106 ディアブル島救出作戦
巫女を引退した私だが、1ヶ月後に復帰することになった。
というのも、私をこき下ろした演劇は二部作で、次回作は聖女に諭されて、聖女とともに戦う仲間設定になったからだ。実際に見たが、巫女の剣術アクションは見事で、瞬く間に人気が出た。そうなると巫女待望論が加速し、私が復帰することになったのだ。
後で聞いた話だが、私のことを可哀想に思ったルミナが領主の権限で、演劇内容を変えさせたようだった。変更させなければ、もっと酷い悪役として登場する予定だったという。まあ、そんな感じで、私は巫女に復帰したわけだ。大半の者は私が引退したことさえ知らないので、「最近見なかったわね」くらいの感覚だったようだ。
私の話は置いておいて、もっと重要なことがある。
犯罪組織カラブリアの収容施設が判明したのだ。その施設とは、イシス連邦国の南にある孤島、ディアブル島で、人質が収容されているのだ。私が拷問をした者の中にも、カラブリアに家族が人質に取られて、泣く泣く命令に従っていた者も多くいた。
カラブリアの収容施設を突き止めたのは、イシス連邦国のリリアン女王だった。勇者養成コースを卒業したあのリリアン女王だ。
そして今、今後の対策を協議するため、主要国が極秘で会談をしている、それもコーガルで。
最近では、コーガルは国際都市になってしまっている。
今回の会議に出席したのは、リリアン女王の他にニシレッド王国国王、レコキスト王国メリダ王女、バンドラ王国グライドス王子、そして魔王だ。
まず、リリアン女王が、収容施設を突き止めた経緯について説明をした。
「ホクシン流剣術道場の勇者養成コースの同期のお陰です。彼らは国に帰ってからも独自で活動し、教会やカラブリアの情報を集めてもらっていました。私はそれを集約しただけです。勇者養成コースでは、もちろん戦闘力も上がりましたが、一番はこの勇者ネットワークですね。本当に大きな財産です」
路頭に迷っていた勇者を救済するための政策だったが、思わぬ効果をもたらしたようだ。
その後、今後の対応について協議することになった。
レコキスト王国のメリダ王女が言う。
「私もカラブリアの被害に遭った身です。すぐにでも施設に収容されている者を解放してあげたいです。ティーグやシェリルのように、人質を取られて、泣く泣くカラブリアに協力させられていた者は、大勢いますからね」
ティーグとシェリルは、国王の暗殺計画にも加担していたからね。
バンドラ王国のグライドス王子も続く。
「我が国も同じだ。多くの騎士団員が被害に遭った。そのこともあり、したくもない獣人国ベスティへの侵攻をさせられたのだからな。我もメリダ王女に同意する。すぐに解放すべきだ」
リリアン女王が言う。
「攻め入るだけなら、何とでもなります。問題はどのような大義を持って攻め入るかですね。収容施設は、表向きは教会の修行施設ですからね」
そんな時、ニシレッド王国の国王陛下が言った。
「実は聖人シビルから、我宛てに手紙が届いておったのだ。鑑定の結果、本人の直筆の手紙に間違いなく、収容施設の存在を仄めかす内容となっていた。そして手紙にはこう書かれていた。『私が死んだとしたら、その者たちの仕業だ』とな」
聖人シビルというのは、聖女と共に視察にやって来たあのシビルだ。こちらの工作で死後、聖人として祀り上げられた。それを利用したというわけだ。手紙についても、マホットが事前に書かせたもので、曖昧な内容になっており、何とでも解釈できるのだ。
それを利用するのか・・・
そういえば、マホットが恐ろしいことを言っていた。
「聖人シビルもあの世で喜んでいることだろう。これで奴との約束も果たせた。新教会のそれなりのポストどころか、聖女と並び称される存在となったのじゃからな。英雄は死して名を残すじゃな」
死んだら意味ないだろ!!
とはツッコミを入れなかった。
国王陛下が続ける。
「聖人シビルの手紙は、曖昧な箇所が多い。手紙を勝手に解釈して、攻め込むわけにもいかん。それで、マオ殿の知恵を借りたのだが・・・」
「そこからは、妾が話してやろう。こちらの戦力は充実しておる。まあ負けることはないじゃろう。問題はそこではない。ストーリーというか世界観を大事にしなければ、本当の意味で勝利したとは言えん。だが、心配することはない。こちらには役者が揃っておるからのう」
魔王が言うことは、もっともだ。
相手は教会、ストーリーや世界観を自分たちの都合がいいように作り変えることで、これまでやって来た、プロ中のプロだ。ここで私たちが、大した大義名分もないままに施設を強襲し、収容者を救出しても、教会は言い逃れをしてくるだろう。
魔王はそうさせないように対策を練っているのだ。
「こちらの役者は、聖女、巫女、聖人シビル、そしてリリアン女王を筆頭にした、世界各地に散らばる勇者たちじゃ。ざっくり言うと、聖女と巫女はいがみ合い、勇者たちはそれぞれで活動する中、聖人シビルの死をきっかけにストーリーが動き出すのじゃ。それぞれが独自に調査し、それが一つにつながる。聖女と巫女は和解して共闘を誓い、勇者たちは集結する。それに新しい経典が見付かるかもしれんしのう・・・」
魔王の世界観は完璧だった。世界観を誰よりも大切にしてきた魔王だからこその作戦だった。
つまり、別々の調査結果が、全てつながることで、真実味が増す。経典は「導きの洞窟」のダンジョンマスターのエレンシアさんにでも頼むのだろうけどね。
聖女、巫女、勇者には独自のファンがいる。勇者なんて、その国では国民的な英雄だそうだ。そうなると教会がいくら言ったところで、この世界観は覆せないだろう。そして収容者を救出し、カラブリアと教会をつなぐ決定的な証拠が見付かったなら、教会の存続自体が危ぶまれることだろう。魔王は、そこまで考えているのだ。
会議は、具体的にどうするかという議題になり、終了した。
会議終了後に魔王に呼ばれた。
「以前に世界観の関係で、厳しく叱責したと思うが、今の世界観を考えるとエミリアのやった行為は、「匂わせ」として利用できる。それに巫女と血塗れ仮面が同一人物という世界観、ここまでくれば、教会が悪事を働いていると、誰しもが思うじゃろう」
私は魔王の計画に沿って行動を開始した。
普段は極力巫女姿でいて、喧嘩やもめ事があると血塗れ仮面に大勢の前で変身して、現場に向かう。私としても、子供の頃の夢であった変身ヒーローになれたのだから、嬉しいかぎりだった。子供たちにも大人気だったしね。
しかし、私は辛い現実知ることになる。
ギルドの酒場で冒険者の会話を聞いてしまった。
「エミリア先生は、最近ヤバいよな?」
「ああ、結局俺たちはどうしたらいいんだ?気付かないフリをしたほうがいいのか?」
「でも同一人物だと気付いてほしい感じもするわ。それにしても痛いわね」
「世界観が分からないのよね。設定もブレてるし。痛い人と接するこっちの身にもなってほしいわ」
真実を知った私は、涙した。
テレビのヒーローが言っていた言葉を思い出した。
「ヒーローとは辛く、厳しいものだ」
私はその本当の意味が分かった気がした。
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