13 第二回コーガル少年ソフト模擬戦大会 4
中堅戦はレオ君の登場となる。ライバルのトラゾウ君や獣人の子供たちから大声援を受けている。レオ君は最初から獣化して戦うようだ。それにルミナに身体強化魔法を掛けてもらっている。そして、見たことのないような武器を両手に装着している。
ドワーフの親方が言う。
「ソフト爪剣だ。拳闘士がよく使う爪のソフトバージョンだ。槍が大丈夫ならこれも大丈夫だろ?」
爪って・・・本当に何でもありになってしまった。
「ただ、問題が一つあってな・・・」
試合が始まるとレオ君は猛然と相手に向かって行き、構えている楯の上から思いっきり殴り付けた。すると驚いたことに、楯を突き破り、相手にヒット。そして相手は衝撃で場外まで飛び出してしまった。
「ソフト剣の売りである威力を抑えることはできなかった。まあ、相手も槍だし、いいかなって思っているよ」
その言葉通り、相手は気絶して動かなくなった。これでレオ君の勝利となり、私たちホクシン流剣術道場チームの優勝が決まった。みんな大喜びしている。
続いて、副将戦のリンだが、こちらはいつものソフト剣で、ルミナの身体強化魔法も断っていた。
「私がホクシン流剣術の真髄を見せてあげるわ。アレを使えば十分に勝てる相手よ」
リンは言葉通り、対槍戦の型通りに戦い、危なげなく勝っていた。
オーソドさんが感心している。
「型通りの戦いだな。槍の間合いギリギリで戦い、機を見て懐に入る。言うは易いが、なかなかできるものではないぞ」
リンは個人的に猛者クラスの模擬戦にも参加していた。その努力が実ったのだろう。ウチの猛者クラスには、かなりの槍使いがゴロゴロいるからね。この程度の相手ではリンが後れを取ることはない。
そして大将戦だが、ドノバンはルミナに身体強化魔法を重ね掛けしてもらっていた。
「普通に勝てるんですから、無理する必要ないでしょ?」
「それが、グラゼル家の人間がお忍びで見に来ているんだ。アイツらに見せ付けてやろうと思ってな」
「まあ、無理しないようにお願いしますね。大将が負けたら恰好がつきませんからね」
試合開始早々、ドノバンは「三段突き」から「三段斬り」を叩き込み、あっさりと一本を取った。
「おいおい!!あの年齢で三段攻撃ができるのか!?本当に恐ろしい奴だな」
「そうだな。俺たちもあの年齢ではできなかったな・・・」
プラクさんもオーソドさんも驚いている。
仕切り直しての二本目は更に会場中を驚かせた。
「乱れ桜!!」
無数の刃が相手を襲い、あっさりと勝ってしまった。
「まだまだ、ムサール先生には及ばないが、あれもできるとはな・・・」
「俺たちのところのガキどもも、いい刺激になったと思うぜ」
ドノバンはポーカーフェイスのまま礼をして、大喜びしている仲間たちの所に戻る。ルミナとハイタッチを交わして、お礼を言っているようだ。
「もう・・・本当に見栄っ張りなんですから・・・」
「これくらいしないとな。本当にありがとう。ルミナの魔法のお陰だ。まだ身体強化魔法がないと出せないからな」
「あっ・・・もう・・・」
無理して「乱れ桜」を放った影響でドノバンは立っていられなくなり、足がもつれ、ルミナに抱きかかえられていた。
後は表彰式を残すのみだったのだが、大事件が起きた。
★★★
表彰式までの間、大会に参加した門下生たち全員にライライがお菓子を配っていた。もちろん多めに買っているから、ライライも上機嫌だ。しかし、ポンとポコが焦った様子で駆け寄って来た。ポンとポコは大会役員として審判やその他の雑務を手伝ってくれていたのだ。
「おい!!エミリア、大変だ!!バコモンの奴が逃げやがった!!」
「かなり不味いわよ!!私たち大会役員に支払われる報酬も会場の使用料も持ち逃げしてるわ」
