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17 前哨戦

 私たちはコーガルの町を出発して、王都オーギスに向かった。

 移動はバンデッド伯爵が用意してくれた馬車で、バンデッド伯爵とその従者たちとともに移動する。祖父も日当を支払ってくれたら指導者として帯同すると言っていたが、法外な金額だったので、ご遠慮願った。


 それに優勝したら、優勝賞金の半分を寄越せだって?誰が、払うか!!


 旅自体は楽しかった。そういえば、この世界に転生して初めて、コーガルの町周辺から出た。宿泊場所もバンデッド伯爵が懇意にしている宿や代官屋敷で、かなりもてなしてくれたので、本当に快適だった。そして予定どおり、3日で王都に着いた。

 大会は3日後なので、それまではのんびり王都の観光だ。ゲームでは訪れたことはあるが実際に来るのは初めてだからね。観光と言っても、食べ歩きがメインだ。ライライが仕切りにおねだりを繰り返す。私たちの滞在費はバンデッド伯爵が出してくれるので、財布を気にせず食べられるのをいいことにライライは、遠慮せずにバクバクと食べている。

 リンとルミナは緊張からか、いつもよりは食べてなかったけどね。


 そんなとき、ライライがいきなり私の肩から飛び降りて走り出した。慌てて追い掛ける。ライライに追いつくとライライは少年に飛び付いて「ライライ」と鳴いていた。

 あれは!!


「エミリア先生、それにリン先生もルミナも久しぶり。実は俺も貴族の子弟を集めた大会に出るんだ。もしかしてルミナも?」

「も、もちろんですわ。ドノバンには、絶対に負けませんわよ!!」


 ルミナが対抗心を口にしているが、かなり嬉しそうだ。ドノバンから事情を聞く。


「俺もホクシン流剣術道場に恥じない戦いをするよ。でもエミリア先生が出る武闘大会はいつになく、猛者が集まっているんだ。俺が所属している魔法剣士団も団長以下出場するしね。俺とルミナが出場するクラスは、そこまで強い奴はいないみたいだから、決勝はルミナとかな・・・」


 リンが言う。


「私も出るんだよ。ちょっと対戦相手の情報を教えてよ。出るからには勝ちたいからね」


 リンがドノバンに武闘大会に出場する有力選手を聞いていたけど、私はあまり興味がなかった。誰が相手だろうと、相手が強かろうと弱かろうと私がやることは変わりないからね。強いて言うなら、魔導士かどうかだけは知りたいかな?くらいだけど。


 そんな話を一頻り聞いた後にリンがおもむろに言った。


「なんか燃えて来たわ!!ちょっと修行したくなっちゃった。エミリア先生、訓練に付き合ってよ」

「今から訓練しても、あまり意味がないように思うけど・・・」

「そう言わずに行きましょう。そうだ、ルミナはドノバンからしっかり対戦相手の情報を聞いたほうがいいわ。私たちと別な大会のわけだしね。ドノバンもそれでいいわよね?」


 ドノバンは照れながら答える。


「そ、それくらいなら構わないけど・・・ルミナは?」

「まあ、教えてくれるのであれば、聞いてあげてもいいですわ」


 よく分からなかったけど、ルミナとはそこで別れることになった。

 そして、前哨戦となる貴族の子弟を集めた大会まで、私たちとルミナの別行動は続いた。



 ★★★


 前哨戦となる貴族の子弟を集めた大会が始まった。出場者は32名、自前の武器に刃引きの魔法を掛けて戦うようだった。また、出場者が貴族の子弟なだけあって、一流の回復術師が大勢待機しているらしい。貴族の子弟に何かあったら洒落にならないからね。


