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15 客人

 出会いもあれば、別れもある。

 多くの門下生が入門してくる一方、巣立って行く門下生も多くいる。今年からレオ君とマインちゃんが冒険者になり、子供クラスから卒業した。この二人は定期的に猛者クラスに模擬戦をしに来くるので、巣立って行った感じはあまりないけどね。


 ここで少し、猛者クラスの愚痴を言う。

 猛者クラスはかなりの赤字なのだ。これが日本の企業であれば、すぐに事業撤退を検討するレベルだ。原因は色々ある。

 まずは料金体系だ。1日、銀貨1枚(日本円で約千円)を払えば誰でも模擬戦に参加することができる。猛者揃いなので、戦闘は激しく、よく道場の備品が壊れる。この修繕費だけでも馬鹿にならない。結界を張る魔道具を購入したが、逆に思い切り戦うようになってしまい、魔道具の魔石代だけでも結構な出費だ。中には素行の悪い者もいて、勝手にホクシン流剣術道場の門下生を名乗り、酒場で喧嘩したりする。こっちは教えているつもりがないのにである。

 そして、この者たちを引き取りに行って、なぜか頭を下げるのは私だ。レミールさんに折檻してもらうと、半年くらいは大人しくするのだけど、すぐに酒を飲んで喧嘩する。


 素行不良者を追い出し、参加費を値上げすることを提案したが、祖父に撥ねつけられた。


「少し態度が悪いからといって、見捨てるのは武芸者としてあるまじき行為じゃ。それに気軽に模擬戦ができる環境を整えるのが、我らの務めじゃ。もしそうするなら、賃貸料を値上げするぞ」


 だったら、アンタがちゃんと指導しろよ!!


 そう言えないところが辛い。

 まあ、猛者クラスを解散し、こんな荒くれ者たちを野に放つと治安が悪化するだろう。他の道場や冒険者ギルドの訓練場で大暴れしたら、それこそ迷惑だ。なので、社会貢献の一環として捉え、黙認しているのが現状だ。


 メリットといえば・・・あまりない。

 ゲームでも登場する、以上に強いモブキャラが偶に見付かって、「ああ懐かしい」と思うくらいだろうか。最近よく模擬戦に来るのは、木こりの夫婦のホルツさんとフェラーさんだ。息子のウッド君が子供クラスに入門した関係で、よく猛者クラスに模擬戦をしに現れる。この夫婦も強さは異常で、なんとあのデモンズ山に住んでいるのだ。

 ゲームでは「最近、魔物が増えて物騒になりましたよ。世も末ですね」と言うのだが、多くのプレイヤーがツッコミを入れる。


 だからなぜ、そんな危険な場所で普通に住めるんだ?

 勇者パーティーでも満身創痍でたどり着く場所だぞ!!

 山頂で倒れていたレミールさんと一緒にパーティーを組んで、魔王を討伐して来い!!


 探せば、勇者よりも強い猛者は、この世界にはごまんといるのだと考えさせられる。


 少し話は逸れたが、巣立って行った門下生に話を戻す。

 ポン、ポコ、リンが講師をしながら、冒険者を続けている一方で、ドノバンが、ニシレッド王国直轄の魔法剣士団への入団が決まり、王都に旅立った。それも無試験で入団が決まったのだ。ソフト模擬戦大会での活躍と祖父の推薦状だけでね。


 もちろん推薦状には金貨10枚を請求された。この辺り、全くブレないのが祖父が祖父たる所以だ。ドノバンは自分が払うと言ったけど、巣立って行く弟子の為に私が餞別として出してあげた。

 旅立ちの日、ドノバンが涙ながらにお礼を言ってきたのは、今でも忘れない。あのクソ生意気なガキンチョだったドノバンが、立派になったと思うと私も泣きそうになったよ。ライライも少し悲しそうに「ライライ・・・」と鳴いていたしね。


 その影響からか、最近ルミナが落ち込んでいる。最初の出会いこそ最悪だったが、魔法の師匠として、一緒に苦楽を共にした同志として思うところがあったのだろう。そんなルミナを見て、メイドのメイラは「お嬢様・・・お労わしや・・・」といって泣いていたのだが、なぜメイラまで泣くのか、私には理解できなかった。


 そんなこんなで私の日々は続いていく。今日も勇者を待ちながら・・・


 ★★★


 ある日、道場で子供の指導をしていたところ、私は事務員として雇っている女性スタッフから呼び出しを受けた。


「ムサール先生から、エミリア先生をすぐに連れて来るようにとのことです。何でもお客さまが来られたそうです」


「分かりました。すぐ行きます!!」


 とうとう来た。念願の勇者とのご対面だ!!長かった苦難の日々も一区切りだ。


 私は初めて勇者にあった時の台詞を考えながら、応接室に向かった。しかし、客人は勇者ではなかった。ナイスミドルといった感じの壮年の男性で、金髪青目、年齢の割に引き締まった体をしている。


