11 第二回コーガル少年ソフト模擬戦大会 2
そしていよいよ決勝トーナメントが始まる。8つのチームがしのぎを削る。惜しくも特別チーム以外は初戦で敗退してしまった。いい試合だったけどね。負けた子たちを褒めたり、泣いている子を慰めたりしていたところ、ライライが子供たちに自分の大切なお菓子を差し出していた。優しいじゃん!!
「ライライ・・・」
しかし、子供たちに渡したお菓子が惜しくなったのか、やっぱり返してくれという仕草をする。
「ライライ・・・そこで返してくれはカッコ悪すぎるよ。帰りにまた買ってあげるからね」
「ライライ!!」
コイツは狙ってやっているのか?
そんなやり取りの後、準決勝が始まる。準決勝に進出したのは、ホクシン流剣術道場、プラク道場、オーソド剣術道場、ブラブカ道場のチームだった。プラク道場の代表者とオーソド道場の代表者が祖父に挨拶に来た。二人は元ホクシン流剣術道場の門下生で、今でも偶に模擬戦に来てくれる。プラクさんはいかにも冒険者という感じの中年の男性で、オーソドさんは対照的に騎士っぽい感じの人だ。プラクさんは実戦的で総合格闘術を中心に指導していて、オーソドさんは基本と型を重要視する指導をしている。こちらも対照的な二人だった。
「元気そうで何よりだな!!」
「お久しぶりです、先生!!」
「おお、二人とも元気だったか?子供のチャンバラごっこがここまで大きくなるとは思わなんだがな」
祖父は馬鹿にしているソフト模擬戦大会だが、二人は逆にいい印象を持ってくれているようだ。
「そんなことはないぜ。こういった遊びの中から、いいアイデアや技を思い付くんだ。どっかの誰かのように型ばっかり教えている奴にはない発想がな」
「プラク!!それは俺のことを言っているのか?だが、私もソフト模擬戦は評価しているんだぞ。ソフト模擬戦を子供たちが経験することによって、型の理解が深まった気がする。実戦で型をどう生かすかというな。例を挙げるとするなら、第三の型の突きを・・・・」
言い掛けたところで、プラクさんが遮る。
「もうその辺で止めろ!!試合が始まるからな。コイツは剣術馬鹿だから、話し出したら止まらないんだ」
「誰が馬鹿だ!!お前のほうが馬鹿だ」
二人は仲が悪いように見えて、お互いリスペクトしあっていて、この口喧嘩はいつもの挨拶みたいなものだ。そんなとき、二人は私に話し掛けて来た。
「俺たちは、エミリアの嬢ちゃんにも感謝してるんだぜ。俺たちの故郷であるホクシン流剣術道場を盛り立ててくれてな」
「それについては、この馬鹿に同意する。私が今あるのもムサール先生とあの道場のお陰だ」
祖父が言う。
「エミリアよ、面白いじゃろ?同じ指導をしても、全く対照的な二人が生まれるんじゃからな」
というか、「お前は碌な指導してないだろうが!!」とツッコムことは止めておいた。
そして、準決勝第一試合、ホクシン流剣術道場とプラク道場の試合が始まる。先鋒戦のルミナが登場する。ここまで、危なげない戦いで全勝で勝ち進んできた。ルミナだけでなく全員がだけどね。
「頑張れ!!ルミナ!!」
「ライライ!!」
アドバイスなどないので、とりあえずライライとともに声援を送る。
試合が始まる。開始の合図とともに相手が猛然とルミナに向かってきた。面食らったルミナは防戦一方だ。そして、相手の「二段突き」からの「二段斬り」であっさり一本を取られてしまった。
「びっくりしただろ?俺もだ。ガキどもには、ルール違反しなければ、何をしてもいいと指導している。後はテメエらで考えてやれってな。俺のガキどももやるじゃねえか」
「いい指導をされてますね。実戦であればルミナは死んでいましたね。彼女のためにもいい経験になったと思いますよ」
一本取られただけで、もう負けたような口ぶりの私だが、そう思うのには訳がある。ルミナは完全に浮足立ってしまって、本来の力を出せていない。実力ではルミナのほうが上なのにね。けど、こういった経験はルミナには大事だと思って静観することにした。