バコモンというのはブラブカ道場の代表者で、大会実行委員長をしていた。前年の優勝チームの代表者が大会実行委員長をすることになっていたからね。
「とりあえず、帳簿を確認しようよ。それと各道場の代表者に集まってもらわないと・・・」
私たちホクシン流剣術道場以外にも、多くの子供たちがこの大会を楽しんでくれていた。こんなことで、子供たちの大切な思い出を汚したくない。
すぐに関係者が集まり協議が始まった。
まず明らかになったのは、ブラブカ道場の数々の不正だった。
準決勝から出場した5名は何れもゴドリック伯爵領の領兵で、年齢は17歳~20歳、バコモンに雇われていたそうだ。領兵の中にも心ある人はいるもので、子供たちを前に謝罪したことで発覚した。
「最初は俺たちも、ただ大会に出てくれたらいいと言われて来たんだ。しかし、来てみてびっくりだった。子供の大会だし、ソフト模擬戦だったからな。それに俺たちが代わりに出たことで、一生懸命に頑張って来た子供たちの出場機会を奪ってしまった。本当に申し訳ない。騎士として恥ずかしい。バコモンは優勝を逃した瞬間からいなくなってしまった・・・恥ずかしい話、俺たちも報酬はもらってないんだ」
ある意味、彼らも被害者だろう。領主の命令で来たのだから、従わざるを得なかっただろうしね。
しばらくして、冒険者ギルドのギルマスも到着し、驚きの事実を告げる。
「バコモンの奴はかなりあくどいことをしていた。この大会関係だけじゃなく、門下生を使って恐喝や強盗まがいのこともしていたからな。そんな汚れ仕事をしていた連中はバコモンとともに姿を消しているんだ」
バコモンとブラブカ道場の悪事は分かった。とりあえず、未払いの負債を確認しなければ・・・
会場使用料 金貨10枚
大会役員報酬 一人金貨2枚✕15人 計 金貨30枚
大会賞品(参加賞を含む) 金貨10枚
合計 金貨50枚
金貨50枚だと!!
1チームの参加費が金貨5枚だから32チームで160枚の収入がある。経費が帳簿通りだとしても110枚のボロ儲けだ。もし今年もブラブカ道場が優勝していたらこの件が明るみに出ることはなかった。だって、もう少し経費を抑えたら、1チーム金貨1枚でも十分に成り立つからね。だから、バコモンは何が何でも勝とうとしていたのだ。
それで、優勝できないと分かった瞬間にどうせならと思って、大会運営費を着服し、トンズラしたのだろう。
ここで祖父が驚きの発言をする。
「来年の大会実行委員長は、我がホクシン流剣術道場の道場主のエミリアじゃ。前倒しして、就任させようと思う。だからエミリア、必要経費はこちらで立て替えよう。そして、表彰式の準備も頼むぞ」
拍手が巻き起こる。
このクソジジイだきゃあ!!こんな時だけいい格好をしやがって!!
この状況で断ることなんてできず。私たちホクシン流剣術道場が支払うことになった。
表彰式なのだが、優勝トロフィーと賞状はあったので何とかなったが、賞品がすぐに用意できなかった。なので、大会の打ち上げのために用意していたワイルドボアとワイルドブルの肉を大量放出することになった。
そして、全チーム合同の大BBQ大会になってしまう。
もちろんこのお代も、私持ちだった。育ち盛りの子が多く、みんなよく食べる。ライライなんてあれだけ買い食いしたのに、まだまだ食べるのだ。ちょっとは気を遣えよ・・・
まあ、でもみんなの笑顔が見れてよかったと思う。
しかし、この負債は大きく、道場の貯金は無くなり、また綱渡りに道場経営に戻ってしまったのだった。
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次回から第二章になります。