表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/110

16 出発の前に

 私が王都で開催される武闘大会に出場する旨を伝え、細かい打合せをしていたところにルミナとメイラがやって来た。ルミナはフィリップ様に抱き着いた。


「お、お父様・・・」

「ルミナ・・・本当に良かった。領の問題もある程度解決したんだ。もうゴドリック伯爵と結婚しなくていいんだよ。それに廃嫡も取り消す・・・・本当によかった。メイラもありがとう」


 詳しく聞くと、ルミナが家出することは知っていたが、ルミナのことを思い、敢えて何もしなかったという。ただ、心配なので、それとなくコーガルの町に行くように誘導していたそうだ。そして、全幅の信頼をおいている侍女のメイラに託して・・・


「それでは、武闘大会の打ち合わせをしよう。まず、推薦枠は2名なんだが、エミリア嬢ともう一人推薦してもらえないか?」

「ならば、リンを推薦します。リンは基本通りの剣術を使います。流石に優勝はできんじゃろうが、今後いい経験になるでしょう」

「承知した。それとルミナも武闘大会の前哨戦である、貴族の子弟を集めた大会に出場してもらうからね」


 ルミナは嬉しそうに答える。


「もちろんです。私が優勝して、次の日にエミリアお姉様が優勝する。ホクシン流剣術道場の力を見せ付けてやりますわ!!」


 これで、出場者は決定した。

 後は、私がいない間に勇者が来たらだな・・・対策を練るとしよう。


 ★★★


 ニシレッド王国の王都オーキズはコーガルの町から馬車で3日の距離にある。往復で少し多めに見て1週間、向こうでの滞在期間は概ね1週週間だから、勇者が来ても留めおいてくれるように指示しておこう。ポンとポコはもちろん、最近ボランティアで講師をしてくれているモギールさんとキュラリーさんに「世界を救う使命を受けた勇者が現れたら、留めおくように」とお願いした。みんな、「アンタ何言ってんの?」という顔をされたが、無視しておいた。


 モギールさんとキュラリーさんが言う。


「流石にそんな使命を帯びた人が、僕たちのソフト模擬戦クラスに来るとは思えないけどね」

「そうですよ。その勇者って人がソフト剣を振り回しながら、世界を救うとか言っていたらと思うとねえ・・・」


 それもそうだ。因みにモギールさんはモメット商会の若旦那で、趣味でソフト模擬戦のクラスでボランティア講師をしてくれている。才能があったようで、「二段突き」と「二段斬り」もマスターし、ホクシン流剣術初級の免状も取得しているのだ。一方キュラリーさんは20半ばの女性文官で、趣味が高じてこちらも初級の免状を取得している。

 才能とは本当に残酷なものだと思う。私は15年掛かったのに・・・


 まあそれは置いておいて、モギールさんやキュラリーさんのようなソフト模擬戦クラスから、剣術を習った記念に初級の免状を取得する人が多くいる。道場の新たな収入源になると思ったが、審査は祖父が行うので、受験料や認定料はすべて祖父のポケットマネーになってしまうのだった。


 だけど考えてみたら、コーガルの町は猛者揃いだ。猛者クラスを置いておいても、一般人の戦闘力が異様に高い。ウチだけでもモギールさんやキュラリーさんのような人が多くいるのに、他の道場も似たようなものらしい。子供は覚えが早いからすぐに上手くなるし、趣味から「二段突き」や「二段斬り」を習得する人も多い。


 これがどれくらいの強さかというと、レベル99がマックスの「雷獣物語」においては、レベル10前後に相当する。駆出しの勇者なんか、一般人や子供が一捻りにできるレベルだ。当然、盗賊なんて酷いもんだ。モギールさんの店に押し入った強盗なんか、従業員だけで、フルボッコにしていたからね。だから最近コーガルの町は治安がいい。警備隊の出動もほとんどが、猛者クラスの馬鹿の喧嘩の仲裁だからね。



 後やることといったら、私やリン、ルミナの特訓くらいだろうか?

 そもそも、私は「受け流し」「薙ぎ払い」「返し突き」しか使わない。「二段突き」と「二段斬り」も使えなくはないが、猛者が集う大会で使えるものではない。なので、リンとルミナの訓練補助に徹しようと思った。

 しかし、これもよく考えてみると、意味はない。私に指導者としての能力はないので、結局高い金を払って、祖父に二人の指導を頼むことにした。


 そして私は、ライライとともに特訓に励む。特訓といっても対魔導士の戦闘を模索するだけだけどね。

 というのも武闘大会には魔導士も出場する。魔導士の魔法攻撃には私の「返し突き」が発動しないので、相手が魔力切れを起こすまで「受け流し」で、我慢比べするしかないのだ。いつかは勝てるだろうけど、効率が悪すぎる。まあ、「できたらいいね」くらいの感覚かな?

 だから、デモンズラインには行かず、駆出し冒険者が修行する「始まりの森」に向かい、マジックモンキーというサル型の魔物で実験をすることにした。


 このマジックモンキーは、この辺の魔物には珍しく、魔法を主体に攻撃してくる。魔法といってもファイヤーボールとウインドバレットくらいだけどね。これなら、多少攻撃を受けたからといって、少し怪我をする程度で済む。

 始まりの森に着いてすぐにマジックモンキーを見付け、戦闘を開始する。やはりこの程度の魔物でも「返し突き」を使わないと苦戦する。私はスキルが使えるだけで、実力がないのだ。しかし、この程度の魔物であれば、「二段突き」と「二段斬り」もそれなりに当たる。


 1時間以上、マジックモンキーと戦闘していたのだが、ある戦術を思い付いた。やってみると、何回かに1回は成功した。これなら、「受け流し」で凌ぎながら、この戦法を使えば時短になることが分かった。一流の魔導士に通用するかどうか分からないけどね。


 1時間も戦闘していると流石にマジックモンキーは魔力切れと出血多量で息絶えた。ふと周りを見ると初心者冒険者が多数、私の戦闘を見学していたようで、ドン引きされた。


「エグ過ぎる・・・」

「いくら魔物だからって、そこまでしなくても・・・」

「そうだよ。こんな所に来ていい人じゃない」

「あの恐ろしい二つ名が付くのも分かるよ。これを人にもできるところがヤバいよ・・・」


 恐ろしい二つ名?


 私は恥ずかしくなり、逃げるように始まりの森から帰還した。スキル以外、戦闘力のない私にはこうするしかないんだよ・・・

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