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18 本戦

 いよいよ、私とリンが出場する本選が始まる。まずはトーナメント表を確認しないとね。

 私とリン、バンデッド伯爵の他に微妙な雰囲気のルミナとドノバンと一緒にトーナメント表を見に来た。


「私とリンは別ブロックだね。じゃあ、お約束のアレをやろうか?

 リンよ!!決勝で待っている!!」

「エミリア先生、ふざけすぎ!!私はとりあえず一回戦突破が目標だからね」


 そんな話をリンとしていたけど、ドノバンは驚きの表情を浮かべながら言った。


「こ、こんなことって・・・誰かが意図的にやったとしか思えない。間違いなくエミリア先生を潰しに来ている・・・」

「ドノバン、どういうことですの?分かるように説明してください」


 ルミナに尋ねられて、ドノバンが話始める。

 ドノバンによると名だたる強豪が私のブロックにひしめいているそうだ。バンデッド伯爵も頭を抱える。


「絶対にゴドリック伯爵の仕業だ・・・こんな卑怯なことをするなんて、武人として軽蔑するよ。それに一回戦から魔法剣士団の団長じゃないか」


 そんな話をしているときに小太りの武人には全く見えない、頭の薄くなった中年男性がやって来た。


「バンデッド伯爵、みっともないぞ。公正な抽選に文句をつけるのか?小賢しい奴め・・・」

「ゴドリック伯爵・・・」

「まあ、わざわざ連れて来た選手が、一回戦も突破できんようじゃ、儂なら自害するレベルだな」


 一頻り、嫌味を言った後に、ゴドリック伯爵は去って行った。見るからに悪い奴の雰囲気がする。


 ドノバンが言う。


「とりあえず、団長のスタイルを教えておきますね。まず団長は・・・」


 ドノバンが言うには魔法剣士団の団長は、かなりの猛者らしい。

 魔法剣士はルミナに代表される魔法特化型、ドノバンに代表される剣術特化型に代表されるのだが、団長はどちらにも属さないらしい。魔法を剣に纏わせて攻撃してくるようだ。


「魔法を纏わせられる武器なんて、ミスリル製かオリハルコン製じゃないと無理だし、それに間合いが物凄く計りづらい。躱したと思っても、魔法で間合いが伸びるんだ。俺もまだ団長に勝ったことはない。魔法剣を使わなかったら、いい勝負できるんだけど・・・」


「じゃあ、魔法は使ってこないのね?」


「使えなくはないけど、エミリア先生には使ってこないと思うよ。初見殺しの魔法剣で瞬殺を狙ってくるはずだ。バンデッド伯爵の権威を貶めるのが目的だからね。いくら言ってみても、実際にやらないと分からないから、いくらエミリア先生でも・・・」


 だったら大丈夫だ。

 私のスキルはそんなことは関係ないからね。



 ★★★


 一回戦が始まる。

 礼をして、握手を交わす。魔法剣士団の団長は30歳くらいの中肉中背の男だった。


「我が名はティーグ!!貴殿に恨みはない。事情があってこうなった。一撃で決める」

「エミリア・ホクシンです。しがない剣術道場の道場主をしております。お手柔らかに」


 試合が始まると同時にティーグは火魔法を剣に纏わせた。

 なるほど・・・これを躱そうとしても、火魔法で間合いを詰めて来るってやつか。やったことはないけど、とりあえず「返し突き」で何とかしてみよう。


 そして、ティーグは上段から斬りかかって来た。


「返し突き!!」


 上手く発動し、ティーグの剣は空を斬り、私の突きがティーグの右足に突き刺さった。ティーグは何が起こったか分からない顔をしている。


 これはいける!!


 それからはいつもどおりの展開だった。ティーグはかなりの実力者だ。でもそれだけだ。「返し突き」を使わなかったら、瞬殺されるだろうけどね。だから私は、しつこく「返し突き」だけを繰り返す。だんだんとティーグは血塗れになっていく。

 私の戦いを初めてみる観客がドン引きしているのがよく分かる。言っておくけど、これしかできないんだからね。


「もう降参してはどうでしょうか?貴方では私には勝てないでしょうし・・・」

「それはできん、この命尽きたとしても・・・」


 無駄に根性があるなあ・・・

 こっちも困る。殺すつもりなら、そうできないこともないけど、このレベルの相手だと狙って戦闘不能にできるような攻撃は無理だ。出血多量で死ななければいいけど・・・


 そんな思いを抱えながらも戦闘は続く。次第にティーグはの動きは鈍くなる。


「薙ぎ払い」


 血塗れのティーグは転倒する。相手の攻撃が少なくなると「返し突き」の頻度も少なくなるので、仕方なく「薙ぎ払い」でお茶を濁す。


「あの姉ちゃん、やりすぎだろう?」

「本当だわ。しかもなんか笑っている・・・」

「不気味だ・・・あんなことしなくてもいいのに・・・」


 次第に私は観客のヘイトを一身に集め、場内からは「ティーグ!!ガンバレ」コールが起きる。ティーグもその声援に後押しされ、フラフラになりながらも立ち上がる。


「団長!!もうやめてください!!」

「十分戦いました!!」


 魔法剣士団の団員が叫んでも止まらない。


「おい!!審判、もう止めろ!!」

「そうだ!!伝統ある大会を貶める奴があるか!?」

「帰れ!!悪魔!!」


 これって、完全に私がヒールだよね?


 そんな中、一際大きな鳴き声が響く。


「ライライライ!!」


 ライライ!!お前だけだよ。私のことを分かってくれるのは・・・ってお前、すぐにお菓子をねだりやがって!!コイツは!!


 ライライは状況を読んで的確に鳴くとお菓子が貰えると思っている節がある。


 まあいい、私はやることをやるだけだ。


 私は観客の罵倒に耐えながら、「返し突き」を繰り返す。そして、決着のときは訪れた。

 国王陛下が叫んだのだ。


「もうよい!!我はこれ以上、こんな試合は見たくない。ティーグよ、よくやった。褒美を取らせる」


 審判が反応する。


「勝者エミリア!!」


 大ブーイングの中、私は逃げるように試合会場を後にする。

 控室にはルミナとドノバンがやって来た。


「いつみてもエミリア先生はエグいな・・・卑怯なことをした団長たちに軽蔑していたけど、ちょっと同情してしまったよ」

「ドノバン!!これくらいやらなければ、懲らしめられませんよ。少しやりすぎかもしれませんが・・・」


 弟子からしてこれだ。お疲れ様の一言もない・・・


 私は一人、いそいそと次の試合の準備をする。まあ、自慢のレイピアに付いている血を拭うだけだけどね。

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