「初めましてかな?凄く小さかったときに一度会っているんだけどね。私はフィリップ・バンデッドだ。ルミナが世話になっている。エミリアちゃんも大きくなったね」


「ああ・・・どうもエミリア・ホクシンです。ルミナは一生懸命頑張ってくれてます。魔法の指導から勉強も剣術指導も・・・お世話になっているのはこちらのほうです」


 なんと、ルミナの父親でバンデッド伯爵領の領主様だった。


「そんな緊張をしなくてもいいんだけど、少し相談があってね。ルミナにも関係することなんだが・・・」


 フィリップ様が語った内容は、かなり重たい案件だった。

 主にバンデッド伯爵領の財政状況が悪化した理由を話された。大規模な犯罪組織に目を付けられ、多くの犯罪が敢行されたという。更に文官を中心にした汚職も多数発覚、その対応だけで、多くの出費が必要だったそうだ。


「でも最近、犯罪組織の尻尾を掴んでね。犯罪組織というのが、剣術道場を隠れ蓑にしていたんだ。この国は武芸者を優遇する傾向にある。道場に対する税金も安いし、いくら武器を隠し持っていてもそう怪しまれない。それに補助金も出ていただろう?」


「補助金?」


 そんなの貰った覚えはない。


 すると祖父が急に話に入って来た。


「領主様、お金の話はこの際、置いておいて、本題に入っていただけないでしょうか?」


 クソジジイ!!お前が補助金をちょろまかしていたのか?


 ここでキレてもいいが、領主様の手前、それは止めておいた。


「そうですね。では話を戻すと、その犯罪組織というのが、ブラブカ道場の関係者でバコモンもその犯罪組織の幹部だったんだ。まだ、身柄拘束には至ってないけどね。でも、裏付け捜査を続けるうちに多くの者を拘束することができた。多分もう犯罪組織もウチの領からは撤退していると思う。これもエミリア嬢やムサール先生のお陰だと感謝しているんだ」


「領主様、そう言っていただけると有難い。礼などは必要ないですぞ。まあ、どうしてもというのなら・・・」


 クソジジイ!!お前、貰う気満々じゃねえか!!


 しかし、領主様は違った褒美を考えていたようだ。


「金銭的な報酬はすぐに用意はできない。しかし、剣術道場としては、非常に名誉なものを持ってきた。それは、5年に一度開催される武闘大会への出場権だ。褒美というか、お願いに近いのだが・・・」


 ニシレッド王国では5年に一度、武闘大会が行われる。この武闘大会に出場するには貴族の推薦が必要だ。そして、優勝者を推薦した貴族には、向こう5年間、軍事部門において、大きな影響力を及ぼすことができるというのだ。


「ゴドリック伯爵・・・アイツの暴走を止めたい。ルミナの元婚約者でもあるのだがな・・・」


 詳しく聞くと、裏で糸を引いている可能性が高いのは、ゴドリック伯爵だそうで、5年前の武闘大会の優勝者を推薦した貴族だという。ゴドリック伯爵は、それを利用して、悪事を働いていたというわけだ。そういえば、第二回コーガル少年ソフト模擬戦大会で、ブラブカ道場が雇い入れていたのもゴドリック伯爵領の領兵だった。


「ゴドリック伯爵は白々しく、私の自作自演だと言ってきている。そんなことは許せない。それに今回もゴドリック伯爵が推薦した者が優勝してしまうと、悪事を暴くことができない。どうか、ホクシン流剣術道場の力をお貸し願いたい!!」


 領主様ににここまでされたら、受けるしかないのに、祖父は渋い顔をしていた。


「しかしなあ・・・我らが追い求める剣術は、決して試合に勝つことではなく、己を鍛え・・・」

「ムサール先生!!優勝賞金の白金貨100枚はすべてお渡しする」

「そこまで言うのなら分かった。エミリアよ!!出場して、必ず優勝して来なさい」


 白金貨100枚って・・・白金貨1枚が日本円で約100万円だから、100枚で約1億円だ。さっきまで「我らが追い求める剣術は、試合に勝つことではない」とか言っていなかったか?


 でも、もう断れないよね・・・

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― 新着の感想 ―
「多くの犯罪が慣行」 慣行って「古くからの習わしとして行われていること」ですよね。なんか合わないような???
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