しかし、ここで予想外のことが起こる。ドノバンがルミナに声を掛ける。
「ルミナ!!落ち着け!!いつも通りにやれよ!!しっかり見ろ、お前なら勝てるぞ」
これで、落ち着きを取り戻したルミナは一本を取り返し、何とか引き分けに持ち込むことができた。
「お前のところのガキもやるな。あそこから持ち直すのは、なかなかできることじゃない」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
次のマインちゃんの相手はコボルトの少年だった。マインちゃんと同じくらいの小柄な体型だ。試合が始まるとマインちゃんも苦戦している。マインちゃんはスピードで自分よりも大きな相手を翻弄するスタイルなのだが、相手も同じタイプだった。
「自分自身と戦っている感じだろうな。これもガキどもが考えた作戦なんだぜ。凄いだろ?」
「そうですね。マインちゃんにもいい経験になると思います」
何だかんだ言ってもプラクさんは、子供たちのことを大切に思っている。いい指導者だと思う。
試合のほうは決着がつかず、引き分けになってしまった。これもいい経験だ。
続いてのレオ君の相手は、虎人族のトラゾウ君だった。トラゾウ君はちょくちょくレミールさんの体術教室に参加している子で、レオ君のライバル的な存在だ。準門下生といった感じなのだが、お兄さんがプラク道場に通っている関係で、剣術はプラクさんに習っている。その辺、ウチの道場はゆるゆるなのだ。
一方、試合の方は没収試合になってしまった。
お互い示し合わせたかのように獣化して戦い、最後の方はソフト剣もソフト短刀も使わず、殴る蹴るの喧嘩に近い感じになってしまった。再三の注意も二人は聞き入れなかったため、没収試合にされたのだ。
「あの馬鹿は!!レオと決着をつけるとか言っていたが、このことだったのか・・・帰ったらお仕置きだな」
「でも見ごたえはありましたよ。これが体術大会だったらとは、思いますけど・・・」
レオ君の場合、私が指導しなくてもレミールさんに激しくお仕置きされるだろう。
そして副将戦のリンだが、こちらは危なげなく二本勝ちをしていた。
「ザ・剣術って感じの奴だな。最近では珍しい感じの型通りの剣術だ。どっかの化石みたいな剣術道場の道場主みたいな・・・」
「それは俺のことを言っているのか?だが、彼女のことは評価しているぞ。あれは子供たちの模範となる剣術だ。大会が始まってから子供たちには、彼女の試合をよく見ておくように指導していたんだ」
リンは回復術師だけど、剣士としての才能もあるみたいだった。将来は回復魔法も使える戦士、聖騎士とかになれるかもしれないね。
そして最後の大将戦となった。
「俺だったら、1対0で勝っているから、のらりくらりと引き分けを目指すな。卑怯とは言わん、戦術だからな。それにたとえ一本取られたとしても逃げ切れば、本数差で勝てる。賢そうな奴だからそうするだろうな」
「卑怯ではないと思うぞ。ときには己を犠牲にする。それが騎士だからな」
しかし、この予想は覆されることになる。ドノバンはルミナがされたことの逆をしたのだ。開始の合図と同時にいきなり相手に突進し、「二段突き」からの「二段斬り」ですぐに一本を先取した。これで、我がホクシン流剣術道場の勝利が確定した。そして、後は守りに徹し、無理に攻めて来た相手をカウンターの突きで仕留めていた。
「末恐ろしいガキだな・・・ああいったのをセンスって言うんだ」
「その通りだ。型を知った上で、型を破る。まだ、ウチの子供たちには少し早いな・・・」
最高の評価を受けていた。指導者として本当に嬉しい。まあ、私はほとんど指導はしてないんだけどね・・・
そして、オーソドさんは私と祖父に礼をして去って行った。
「ムサール先生、エミリア嬢、私はこれで失礼します。決勝で会いましょう」
続いては準決勝第二試合なのだが、こちらも波乱が起こった。
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