る。起き上がるだけでも、かなり体力を消耗するからね。


 そんな戦いも終わりを迎える。相手が倒れて起き上がらなくなってしまったからだ。審判が駆け寄り、試合終了を告げる。


「おいおい、また勝ったぞ・・・」

「胸糞悪いな」

「ああ、アイツは何が目的なんだ?」


 もう慣れたと思ったけど、心優しい私は結構傷付いてしまう。


 控室に戻っても誰も声を掛けて来ない。ルミナやドノバン、それにリンでさえも、ちょっと、よそよそしい。私はバンデッド伯爵領の為に頑張っているのに・・・


 ★★★


 そんなこんなで、私はベスト8に進出した。なんと驚いたことにリンも残っていた。ドノバンが言うには、軒並み有力選手が私のブロックにいたので、その影響だという。まあ、リンもそこそこ強いからね。ベスト8の試合の前に私を含めた8人の選手は、会場に集められ、改めて選手紹介をされる。皆、大層な二つ名を付けられていた。


 リンなんて、「ビューティーファンダメンタル」という二つ名だった。基本に忠実な美しき麗人だと?

 まあ、リンの戦い方は美しい。これぞホクシン流剣術といったところだからね。


 そして私の二つ名だが・・・


「最後にご紹介するのは、この方!!ホクシン流剣術道場の道場主、その名も「血塗れの嬲り姫」、エミリア・ホクシン!!」


 会場から一斉にブーイングが起こる。

 ブーイングはもういい。だが何だ?「血塗れの嬲り姫」って?

 好きでやっているわけではないのに・・・


 平常心だ・・・これは卑怯な奴が、私の心を乱そうとしているんだ。

 そう思わないとやってられない。



 ★★★


 そして私の準々決勝が始まった。相手は生粋の魔導士タイプのようで、「ビューティーマジシャン」のシェリルという茶髪の小柄な女性だった。なぜ、私の二つ名にビューティーが付かない?

 それは置いておいて、シェリルは宮廷魔導士団の若きエースらしい。

 握手をしようとすると断られた。


「汚らわしい・・・貴方のような人は、生きている価値もありません。消し炭にしてやります」

「そ、そうですか・・・お互いに頑張っていい試合に・・・」

「もう喋らないで!!耳が腐ります」


 なんだよ!!こっちは好きでやってるわけじゃないのに・・・

 だったら、こっちは対魔導士の秘策で、完膚なきまでに叩きのめしてやるわ!!


 とは思ったものの、やることはほとんど変わらない。

 魔法攻撃を「受け流し」で耐え忍び、機を見て「薙ぎ払い」を繰り出すだけだ。


 シェリルは火魔法が得意なようで、様々な火魔法を撃ってくる。容易に近付けない。観客のボルテージは上がる。


「やれやれ!!魔女を火炙りにしてやれ!!」

「シェリル!!いいぞ!!」

「消し炭にしてやれ!!」


 もちろん、私への声援はない。ライライも叫んでくれていると思うが、この歓声では聞こえない。「受け流し」で魔法を躱していくうちに何となく、タイミングを掴めた。相手が魔法を撃とうとした瞬間に私は、「薙ぎ払い」を発動した。

 シェリルは転倒する。


 これは駆出し冒険者に蔑まれながら身に付けた、対魔導士の秘密兵器だ。魔法を放つ瞬間は、一流の魔導士でも隙ができる。そこに「薙ぎ払い」を合わせれば、高確率で当たる。そして、この戦法の利点は、魔法攻撃で溜めた魔力も一緒にキャンセルされることだ。つまり、魔法を撃ってないのに魔力は消費されるのだ。


「受け流し」で魔法を防ぎながら、機を見て「薙ぎ払い」を繰り出す。それをただ愚直なまでに繰り返した。とうとうシェリルは魔力切れを起こしてしまった。

 この大会は生粋の魔導士の出場は少ない。というのも、ルールが魔導士に不利だからだ。連戦で魔力切れを起こしやすいし、基本的に魔導士の運用は、仲間と協力しながらの戦いがメインなので、ここまで勝ち上がって来たシェリルには敬意を表したい。


「もういいでしょ?よく頑張りました。降参してください」

「何を・・・魔力が切れたからって、絶対に負けません」


 なんとシェリルは短剣を手に私に向かってきた。なかなかの使い手だった。冒険者ならB級以上の腕前はある。しかし、それだけだ。

 私はいつも通り、「返し突き」を繰り返す。シェリルは多分、勝てないと悟っていると思う。でもなぜ、ここまで必死に戦うのか?

 ティーグもそうだったが、そこまでして白金貨100枚が欲しいのだろうか?


 そんな思いを抱えながら戦闘は続く。いつもなら、ここでブーイングが起こるはずなのだが、逆に私を応援する声もちらほら聞こえる。


「おい!!もっと嬲ってやれ」

「そうだ、いいぞ!!」

「ポロリするぞ!!」


 歓声を聞くと理由が分かった。シェリルのローブが何十回という「返し突き」で、引きちぎれ、結構エロい姿になっている。


「もう止めましょうよ。これ以上は・・・」

「うるさい・・・黙れ!!お前を殺して、私も死ぬ」


 仕方なくまた、「返し突き」を繰り返す。そうすると観客に変化が起こった。血塗れのシェリルを見て、観客が叫び始める。


「もう止めろ!!」

「そうだ!!俺たちも悪かった!!可哀そうだろうが」

「いくらなんでも、これはやり過ぎだ。胸糞悪い」


 それでもシェリルは攻撃を止めない。そして、とうとう立ち上がれなくなった。審判が続行不可能と判断し、試合を止める。

 そのとき、シェリルは驚きの行動に出る。


「お許しください。死を持って償います」


 シェリルは短刀を喉に突き刺した・・・と思ったら、どこからともなく、槍が飛んできてシェリルの短刀を弾き飛ばした。


 よかった・・・


 私がほっとしているところに槍を投げた者が会場に現れた。ショートの赤髪の女性だった。こちらは騎士団の若きエース、オデットという女性だった。因みに二つ名は「閃光の槍」だそうだ。私と同じくビューティーが付いてないので、親近感を覚える。


「ありがとうございました。お陰で・・・」


 言い掛けたところで、遮られた。それに滅茶苦茶怒っている。


「貴様!!武人としての誇りはないのか!?何が「血塗れの嬲り姫」だ!!同じ女として、軽蔑する。もっとやりようがあっただろうが!!」


 ないよ!!絶対ない!!


「次の準決勝では、後悔させてやる!!首を洗って待っていろ!!」


 そして、オデットは投げ付けた槍を回収して去って行った。

 なんか、私って滅茶苦茶、嫌われてないか?


 やるせない・・・

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