 大会が始まり、観戦する。見た感じ、そんなに強い奴はいなかった。やはりルミナとドノバンが群を抜いていた。決勝はこの二人だろうと早くも予想を口にする。

 観戦はバンデッド伯爵やリンとともにVIPルームでしていたのだが、心配そうなバンデッド伯爵を前にリンが言う。


「大丈夫ですよ、領主様。ルミナが負けるはずはありません。まあ、ドノバンとはどうなるか分かりませんけどね」

「そうか・・・グラゼル侯爵の御子息だな・・・しかし、圧倒的だな。あの若さで魔法剣士団に入団を認められたのも頷けるな」

「でも、面白いでしょ?同じ道場で同じ先生に習ったのに全く違ったスタイルなんですからね。これがホクシン流剣術道場の凄いところなんですよ」

「そうだね。リン君もエミリア嬢も全く違うよね。誰も同じ道場の者とは思わないだろうね」


 それはそう思う。オーソドさんとプラクさん然り、ドノバンとルミナも然りだ。少しスタイルを確認しておくと、ドノバンは剣術主体で補助的に魔法攻撃で相手の目先を変える。一方ルミナは、魔法攻撃がメインで、近接戦になって初めて剣術を使う。例外として、相手が魔導士の場合はすぐに接近して、近接攻撃で仕留めていたけどね。


 そんな大会もいよいよ決勝戦となる。

 もちろん大方の予想通り、ルミナとドノバンの戦いだ。どうしていいか分からない私は二人とも応援することにした。


「ルミナもドノバンも!!どっちもガンバレー!!」

「ライライライライ!!」


 この後、すかさずライライにお菓子を与える。VIPルームでもライライは人気で観戦していた貴族からお菓子を山のように貰っていたけど、まだ食べるのだった。


 試合はというと一進一退の展開が続く。魔法の撃ち合いではルミナに分があり、近接戦ではドノバンに分がある。しかし、ドノバンが徐々に押し込んでいく。やはり実戦経験の差だろう。魔法剣士団に入ってからもドノバンが一生懸命に努力してきたことが伺える。

 そして、決着がつく。

 体力切れを起こしたルミナにドノバンが襲い掛かる。必死で防戦するルミナであったが、剣を弾き飛ばされた。

 ルミナは潔く負けを認め、ドノバンと握手をする。場内は大きな拍手に包まれた。


 観戦している貴族たちも称賛している。


「流石は魔法剣士団に所属しているだけはあるな」

「5年後には本戦に出ても活躍するだろう」

「あの少女は魔導士団に欲しいな。専門的な訓練をすればもっと伸びるぞ」


 ドノバンだけでなく、ルミナも評価が高いようだった。


 会場が少し落ち着いたところで、国王陛下が現れた。壮年の男性だが、引き締まった体をしていて、歴戦の猛者の雰囲気がある。流石は武芸を重んじるニシレッド王国の国王だけはある。国王陛下は試合会場に下り、ドノバンとルミナを称える。


「近年稀にみるいい戦いだった。我が国の未来は明るいと思えたぞ。優勝したドノバンよ。望みを一つ言ってみよ。できる限り叶えてやろう」


 少し考えたドノバンは言った。


「こちらのルミナを妻にと考えております。つきましては国王陛下の許可をいただきたい」


 国王陛下は笑い出した。


「ハハハハ!!若いのう!!聞いたか、グラゼル侯爵、バンデッド伯爵!!

 国王の我は認めてやってもいいのだが、家と家のことであるし、そちらのルミナ嬢の気持ちもあることだからな。止めはせん。後はお主次第だ。結婚のおりには祝いの品を贈ってやるぞ」


 一方ルミナはと言うと、顔を真っ赤にしてドノバンをポカポカと叩いていた。


「貴方って人はどうして、そう突然なんですか!!急にいなくなるし、急に求婚するし・・・恥ずかしいです・・・」


 ドノバンとルミナがねえ・・・私は全く気付かなかったけどね。みんなは気付いていたのだろうか?


 バンデッド伯爵が言う。


「すぐには認められないよ!!まずは、ルミナに相応しいかどうか審査しないと・・・家柄は問題ないし、実力もある。顔も悪くない、ルミナも・・・・ってこれじゃあ、文句をつけられない・・・」


 かなり複雑な心境のようだ。


 メイラは涙ぐみ、リンはそんなメイラの手を握って喜んでいる。


「お、お嬢様・・・本当によかった・・・」

「よかったね!!メイラさんも頑張ったしね!!」


 どうやら、私は蚊帳の外だったようだ。

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